第12話 天然天使のお出迎え3
静先輩が向かえにきた次の日。
ホームルームが終わり、帰りの支度をしていると。
「おーい!あーちゃん!(やほー)」
と、僕を呼ぶ声がしたので、教室の出入り口の方を見ると。
のどか先輩が、ニコニコしながら、こちらに向かって手を振っているのが見える。
そして、それと共にクラス全員の視線が、僕の方に向かう。
好奇の視線と、「爆発しろ!」と言うような、憎しみの籠もった視線が半々の男子と。
同じく、好奇の視線が大半だが、中には、一連の騒動で何かに目覚めたのか、まるで獲物を狙う猛獣の様な視線の女子の姿があった。
僕はそれらの視線に耐えきれず、カバンを持って急いでのどか先輩の所に行った。
「せ、せ、せ、先輩、ど、ど、ど、どうしたんですか!」
「うん、今日は私が来る番だから(どしたの)」
余りの教室の空気に僕はキョドったけど、先輩はいたってマイペースだ。
「それじゃあ、行こうか(れっつごー)」
と、僕の左腕に右腕を組んで、僕を引っ張って行く。
その姿を見た、クラスの空気が更に禍々(まがまが)しくなった。
頼むから、長閑なのは、名前だけにしてよーーーー!
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先輩は僕を引っ張りながら、機嫌良く言った。
「んー、今日も良い天気だったね(るんるん)」
「はーーーーー」
「ん、何か、疲れてるみたいだね(だいじょうぶ)」
って、あなたの所為でしょう!
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先輩の行動に疲れていると、目の前にこの前、3人に襲われた空き教室が見えた。
「そうだ、ねえ、ちょっとあそこによってこ(ねえねえ)」
ん、どういう事ですか?
そのまま、空き教室に引っ張られて行った。
「ねえ、そこに座って(おねがい)」
すると、今度は誰も使っていない椅子に座る様に言われた。
意味が分からないけど、取りあえず座る。
椅子に座ると、僕の頭が先輩の胸付近になった。
「じゃあ、今度は目をつぶって(ねっ)」
しょうがないので、言われるがままに目をつむる。
すると、僕の頭が何かに包まれた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
先輩が僕の頭を胸に抱きしめたのだ。
僕の顔は、先輩の胸に埋まる形になった。
僕は急いで脱出しようとしたが。
「あーちゃん、お願い、じっとして」
いつもと違う真剣な声で言うので、僕は大人しくジッとした。
「あーちゃん、疲れてるのは、私の所為でしょ」
本当はそうだけど、先輩の様子がいつもと違うので、心配かけたくない為に。
「いいえ、違いますよ」
と答えたが、先輩は。
「ううん、あーちゃん、優しいから、私を気遣うけど、私は分かるんだ」
「私、こう言う性格だから、知らない間にあーちゃんに負担を掛けてしまってるんだね」
「私はこの性格を直す気も無いし、負い目を感じるつもりは無いけど、それで、あーちゃんに負担を掛けるのは辛いな」
と先輩は、僕に語りかけていた。
「私、あーちゃんを癒す方法を知らないから、私が出来る事をしてるけど、あーちゃん迷惑?」
僕は否定の意味で、首を左右に振ろうしたが、抱きしめられているので、わずかに動くだけだった。
その瞬間、先輩がビクッと体を振るわせた。
「お、お願い、あーちゃん、動かないで・・・」
その上気した声を聞いて、動くのを止めた。
そして、先輩は、僕の背中を擦りながら。
「ありがとう、あーちゃんが少しでも癒せる様に、しばらくこうさせて」
僕はあふれる程の安心感に包まれていった。
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「あーちゃん、元気になれた」
という声が聞こえたので、顔を上げると、優しい微笑みをたたえた、先輩の顔が見えた。
「はい、ありがとございます」
と、僕も笑顔で答えた。
「あー、もおー、こんな時間」
先輩は時計を見て、焦りだした。
放課後になってカナリ経ってる。
僕は椅子から立ち上がった。
「さあ、急がないと(あせあせ)」
僕らはまた腕を組ながら、図書室へと向かった。




