第117話 バレンタインデー5
その日の放課後。
「はあっ〜」
今日は疲れたなぁ。
朝は恵先輩と有佐先輩。
休み時間は、美咲先輩。
昼休みは、廊下で翠先輩、図書室に着いてから、静先輩、麗子先輩、のどか先輩と。
チョコを貰うのは嬉しいけど、その他の事で色々とあったからなあ。
さすがに、もう無いだろう。
そう思いながら準備室で、一人、テーブルに突っ伏せしていると。
「あーちゃん」
僕は背後から、自分を呼ぶ声に気付き、振り向いたら。
そこには、ニコニコ顔の川尻先生がいた。
「先生、どうしたんですか?」
「今日は、バレンタインデーでしょう。
はい、あーちゃん、チョコだよ」
そう言って、僕に先生がチョコレートを渡してくれた。
「あ、ありがとうございます、先生。
でも、先生、教師が生徒に渡して良いんですか?」
「ん、本当はダメだけど、あーちゃんだけは特別よ。
これは、私とあーちゃんだけの、ひ・み・つ」
右人差し指を唇に当てながら、そんな事を言う先生。
・・・先生、良いですか、バレたらまた教頭先生から御説教されますよ。
そう思いながら、チョコレートをテーブルの傍らに置くと、先生が。
「ねえ、あーちゃん、これだけじゃないの」
「? 何ですか?」
「ちょっと、こっちに来て」
そう言って、先生が長椅子の方に誘った。
先生が長椅子の左端に座ると。
「ほら、こっちに座ってよ」
自分の右側を叩いた。
そうして、先生の隣に座ると。
「えいっ!」
「うわっ!」
先生が、僕を抱き付くと、自分の方に僕を引き倒した。
「ほら、足を長椅子の上に置いてよ」
先生の言う通り、足を長椅子の上に置くと。
僕は、上半身を先生の膝の上に、置く形になった。
「先生・・・」
「あーちゃん、可愛い♡」
そうして、上半身を膝に乗せた先生は、僕の頭と胸を抱き締めると。
丁度、赤ん坊を抱き上げた形に、僕はなってしまう。
その事に気付くと、僕の顔は火が出る程、熱くなった。
「せ、先生、止めてください」
僕は恥ずかしくなって、そう言うが。
「ねえ、あーちゃん、おっぱい飲む?」
「え、そ、そ、そんなあ・・・」
先生がそう言うと、僕はこれ以上無い程に狼狽えた。
「うふふ、冗談よ♪
でも、それぐらい、あーちゃんは可愛いと思っているんだからね」
「・・・」
そう言いながら、先生は、僕の頭を胸に抱き締める。
柔らかく暖かで、良い匂いがする先生に抱き締められた僕は。
その安心感からか、瞼が重くなって来た。
「眠くなったら、寝ても良いよ、ちゃんと起こすからね♪」
先生が、僕の頭を撫でながらそう言った。
僕は、先生の言葉に甘えて、先生の胸に頬をくっ付けながら、襲ってくる睡魔に身を任せていった。
こうして僕の人生で、これ以上無いバレンタインデーは、終わったのだった。




