9.【狂気】生き返って捕まってみた。
―――少年は、何者かによって囚われる。
『―――れん! ―――――だ――――――ん!』
誰かが、俺を呼んでいる声がする。
何度も、何度もその声が俺を呼んでいる。
幻聴ではないのか。そう考え始める俺。
だって自分は死んだのだ。痛いし、寒いし、何の感覚だって無いのだ。
だから、これはきっと幻聴だ。やっぱり、そうなのだ。
『―――ぐれん!』
(―――桜花……?)
俺を呼ぶ声はどうやら桜花だったらしい。
そういえば、せっかく生きるって決めて共に契約までしたって言うのに、すぐに死んじゃったせいで結局契約を守れなかったな。
……そう、後悔しながらも俺は拳を握り締めた。
『もう……目を覚ますのだ! お前は、まだ生きて……っ!』
桜花の、泣く声が聞こえる。
―――ポタッ……と何か暖かい物が俺の頬に落ちるのを感じる。
「―――緋神君……! 目を、覚ましてよ……っ!」
(この……声は……?)
よく、聞いていた声だ。
好きだった人の声が聞こえる。
じゃあ、やっぱり俺は死んだんだ。
これはきっと、走馬灯のような物だろう。じゃなければ、あの人の―――影咲の声が聞こえる訳がない。
「まだ……お礼も出来てないのに……っ!」
『そうだ……ぐれん! お前はこの娘にお礼を貰っていないのだ! だから早く起きて何でも貰え!! 起きろ、起きるのだ!!』
だんだんと俺を呼ぶ声がハッキリとしてきた気がする。
まさかこれは、やはり幻聴などでは無いというのだろうか。
なら、身体が動かせ―――
(る……?!)
拳が、動く。
おかしい。何でだ。
俺は、死んだはずじゃ無かったのか。
影咲を庇って、背中を抉られて。
―――あんなに痛くて、寒かったのに。
(俺が……生きている?)
『―――手が……っ!』
「蒼華さん!」
「うん、分かってる!」
「すぐに運びなさい!」
「―――ああ、でも皆さん! あの城にはもう行かない方がいいですよ!」
「だね。兄さんの言う通り、何処か別の場所を探そう!」
「「了解!」」
何を、話しているんだろう。
ああ、駄目だ。だんだんと考えられなくなってきた。
やっぱり、俺は死ぬんだろうな。
だってもう、意識を保っているのが―――むず、かし―――――
◆
「―――ダメッ! 激しく動くと傷口が開いて……!」
「……っ! 蒼華さん、一旦止まりましょう!」
「わ、分かった!」
麗と影咲の指示で、蒼華は立ち止まった。
するとやはりその指示通り、蒼華の背負う紅蓮の背中からは血が垂れてきていた。
『そんな……っ! ワタシの治療はやはり……完全では……』
「そんな事ありませんよ。誰だか知りませんが、貴女のお陰で紅蓮はこうしてまだ生きてくれているのですから」
『で、でもワタシは……』
「兄さんも謎の声さんも今はいいから! とにかく今は、センパイの事だけを……はぁはぁ……考えて……ください……ね?」
冥は変に欲情しながらも、そう忠告した。
確かに、と冥をスルーし言い争うのをやめた桜花と悠は、再び思考を切り替えた。
『……ワタシが治癒をかけ続ける。だから、その間にぐれんを治療出来る場所に運んで、守ってやってくれ……!』
「貴女が治癒を……? でも、貴女が誰だか分からないと……」
『ワタシは剣に宿る精霊みたいなものなのだ! いいから詳しい話はあとだ! とにかく今はワタシをぐれんにかざし続けながら治療が出来る場所まで運んでほしいのだ!』
「わ、分かりました!」
今思いつくのは、桜花にはこれしかなかった。
とにかく紅蓮を助けたい一心で、必死に捻り出した作戦。
しかし他の5人にも考えられる時間は無く、とにかくそれでいこうと桜花の作戦を受け入れ、駆け出したのだ。
途中、他のハンターたちやクラスメイトたちは残ったモンスターたちと戦っていたが、そんなものは無視し平原を駆け抜けていった。
―――治療できる場所なら心当たりが皆にはあった。
5人には、王の命で付けられたメイドさん―――名前をメリドと言うのだが、そのメリドが教えてくれた事の中に、“怪我をされた場合は自分が私用で使っている部屋を訪ねろ”と言われていた事を思い出したのだ。
メリドはどうやら王の立ち振る舞いにはうんざりしている……というかもう見限っているような態度をしていて、始めから影咲たち5人にはかなり尽くしてくれていたのだ。
だからこそ、信頼できる。
そう思って5人は、謎の声―――桜花の治癒とメリドを治療を信じて駆けた。
■
「―――ひとまずは、峠は越しました」
そう言って、メリドは現れた。
「そう……ですかっ……!」
そのメリドの言葉に、影咲は思わずへたりこんで涙を流してしまう。
―――あれから5人は、メリドの言っていた部屋を訪ね、事情を説明した後紅蓮の回復をしてもらった。
だいぶ傷は深かったようだが、桜花の治療も幸いし、背中に傷跡は残ってしまうものの、生活に支障が出るレベルにはならずに済んだようだ。
「それにしても……この子―――」
「どうか、したのですか?」
紅蓮を見て何かを思ったかのように呟くメリド。
そんな彼女の様子に疑問を感じた麗はそう問いかけた。
するとメリドはこう答えた。
「いやぁ……ま、そうだねぇ。―――青春だな、って思ってさ。はは」
「そ、そうですか……」
いや、きっとそんな事を言いたかったんじゃない。
今、明らかな間があった―――とこんな状況下でも麗は脳を働かせる事をやめなかった。
「―――あ、っと……そんな事よりさ」
「どうかしたんですか?」
再び何かに気づいた様子のメリドに、またも再び麗が問いかける。
するとメリドは、メイド服のポケットから一つの鍵を取り出してくるくると回して見せつけたのだ。
「そ、それは……?」
「―――これね? 貴女たちがいつか“絶対”にあの城から出ていく〜って言い出すと思って、手回ししといたのよ」
「て、手回しですか……?」
「ええそうよ。これは、この建物の最上階の鍵なの。とっても広いし、色んな用途の部屋があるし、外には庭とプールまであるのよ!」
「え、い、いやそんな高価そうな部屋の鍵は受け取れません!」
「いやいや。お金はいらないんだって。いいから、その子の為にも貰っときな」
「で、ですが……」
そう言って鍵を押し付けてくるメリドに対して、麗は再三頭を働かせた。
何かの意図がある……そう思ってしまって仕方がなかったのだ。
しかし、メリドは麗の耳元でこう囁いた。
「―――いいから。あそこは、完全なプライベートな空間なの。王の手も届かない、密会とかするような場所なのよ。その為の細工も色々と施してあってね……?」
「プライベートな……空間ですか」
「そ。―――で、その子を匿うには丁度いいかなって。まあ元々は皆に贅沢してもらいつつぅ〜? その恩恵を私が受けられればいいなぁ〜なんて思ってた訳だけど」
「め、メリドさん……」
麗は呆れていた。
がしかし、この話は理にはかなっていた。
紅蓮は国王やクラスメイトから忌み子扱いをされ、その事についてどうにかしようとしていた矢先のこの話だ。
匿うのに最適なプライベートの空間。そんな空間を作るための細工。
そして同じ建物内にはこのメリドがいる。
ほぼ、完璧な状態と言ってよかった。
「でも、本当にいいのですか?」
「うん、もちろん構わないさ〜。男女の青春を楽しみたまえよ〜」
そう言うと、メリドはその鍵を麗に手渡した。
「しばらくは私がハウスメイドとして住まわせてもらう形になるけど、ある程度部屋の説明とかできたら別のメイドちゃんを用意するからね」
「い、いえ! そこまでして頂かなくても……!」
「ううん。私がそうしたいからするの。それに皆はまだ子供なんだから、甘えられる内に甘えときなさい?」
人差し指を立てながら、叱るようにそう言ったメリドの言葉には妙な説得力があった。
まあ条件は最高以上の物だし、自分たちに得しかない物だから「それなら」と麗は首を縦に振る。
「それじゃあ早速行ってみましょうか!」
「はい!」
■
メリドに案内されるがまま、影咲たちはその建物の最上階へと来ていた。
この建物は古びた遺跡の近くにあり、現代風に言うなればタワーマンションのような建物だった。メリド曰く、半分より上は色々な機密データが隠されていたりする重要な場所で、半分より下が国王の関係者の個人的な住居と言う事になっているらしい。
そして、そんな重要なデータが保管されている場所だからこそ、セキュリティーは万全であり、秘匿性も極めて高いのだとか。
そんな建物の最上階は、なんと秘密裏に入国した他国の重鎮だったり、国王に隠れて何かをする為に術師の力をふんだんに使った場所らしい。
一応最上階と、その一つ下の階がそういう用途で使われる階であるため、最上階は譲ってもいいとの話が前から出ていたらしい。
長いことこの建物に住んでいたメリドだからこそ、その判断を任されていたのだと。
どうやらメリドは、相当長い間色んな人に媚を売り、ようやくあの最上階の権利を獲得するのに至ったようで、少しだけ自慢げにそう語っていた。
「こーゆー時に、国王の側近てのは役に立つんだけどね」
なんて皮肉みたいに言ってたりもしたが。
「いや〜、でも君たちも見る目あるねぇ〜?」
「な、何がでしょうか」
「いや、そりゃあの王様からすぐに離れた事だよ! いやぁ、すごい判断力だね!」
「そ、それは……」
嬉々とした様子でそう言うメリドに、麗は苦笑いで応える。
それもそのはずだ。だって後ろにいる4人の殺意がもう可視化できるレベルまでに達していたのだから……あの人の前にいれるわけが無い。
そう、溜め息をつきながら考える麗。
「はい、それじゃあ早速ごあんな〜い―――」
かくして。
影咲たち5人と、治療の終わり眠る紅蓮。そんな紅蓮を心配する剣“桜花”と、5人が思っていたよりもすごい人だったメリドの計7人+桜花は、急遽与えられた豪邸へと入っていく。
―――ここで、また新たな生活が幕を開けようとしていた。
◆
―――ジャララ……
「……ん、ぅ?」
開いた目から、ゆっくり光が差し込んでくる。
俺は、光の眩しさに驚きながらも、少しずつ脳が覚醒していき……そして自分の状況を理解していく。
―――さっきまで自分は死んでいたはず。
だが、かろうじて生きているところまでは覚えている。
けど結局意識を失って、それから俺はどうなって……
―――ジャララ……
(あれ……? 手が動かない。ん……足も?)
―――ガシャン。ガシャン。
何か金属の音がして、俺の手足は動かなくなっていた。
(……は? ナニ、コレ)
少しずつ、意識が、覚醒していく。
自分の、今置かれている状況を、理解していく。
―――両手に付けられた拘束具。両足に付けられた拘束具。
身体を縛りつける、鎖。
どうやら俺は。
(監禁されてる……っ!?)
―――何者かによって、厳重に監禁されてしまったみたいだ。
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