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番外編1 木葉 恵

 卒業式が終わった夕方。



 「はあ、はあ」



 静先輩達に捕まってて、遅れてしまった。


 僕はこれから、学校近くの公園に向かっている。


 なぜかと、言うと。


 図書室で、恵先輩に抱き付かれた時。



  ”夕方、4時に学校近くの公園に来て”



 と、耳元で(ささや)かれたからだ。


 店先に見える、時計を見てみると。



 「うわっ、もう10分前!」



 それに気付くと、進める足を更に早めた。



 ***************



 目的の公園が見えた。


 急いで公園に入ると、先輩が一人でブランコに座っている。


 周囲には人の姿は無い。


 少子化の上、最近は安全の為に、親の目の届かない所では遊ばせないから、子供の姿が見えないのだ。


 そして、先輩を見ると、トレードマークのポニーテールを下ろしていた。


 そんな先輩の側に、走って来た。



 「はあ、はあ、はあ。

すいません、遅れました」


 「うんん、別に急ぎの用じゃないから。

どうしたの、そんなに急いで」


 「静先輩達に捕まってて、遅れました」



 ”もお、あの娘達はしょうが無いなあ”と言って、先輩が微笑んだ。



 「ねえ、あーちゃん、今日、あなたを呼んだのはねえ。

あなたに、伝えたい事があったからなのよ」



 そう言うと、先輩がブランコから降りて、僕の正面に近づいた。



 「あーちゃん、私、あなたの事が好きなのよ」


 「あなたは、抱き締めたくなる位に可愛くて。

甘え下手で、”側にいてあげないと”と、思ってしまうんだけど」


 「でも、あなたは、私が傷ついた時は癒してくれた。

私が落ち込んでいた時は、慰めてくれた」


 「のどかは、理想の人間関係は、依存しないけど。

お互いに、甘えたり、甘えられたりする関係だって言ってたけど。

私はあなたと、もっと深く、そんな関係になりたいの」


 「ねえ、あーちゃん、私を付き合って欲しいの」



 先輩が瞳に不安の色を見せながら、僕に語りかけた。


 そんな先輩に、僕は。



 「先輩、僕は先輩を初めて見て、”ああ、凄いなあこの人は”と、思っていました」


 「先輩が、僕の”お姉ちゃん”に、なってくれるって言った時は、本当に嬉しかったです」


 「でも先輩が、受験で追い込まれたり、面接前で沈んでいたりしていたの見ていたら。

どうにかしてやりたくなるんですよ」


 「だから、先輩、僕の方こそ、一緒にいて下さい」



 僕が先輩の目を見ながら、そう言うと。



 「あーちゃん、嬉しい・・・」



 先輩が涙を流しながら、僕に抱き付くと、頬を僕の肩に乗せる。


 そんな先輩に僕は、抱き返す事で先輩に返した。


 しばらく、そうしていると、不意に先輩が顔を上げた。


 先輩が顔を上げると、瞳を閉じて、唇を軽く閉じていて、僕に何かを求めている様だ。


 僕はその表情から、先輩のおねだりを察すると、ゆっくりと先輩の唇に僕の唇を重ねる。



 ・・・



 僕は先輩の柔らかい唇の感触をしばらく感じた後、ゆっくりと唇を放した。


 それから、先輩の顔を見ると、頬を赤らめながら夢見心地の表情で、僕を見ている。


 そして、”ハッ”と気が付くと、恥ずかしそうに、頬をまた僕の肩に乗せた。


 その状態で、もうしばらくいたら、先輩が。



 「ねえ、あーちゃん、前に”あーちゃんが本当の弟なら良かったのになあ”って、言ってた事があるけど。

でも、本当の姉弟なら、恋人どうしにはなれないね」


 「だけど、あーちゃんは恋人だけど、姉弟みたいな関係でいたいな。

ダメ?」



 そう言いながら、先輩が顔をまた上げる。


 僕は、そんな先輩に。



 「ええ、良いですよ、”恵お姉ちゃん”」



 そんな事を言うと、二人共、笑い出した。


 笑いが止まると、先輩が。



 「あーちゃん、お願いがあるんだけど。

私の髪を撫でてくれないかなあ」


 「私、あーちゃんに髪を撫でられるのが好きなのよ。

だから、髪を下ろしたの」


 「これから、ずっと髪を下ろして置くね。

その方が、あーちゃんにいつでも撫でて(もら)えるから。

だから、いつでも好きな時に、撫でて欲しいの・・・」



 そう言って、目を閉じる。


 先輩の御要望に応えて、僕は先輩の髪を(くしけず)った


 先輩の髪は滑らかで、僕の指を通る先輩の髪の感触が気持ち良い。



 「はあぁ・・・」



 僕の指が通る度に、先輩が(かす)かな溜め息を漏らす。


 そうして先輩の髪を梳っていると、今度は先輩が背後から僕の頭を撫で出した。


 その感触が心地良くて、思わず僕は。



 「先輩、気持ち良いです・・・」



 と、ウットリする様な声を出すと。



 「あーちゃん、私も気持ち良いよ・・・」



 先輩も、同じ様な声で返した。


 僕達は、陽が傾いた、誰もいない夕方の公園で、抱き合いながら、お互いの頭を撫で合っていた。



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不思議な先輩女子と、平凡な後輩男子との不思議な話。
夏の涼風
姉弟物の短編を取り揃えていますので、どうか、お越し下さい。
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