第105話 大雪の中で
ある日の朝。
今日は大雪が降っていた。
僕は辛うじて電車で学校に出る事が出来たが、路線によっては、運休やダイヤが乱れていた。
それで、学校に出てみると、生徒の半数程度は出ていない様だ。
学校に着いてしばらくすると、校内放送で、生徒及び教員の半数が出ていないので、臨時休校になったと放送された。
当然、出て来た生徒の間には、大ブーイングの嵐が湧き起こった。
しばらくしてブーイングが収まると、生徒達が文句を言いながら帰り支度とするが。
列車の運行状況からすると、出て来れても、無事に帰れるとは限らないみたいだ。
開いているかどうか分からないけど、とりあえずカバンを持って、図書室の方に行ってみる事にした。
図書室に向かって歩いていると、向こうに良く見る女の子の姿が見えた。
「静先輩!」
「あれ、あーちゃん」
「こんな所でどうしたんですか?」
「うん、電車が落ち着くまで、図書室に行こうと思って」
「あーちゃんはどうしたの?」
「僕も同じ理由ですよ」
僕達はそう言いながら、図書館へと向かう。
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図書室に着いてみると、扉に”閉館中”の札が刺さっていた。
「やっぱり、閉まってますね」
「先生、今日は来てないんだねえ」
僕がそう言うと、先輩もそう言った。
川尻先生、自動車通勤だから、この雪だと車が使えないから、多分来ていないだろう。
道路の方は、電車以上の惨状らしいから。
「で、どうしましょうか?」
「ねえ、あーちゃん、校庭に出ない」
「?」
急にそう言って、先輩が僕を誘ったのだった。
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二人は下駄箱で靴を履き変えて、校庭に出ていた。
校庭は、一面の銀世界で、雪も10センチ以上は積もっているだろうか。
僕は厚手のジャンバーを着て、先輩は膝までの長さのコートに、首にはマフラーをしている。
カバンはと言うと、校舎側の方に置いてあるのだ。
そして、先輩が校庭の中心に向かい、何歩か歩き出し、それから、その場にしゃがんだ。
「一体、何をするつもりですか?」
疑問に思い、先輩に尋ねた。
「それは、こうするのよ!」
先輩が起き上がると、イキナリ、雪玉をぶつけて来た。
「さあ、こっちにいらっしゃい!」
先輩が、大きく手を振って、僕を挑発した。
僕は、それに乗って、先輩を追い掛ける為に、走り出した。
すぐに追いついて、先輩を捕まえられそうになるが。
すると、先輩が僕の顔目がけて、雪玉を投げる。
それから、もう一度捕まえそうになるが、そうするとまた、先輩が雪玉を投げて来る。
何度かそれを繰り返して、僕の顔が雪まみれになって、やっと、先輩を捕まえられる所まで来た。
「きゃっ!」
そして、やっと先輩を捕まえるが、バランスを崩して倒れそうになる。
それで慌てて、先輩が上になるように、僕は体を回転させた。
「ぽすっ」
僕は雪の上に、背中から着地した。
先輩は、僕の上でしがみ付いている。
「あーちゃん、大丈夫?」
「雪の上だから、大丈夫ですよ」
僕は笑いながら、先輩を抱き締めた。
雪の上に寝っ転がっているけど、ジャンバーのせいか冷たさは余り感じない。
先輩はと言うと、僕の上に乗っかったままで、僕の胸に顔を埋めていた
僕の上に乗っている先輩の体重が、心地良く感じられる。
僕は、そんな先輩の髪の毛を、梳る様にして撫でる。
そうすると、先輩の僕を抱き締める、腕の力が強まった。
ふと、空を見上げれば、空から雪がチラついて来た。
”これは家に帰れるかな?” と内心、ちょっと思ったが。
空からの幻想的な光景と、腕と体に感じる先輩の重さと感触に、このまま身を任せて、なにも考えない様にした。




