第124話 停電の中の天然先生
ある日の放課後。
今、僕は準備室で、新入荷の本に、保護シールを貼っている作業の途中である。
先輩方3人は今日はいない。
静先輩とのどか先輩は、予備校の講義で、麗子先輩は、家の用事で今日は来ていなかった。
しかし、今、僕は一人でいる訳では無い。
「あーちゃん、一人で大丈夫?」
川尻先生の、ノンビリとした声がする。
そう、川尻先生が一緒に準備室にいるのである。
先生は、入荷した本の確認の為に、ここにいた。
「はい、一人で出来る所まではしますので」
僕はそう言って、更に作業を進める。
そうやって、僕が本のシール貼り、先生が確認をしていると
「(フッ)」
イキナリ、蛍光灯が消えた。
「あれ、あーちゃん、電気が消えたね」
「停電じゃないですか?」
どうやら停電したようなので、周りを確認する。
窓を開けて、学校近辺を見てみると、この付近一帯が停電したみたいだ。
校舎を見ても、電気が点いている部屋は無い。
校庭の方は、すでに運動部の練習も終わった所らしく、一人もいなかった。
一方、部屋の中は、春まだ早い時期なので、日も落ちてかなり薄暗くなっている。
「先生、目が馴れるまで、ジッとしてください」
しばらくジッとしていると、目も暗闇に馴れて来たけど、それでも注意しないと動けない。
「あーちゃん、そっちにいるのね」
「先生、急に動かないで下さい」
僕がそう言うけど、急に動いた為に、先生が何かにつまずいてバランスを崩した。
「キャッ!」
「先生!」
倒れそうになった先生を、僕が受け止めると。
「先生、大丈夫ですか」
「あーちゃん、ありがとう。
別に、何とも無いよ」
先生がそう言うので、大丈夫そうだ。
「先生、しばらくジッとした方が良いですよ」
「うん、分かったわ」
僕の言葉を受けると、先生は僕にしがみ付いたままジッとした。
そして、しばらくそのままでいると。
「(ブルッ)」
「先生、寒いんですか?」
「うん、暖房が切れたから寒くなっちゃった」
どうやら、停電で空調が切れたから、タダでさえ温まりにくい部屋が寒くなったみたいだ。
それに作業の邪魔になるので、先生は上着を脱いでブラウス姿である。
何だか、寒そうな先生を見かねて、僕は。
「(シュル、シュル、ふぁさ)」
「あっ!」
上着を脱いで、先生の肩に掛けてやった。
「これで、少しは寒くは無いですよね」
「あーちゃん、・・・服にあーちゃんの温もりが残ってて暖かい」
そう言って、目を閉じて、僕の温かみを味わっている先生。
「(ブルッ)」
しかし、今度は、僕の方が振るえ出した。
「ねえ、あーちゃんの方が寒そうだから、これ返すね」
「ダメですよ、先生、そのままでいて下さい」
先生が上着を返そうとするのを、僕は断る。
「じゃあ、こうするね」
そうすると、先生が両手を大きく僕に背中に伸ばして、思いっきり僕に密着してきた。
となると、当然、先生に掛けた上着が落ちそうになるので。
僕は上着が落ちない様に、先生を強く抱き締める。
「はあ・・・」
その瞬間、先生が僅かに溜め息を漏らす。
「あーちゃん、これで寒く無いよね」
「はい、先生、暖かいです・・・」
僕は、密着している、先生の暖かさと柔らかさを感じていた。
「(パッ)」
そうしていると、蛍光灯が点いて、電気が回復した。
「あ、電気が点いた」
「やっと、電気が来ましたね」
「ねえ、あーちゃん」
「何ですか、先生」
「部屋が温まるまで、このままでいて良い?」
「・・・良いですよ」
こうして僕は、先生の御要望に応えて、部屋が温まるまで先生を温めていたのだった。




