番外編1 木葉 恵
卒業式が終わった夕方。
「はあ、はあ」
静先輩達に捕まってて、遅れてしまった。
僕はこれから、学校近くの公園に向かっている。
なぜかと、言うと。
図書室で、恵先輩に抱き付かれた時。
”夕方、4時に学校近くの公園に来て”
と、耳元で囁かれたからだ。
店先に見える、時計を見てみると。
「うわっ、もう10分前!」
それに気付くと、進める足を更に早めた。
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目的の公園が見えた。
急いで公園に入ると、先輩が一人でブランコに座っている。
周囲には人の姿は無い。
少子化の上、最近は安全の為に、親の目の届かない所では遊ばせないから、子供の姿が見えないのだ。
そして、先輩を見ると、トレードマークのポニーテールを下ろしていた。
そんな先輩の側に、走って来た。
「はあ、はあ、はあ。
すいません、遅れました」
「うんん、別に急ぎの用じゃないから。
どうしたの、そんなに急いで」
「静先輩達に捕まってて、遅れました」
”もお、あの娘達はしょうが無いなあ”と言って、先輩が微笑んだ。
「ねえ、あーちゃん、今日、あなたを呼んだのはねえ。
あなたに、伝えたい事があったからなのよ」
そう言うと、先輩がブランコから降りて、僕の正面に近づいた。
「あーちゃん、私、あなたの事が好きなのよ」
「あなたは、抱き締めたくなる位に可愛くて。
甘え下手で、”側にいてあげないと”と、思ってしまうんだけど」
「でも、あなたは、私が傷ついた時は癒してくれた。
私が落ち込んでいた時は、慰めてくれた」
「のどかは、理想の人間関係は、依存しないけど。
お互いに、甘えたり、甘えられたりする関係だって言ってたけど。
私はあなたと、もっと深く、そんな関係になりたいの」
「ねえ、あーちゃん、私を付き合って欲しいの」
先輩が瞳に不安の色を見せながら、僕に語りかけた。
そんな先輩に、僕は。
「先輩、僕は先輩を初めて見て、”ああ、凄いなあこの人は”と、思っていました」
「先輩が、僕の”お姉ちゃん”に、なってくれるって言った時は、本当に嬉しかったです」
「でも先輩が、受験で追い込まれたり、面接前で沈んでいたりしていたの見ていたら。
どうにかしてやりたくなるんですよ」
「だから、先輩、僕の方こそ、一緒にいて下さい」
僕が先輩の目を見ながら、そう言うと。
「あーちゃん、嬉しい・・・」
先輩が涙を流しながら、僕に抱き付くと、頬を僕の肩に乗せる。
そんな先輩に僕は、抱き返す事で先輩に返した。
しばらく、そうしていると、不意に先輩が顔を上げた。
先輩が顔を上げると、瞳を閉じて、唇を軽く閉じていて、僕に何かを求めている様だ。
僕はその表情から、先輩のおねだりを察すると、ゆっくりと先輩の唇に僕の唇を重ねる。
・・・
僕は先輩の柔らかい唇の感触をしばらく感じた後、ゆっくりと唇を放した。
それから、先輩の顔を見ると、頬を赤らめながら夢見心地の表情で、僕を見ている。
そして、”ハッ”と気が付くと、恥ずかしそうに、頬をまた僕の肩に乗せた。
その状態で、もうしばらくいたら、先輩が。
「ねえ、あーちゃん、前に”あーちゃんが本当の弟なら良かったのになあ”って、言ってた事があるけど。
でも、本当の姉弟なら、恋人どうしにはなれないね」
「だけど、あーちゃんは恋人だけど、姉弟みたいな関係でいたいな。
ダメ?」
そう言いながら、先輩が顔をまた上げる。
僕は、そんな先輩に。
「ええ、良いですよ、”恵お姉ちゃん”」
そんな事を言うと、二人共、笑い出した。
笑いが止まると、先輩が。
「あーちゃん、お願いがあるんだけど。
私の髪を撫でてくれないかなあ」
「私、あーちゃんに髪を撫でられるのが好きなのよ。
だから、髪を下ろしたの」
「これから、ずっと髪を下ろして置くね。
その方が、あーちゃんにいつでも撫でて貰えるから。
だから、いつでも好きな時に、撫でて欲しいの・・・」
そう言って、目を閉じる。
先輩の御要望に応えて、僕は先輩の髪を梳った
先輩の髪は滑らかで、僕の指を通る先輩の髪の感触が気持ち良い。
「はあぁ・・・」
僕の指が通る度に、先輩が微かな溜め息を漏らす。
そうして先輩の髪を梳っていると、今度は先輩が背後から僕の頭を撫で出した。
その感触が心地良くて、思わず僕は。
「先輩、気持ち良いです・・・」
と、ウットリする様な声を出すと。
「あーちゃん、私も気持ち良いよ・・・」
先輩も、同じ様な声で返した。
僕達は、陽が傾いた、誰もいない夕方の公園で、抱き合いながら、お互いの頭を撫で合っていた。




