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第106話 寒い日の帰り道

 ある日の放課後。



 今日は、麗子先輩と一緒にカウンターに座っている。


 静先輩とのどか先輩は、久しぶりに予備校に行く日であった。


 麗子先輩と、カウンターに座っていると。



 「最近は、特に寒いね。

ただでさえ暖房が利かないのに、余計に寒いよ」



 先輩が、使い捨てカイロを揉みながら、そう言った。



 「この間、大雪も振りましたし、やっぱり、一番寒い頃だからですよ」



 先輩のその言葉に、僕はそう応えた。


 見ると、先輩が何だか寒そうにしている。



 「先輩、寒いんですか?」


 「うん、寒いのは寒いけど、上に何か羽織ほどでも無いよ」


 

 隣に座っている、僕の方を見ながら先輩がそう言った。


 でも、女の子だから、余り体を冷やさない方が良いと思うけど。


 そう思い、僕は先輩の背中に、ジャンバーを掛けてやった。



 「あ、あーちゃん、大丈夫だよ、私は」


 「先輩、女の子は体を冷やさない方が良いですよ。

僕のジャンバーの方が、先輩のコートよりも短いから、椅子に座った時、下が余らずに邪魔になりませんよ」


 「ありがとう、あーちゃん・・・」



 僕の事をジッと見詰めながら、先輩がそう言った。


 そうして、先輩は僕のジャンバー羽織ったまま、開いた前の両サイドを握って引き寄せてると、そして目を閉じて、何かを感じ取っていた。



 ***************



 「もう時間だから、帰りましょうか」



 先輩がそう言って来た。


 時計を見ると、もう全生徒下校の時間になっている。


 校門が締まる前に、帰りましょうか。



 「あーちゃん、これ、ありがとうね」



 そう言って、先輩がジャンバーを返してくれた。


 先輩が羽織っていたジャンバーを、学生服の上から着た。


 すると、(かす)かに、甘い匂いが(ただよ)って来た。


 ・・・先輩の匂いだろう。


 少し熱くなる頬を誤魔化す様に、帰り支度を急いだ。



 ***************



 二人で通学路と歩いている。


 昼間が一番短い頃なので、外はすっかり暗くなっている。


 そんな通りを、二人で歩いていると。


 

 「(ピュ〜ウ〜)」



 冷たい北風が吹いているので、僕は先輩が風下になる様に、風上側に移動した。


 それに気付くと先輩が。



 「ありがとう、あーちゃん」



 と、微笑みながらお礼を言った。


 それから、僕の方を見て。



 「あーちゃん、首もとは寒く無いの?」


 「あー、少し寒いかも」



 そうなのだ、いつも着ているジャンバーが、汚れてクリーニングに出せているので、今日はいつもと違う物を着ているのだ。


 いつも着ているのは、首もとまでカバーしているが、今日着ているのは、そこまでカバーしてなくて、首もとがスカスカである。



 「今日は、いつもと違うジャンバーを着てるから」


 「マフラーは巻かないの?」


 「いつもは必要ないから、するのを忘れたのですよ」



 僕がそう言うと、先輩が僕に近づき、自分が巻いていたマフラーを解くと、それを半分、僕に巻いた。


 そして残りの半分を、先輩自身の首に巻くと。



 「これで、寒くは無いよね♪」



 そう明るく言ったが、その顔は赤かった。


 それに釣られて、僕の顔も熱くなる。



 「ねえ、早く行きましょう、遅くなるよ」



 先輩は赤い顔を誤魔化す様に、僕に寄りそうと、そう言った。


 僕と先輩は、一本のマフラーを二人で巻きながら、二人で寄り添って歩くと、暗くなった道を駅へと向かって行った。



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不思議な先輩女子と、平凡な後輩男子との不思議な話。
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