8.覚醒して魔獣を討伐した。
―――少年の死が、彼女たちを“至らせた”。
「―――ァ……う」
痛い。
背中が、熱い。吐きそうなくらい、痛い。
尋常じゃない痛みと、ぼやける視界を埋め尽くす赤。
―――俺はもうすぐ死ぬのだと、脳で、肌で感じられた。
『―――ん――――――れん!』
誰かが俺を呼んでいる気がする。
でも、もうそれすらも聞き取りにくいみたいだ。
感覚器が、死んでいる。
体温すら、分からなくなってきている。当然身体も動かない。
思考も、出来ない。
(でも。それでも……あの人たちを、影咲を守れたのなら俺はそれで―――)
◆
彼は、目を閉じてしまった。
血はまだ止まっていない。それなのに、目を閉じてしまった。
当然身体は動かない。
触れてみても、その身体は冷たく、全ての情報が彼の“死”を意味していた。
そこへ通りかかる、一人のハンター。
「ふっ……クハハハ! 遂に死んだか! 馬鹿な奴め!!」
そのハンターは、彼を殺した獣種のモンスターを串刺しにしながら現れた。
「お前……はッ!」
「おいおいお前とはなんだ。―――一国の王に向かって、無礼な口の聞き方だな」
―――ペイン国王。
そう、つばを吐きながら現れたのは紛れもない、その人だった。
「さあ、こんな“ゴミ”に構っている余裕は無いぞ。早く残りのモンスターと、リーダーの“魔獣”を殲滅しなければ! 早く行くぞ!」
そう言い残すと、王は剣を持って駆けていってしまった。
しかしその場にいた面々は、誰一人としてその言葉に耳を傾けていなかった。
たった一人。されど一人。
とても大切な人だった。
6人にとって、自分自身を構成する一部となっている人。
それくらい、大切な人。
必要とする意味も、目的もそれぞれ違う。だけど、居なくちゃならない人。
―――それが、目の前で消えていった。
それも、仲間を庇って。
「心配……かけさせておいて……っ。久々に面見せたと思ったら、何て、酷い面してんのよ……!」
蒼華はその顔を、優しく撫でる。
たった一人の、大切な家族の冷たい顔を。
「そう……だよ。なんで、センパイが……死ななきゃ、ならないの……っ?」
冥は顔をくしゃくしゃにしながらも、その手を握った。
赤い血に染まった、その冷たい手を。
「私が……俺が……僕が……君を、守れなかったから……! いつも、いつもそうだ……! 僕は、君を守れない……っ!」
悠は拳を握り締め、その場に佇むのみだった。
後悔に胸を灼かれ、血が出るほど、強く、強く握り締めた。
「後輩……君は、何故我々の調律を乱すのだ。君が居ないと、彼女たちは……っ! 私だって……不安なのに……っ!」
麗はその脳内に立てられていた作戦が全て、ことごとく崩れ去っていくのが分かり、焦っていた。
「貴方は……私を庇って―――何で。何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何でッ!!!」
『ワタシが、ちゃんと止められていればこんな事には……ッ!』
「あア……ァ……ァアア」
『ぐれん……ぐれん……ぐれんぐれんぐれんぐれんぐれんぐれんぐれんぐれんぐれんぐれんぐれんぐれんぐれんぐれんぐれんっ!』
『「あああああああああああああああああああああああっ!!!」』
影咲と、桜花の叫び声は平原に響く。
しかし、いくら叫ぼうとも失った物は戻ってこない。
だからこそ。
だからこそだ。
「「「―――殺す」」」
彼女たちが、一つ上の高みへと辿り着いたのは。
―――彼の死が、彼女たちを“覚醒”させたのだ。
「私が―――国王も、魔獣も、有象無象も殺す」
「僕も、手伝いますよ。ゼッタイニ、ニガシマセン……カラ」
「私も殺りますよ。邪魔な物は全部排除しないと……ですもんね」
蒼華と冥は、闘気を極限まで解放し、悠は闘気に水の魔力を解放していた。
「全ては、無事に帰るため……その為にも、こんなところで負ける訳にはいかないわ」
「絶対ニ―――殺ス」
麗は光の魔力を、影咲は闇の魔力を解放していた。
そして桜花は―――
『何としても……お前を救ってみせる……っ!』
己の力を総動員し、死という絶望に至った紅蓮を何とか救おうとしていたのだ。
しかし当然、桜花の存在には気づいていない5人。
全員、ゆらゆらと不気味に揺れながら、近くのモンスターたちを攻撃し始めた。
「―――死ね」
「彼の前から失せろッ!」
蒼華と悠は、怒りに身を任せるようにバッタバッタとモンスターをなぎ倒していく。
「アハハハッ! センパイが味わった痛みを貴方達にも与えてアゲルッ!」
冥はその手に、“闘気”を“具現化”して創った爪をモンスターたちに突きつけながら突進していく。
さらに。それに合わせるように影咲も魔法を放った。
「―――皆、居なくなればいいんだよ」
そんな不気味な言葉と共に放たれた魔法は、一瞬にしてモンスターの一群を覆い尽くした。
そこには黒いモヤが発生していて、どうやらモンスターたちの視界を奪っているようだった。
「―――アイツら、すげぇな!」
「―――ああ、みるみるうちにモンスターを倒していくぞ!?」
そんな4人の様子を近くで眺めていたクラスメイトたち。
彼らは、まさかその4人がたった一人―――自分たちが忌み子扱いしていた人物のために戦っているとは思いもよらない訳だが。
「―――マズいッ! “魔獣”がそちらへ抜けて行ったぞッ!!」
すると突然そんな声が上がり、直後ハンターたちの間を駆け抜けて“召喚者”たちの前に現れたのは黒い人型の化け物だった。
「きゃぁぁぁっ!!」
「な、何だよコイツっ!!」
動揺する仲間たち。
しかし、そんな敵将にも驚かず立ち塞がったのはやはり影咲たちだった。
「―――そもそも。アナタが生まれなければこんな事にはならなかったんじゃナイカナ……? カナ……?」
「言われてみれバ、そうじゃないですカ……。センパイをあんなにした元凶は、コイツにあるわけですね……?」
「殺す……あの子を虐めるやつは、全員殺してやる……」
「僕も、手伝いますよぉ……? あは、アハハハ―――」
まさに狂気だった。
目の前に居るのは、紛れもない化け物だ。確実に、自分たちよりも格上の相手だ。
そんなのまだ冷静な麗なら一瞬で分かっていた。
しかし、他の4人は違った。
それすらも分からなくなるくらい、判断力を失っていたのだ。
だからこそ、相手が強大だと分かっていても立ち塞がってしまう。戦おうとしてしまっている。
『俺ヲ捨テタ……アイツラモ、貴様ラモ、全員―――八ツ裂キニシテヤルゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!』
直後響く“魔獣”の咆哮。
化け物も化け物なりに悩みが……恨みがあるようだが、その程度の恨みでは影咲たちには勝てなかった。
―――そもそも、比じゃなかった。
「―――煩い黙れよ」
グシャァァァッ……!
『イッ―――ガァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』
蒼華は瞬時に“魔獣”へと詰め寄り、気づけばその右腕を握り潰していた。
潰した手からは血が吹き出し、それを蒼華は気持ち良さそうに浴びている。
「アハハハッ! アハハハハハッ!」
『フザ……ケルナッ―――』
「―――それはどっちの台詞でしょうねぇ?」
ゴリィッ……!
『ヴッ……アァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』
続けて冥が“魔獣”の腹を思い切り蹴り上げ、“魔獣”の骨が折れる音を周囲にまで響かせていた。
「良くやった冥。後は任せろ」
「兄さん。お願い―――」
「―――あア」
そしてさらに、気づいた時には。
蹴り上げられた“魔獣”よりもさらに高く飛んでいた悠が、水で出来た魔法の槍を持って“魔獣”を見下ろし―――見下していた。
「―――死ネ」
そのまま、悠は水の槍を“魔獣”へ向かって投げつける。
当然回避の取れない“魔獣”は槍に当たり、そのまま垂直に地面へと突き刺さってしまう。
『―――ガァ……ァ……アッ!』
「まだ―――死なないでよ」
『……ェ……何ヲ―――』
そこに近づく、一人の少女。
―――影咲は、手に黒い魔力を可視化できるほど溜めていた。
『ソレハ……闇……ノ―――』
「―――消エテ」
そうして。
影咲が闇の魔力を解き放つと、“魔獣”は瞬時にして塵となって消えてしまったのだ。
麗はただ、それをあ然と見ていることしか出来なかった。
この4人はどこかがおかしい。そんな、圧倒的な狂気を目の当たりにして、思考が出来ないくらいに脳内はぐちゃぐちゃになっていた。
そして、そんな混乱を極めていた時だった。
『―――ぐれん、ぐれん! 聞こえるかぐれん!!! もう治療は終わった……! だから、早く起きるのだ!!!』
そんな、誰の物かも分からない声が紅蓮を呼んでいるのが聞こえた。
しかしその声に……言葉に誘われるように影咲たち5人は彼の側へと寄っていく。
「誰……なの」
蒼華はその声に問いかけた。
しかしその声はそんな問いなどお構いなしに叫び続ける。
『ぐれん! ぐれん! もう目を覚ましても良いのだ! 早く目を開けるのだ!』
剣は問いかける。
―――自分に、“桜花”と名付けてくれた親愛なるマスターの為に。
何度も。
―――何度も。
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