第106話 寒い日の帰り道
ある日の放課後。
今日は、麗子先輩と一緒にカウンターに座っている。
静先輩とのどか先輩は、久しぶりに予備校に行く日であった。
麗子先輩と、カウンターに座っていると。
「最近は、特に寒いね。
ただでさえ暖房が利かないのに、余計に寒いよ」
先輩が、使い捨てカイロを揉みながら、そう言った。
「この間、大雪も振りましたし、やっぱり、一番寒い頃だからですよ」
先輩のその言葉に、僕はそう応えた。
見ると、先輩が何だか寒そうにしている。
「先輩、寒いんですか?」
「うん、寒いのは寒いけど、上に何か羽織ほどでも無いよ」
隣に座っている、僕の方を見ながら先輩がそう言った。
でも、女の子だから、余り体を冷やさない方が良いと思うけど。
そう思い、僕は先輩の背中に、ジャンバーを掛けてやった。
「あ、あーちゃん、大丈夫だよ、私は」
「先輩、女の子は体を冷やさない方が良いですよ。
僕のジャンバーの方が、先輩のコートよりも短いから、椅子に座った時、下が余らずに邪魔になりませんよ」
「ありがとう、あーちゃん・・・」
僕の事をジッと見詰めながら、先輩がそう言った。
そうして、先輩は僕のジャンバー羽織ったまま、開いた前の両サイドを握って引き寄せてると、そして目を閉じて、何かを感じ取っていた。
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「もう時間だから、帰りましょうか」
先輩がそう言って来た。
時計を見ると、もう全生徒下校の時間になっている。
校門が締まる前に、帰りましょうか。
「あーちゃん、これ、ありがとうね」
そう言って、先輩がジャンバーを返してくれた。
先輩が羽織っていたジャンバーを、学生服の上から着た。
すると、微かに、甘い匂いが漂って来た。
・・・先輩の匂いだろう。
少し熱くなる頬を誤魔化す様に、帰り支度を急いだ。
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二人で通学路と歩いている。
昼間が一番短い頃なので、外はすっかり暗くなっている。
そんな通りを、二人で歩いていると。
「(ピュ〜ウ〜)」
冷たい北風が吹いているので、僕は先輩が風下になる様に、風上側に移動した。
それに気付くと先輩が。
「ありがとう、あーちゃん」
と、微笑みながらお礼を言った。
それから、僕の方を見て。
「あーちゃん、首もとは寒く無いの?」
「あー、少し寒いかも」
そうなのだ、いつも着ているジャンバーが、汚れてクリーニングに出せているので、今日はいつもと違う物を着ているのだ。
いつも着ているのは、首もとまでカバーしているが、今日着ているのは、そこまでカバーしてなくて、首もとがスカスカである。
「今日は、いつもと違うジャンバーを着てるから」
「マフラーは巻かないの?」
「いつもは必要ないから、するのを忘れたのですよ」
僕がそう言うと、先輩が僕に近づき、自分が巻いていたマフラーを解くと、それを半分、僕に巻いた。
そして残りの半分を、先輩自身の首に巻くと。
「これで、寒くは無いよね♪」
そう明るく言ったが、その顔は赤かった。
それに釣られて、僕の顔も熱くなる。
「ねえ、早く行きましょう、遅くなるよ」
先輩は赤い顔を誤魔化す様に、僕に寄りそうと、そう言った。
僕と先輩は、一本のマフラーを二人で巻きながら、二人で寄り添って歩くと、暗くなった道を駅へと向かって行った。




