7.皆がピンチだったので庇ってみた。
―――少年は、儚く散ってゆく。
太陽が天に輝く頃。
ペイン王国のハンターや、国外から応援に来たハンターたちは国王の前へと集っていた。
もちろん影咲たち“召喚者”も例外では無い。
「皆のもの、聞けい!」
王は集ったハンターたちに呼びかける。
全員の視線は国王ただ一点に集中される。
「現在我らの王国に、魔獣を筆頭とするモンスターの群れが進軍して来ている! このまま放置すれば、我らは奴らに殺されてしまうだろう!
しかし! 我らは力を持たない生き物ではないッ! 武器を、魔法を使う事ができる! 故に我ら人類は強いッ!
良いか皆のもの。必ず生きて帰ってくるのだ! 魔獣共を皆殺しにしてやれッ!!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」」」
王の鼓舞に、集まったハンターたちは皆呼応する。
武器を、拳を天に掲げ、己の強い意思を王に示すために。
「皆……私たちも、頑張ろうね」
「ええ。こんなところで死ぬ訳にはいかないもの」
蒼華の呟きに、麗は拳を固く握り締めながらそう答えた。
冥も悠も、当然影咲もその意志は固い。
各々に、死ねない理由があるのだから。
「でも、こんな大きな事件が我々の初戦闘なんて……結構キツイ話ですね」
「確かにそうだね、兄さん」
「でも、絶対生き残ってみせましょう!」
そう。彼らにとってはこの依頼が初めての戦闘なのだ。
そうだと言うのに、その相手は魔獣という凶暴化し自我を失った人間が筆頭のモンスター軍団だと言う。
初回の依頼にしては、中々にハードな話だ。
昨今のこういう類のゲームにしたって、もう少し最初は易しいというのに。だ。
「―――敵の軍勢は間もなく、古びた遺跡の裏の森に差し掛かるとの報せが来ている。あの森の東側には広い平原がある為、そこまで誘導してからの出撃としよう!」
王はそんな作戦をハンターたちへと伝えている。
その作戦は、術師たちによる誘導魔法で魔獣たちを森の東の平原に誘導し、そこで殲滅を行うというものだ。
広い平原の方が見通しもよく、指示も出しやすければ動きやすいという利点がこの作戦の根幹にあるらしい。
確かに、理にかなった作戦だと麗も思っていた。
「準備が出来たものから、平原に集まるのだ! 皆の無事を願っている! ―――では、出撃だ!!」
王の号令で、ハンターたちは準備を剃るために散り散りになっていく。
―――突如訪れた“災厄”。
魔獣殲滅戦の、開幕である。
◆
『起きろ! 起きるのだぐれん! 頼むから早く起きてくれ!』
「んぁ……? もう朝か……?」
桜花の騒がしい声で、俺は目を覚ました。
眠くて気だるい身体を、ゆっくりと動かし、意識を覚醒させていく。
「で……どうしたんだよ桜花。朝からそんなに騒いで―――」
『やばいのだ! 本当にヤバいことになったのだ!!』
「ヤバいことに……? ちょ、ちょっと落ち着いて状況を説明するんだ、桜花」
本当に一体どうしたというのだろうか。
桜花と出会ってからまだ日も浅いが、ここまで騒がしいのは初めてだ。
『う、うむ……。落ち着いて、聞いてほしいのだ』
「ああ」
空気が重くなった気がする。
という事は、それだけ重大な事なのだろう。
『先程、“魔獣”の反応を感知したのだ』
「さー……ばんと?」
確かそれって、“魔力”が多すぎるが故に暴走し、人では無くなってしまった化け物……だったか。
それを桜花が感知したって事は、もしかして相当近くに現れた……とでも言うのだろうか。
『うむ、魔獣なのだ』
「でも、その“魔獣”がどうしたってんだよ。まさか俺がそいつに狙われている訳でもあるまいし」
『ま、まあそうなのだが……。でも違うのだ! それよりも、大変な事になっているのだ……』
「大変な事……?」
『そう! 聞いて驚くでないぞ。―――この森の近くに、“魔獣”のみならず、様々な種類のモンスターが感知できたのだ』
様々な種類のモンスター、か。
でも、別にそれだけなら驚く理由にもならないはずだよな。
いや、桜花が初めて見るような魔物だったら驚くのも無理は無いかもしれないが、流石にそんな事は無いだろう。
となれば、問題なのはそこじゃなくて―――
「―――数、か」
『おお、良くわかったなぐれん! そうなのだ! 驚くべきなのはそのモンスターの数なのだ!』
「……どれくらいいるんだ?」
『……ワタシも自分を疑ったが……感知できたのは、1000を超えていたのだ』
「せ、せんっ!?」
1000を超えるモンスターの群れに、オマケに“魔獣”がついてこの森に接近してきていると言うのか。
いや、いやいやいやいやいや。
(いや、嘘だろ?)
数体だったら何とか逃げられたかもしれないが、1000は無理だ。絶対無理だ。
「ま、マジかよ……俺、こんなところで死ぬなんて嫌だぞ……?」
『あ、安心しろ! 対処法なら考えてある!』
「ほ、本当かよ!」
『うむ!』
「で、どうするんだ?」
俺は期待と不安の混じった目で桜花を見つめる。
すると桜花はぶんぶんと振り回りながらこう叫んだ。
『お前は弱い! だけどそのお陰で“魔獣”はもちろん、モンスターにも無視されるだろう! だから、木の上で震えて隠れていればいいのだ!!』
「え……?」
聞き間違いだろうか。
相棒だと思っていた剣に、弱いと言われたのは。
『だから隠れているのだ! さ、早く!』
「……うっ……うう。いつか、いつか強くなってやるからな……!」
どうやら、聞き間違いでは無かったようだ。
俺は相棒に「弱い」と宣告され、しぶしぶ木の上に登ることにした。
隠れてやり過ごすしか、ないみたいだ。
―――と、思っていると。
「んぁ……あれは何だ?」
『む……? あれは……』
木の上にひょひょいと登ると、目の前にはあの古びた遺跡があって―――じゃなくて、その左側だ。
そこには広い平原があったのだが、何もないその場所に、沢山の人が集まっているのが見えたのだ。
あれは一体、何かの催し物でもあるのだろうか。
『もしかして、奴らはモンスターの軍勢を討伐しに来たのではないのか?』
「……はっ、そうか。なるほど!」
桜花の呟きに、俺の脳内は一気に明るくなった。
助けが、助けが来てくれたんだ!と。
『なら、本当にここに隠れていれば安全かもしれないのだ!』
「え、本当にって……まさか安全じゃない可能性があったのかよ」
『い、いやぁ? もとから安全だったのだ〜!』
「いや、お前さぁ―――」
『―――む。静かに……来たのだ』
突然、桜花がそう俺を黙らせた。
刹那、森の中にはまるで暴走族が来たかのような爆音が鳴り始める。
―――ギャァァァ、ギャァァァ!
―――グルルァァァァァ!!
―――フガォォォォァォォォ!!
まさに魑魅魍魎。百鬼夜行。
ドドドドドッ!という大きな足音と共に、そのモンスターたちは現れた。
「こんなに……居るのかよ」
『静かに。奴らが通り抜けるまで静かにしてるのだ……』
「あ、ああ」
幸い飛んでくるタイプのモンスターはおらず、地上、森の中を駆け抜けていく奴のみだった。
お陰で俺は見つかる事なくやり過ごす事に成功する。
そのまま俺は視線を先程見た平原の方へ向ける。
するとそこでは、早速モンスターたちとハンターたちの戦闘が始まっていた。
―――その光景は、まるで戦争のようだった。
「これが……戦い」
『うむ。しっかりと、見ておくのだ。ぐれんもいつか、戦えるようにな』
「ああ、分かってるさ」
魔法が飛び交い、血が飛び交い。
こんな遠くからでも見えるその戦闘風景に、若干の吐き気を催しながらも、俺は目を離さず彼らの戦いを見ていた。
屈強な戦士から、か弱そうな女術師まで様々な人が戦っていた。しかし思ったよりも皆苦戦しているようで、モンスターにやられている人も多々居た。
特に森の近く。あそこの5人組はかなり苦戦している様子で―――
(ってあれ、マズくないか……? 一番奥の女の子、後ろからモンスターが来てることに気づいてない……よな)
気づけば俺は、木から飛び降りようとしていた。
しかし桜花がそれを引っ張って俺を逃がすまいとする。
『待つのだ! ぐれん、お前が行っても何にもならないぞ! ただ死ぬだけだ!』
「で、でも……!」
あのままじゃあの子は死んでしまう。
だけど桜花の言う通り、俺なんかが行ったところでどうにもならないのは事実だろう。
(だけど……っ!)
「―――って、あれは……あいつらは……っ!」
『ど、どうしたのだ……?』
「嘘、だろ……?」
あの5人組。
その顔は、見たことある人物の物しか無かった。
『おい、ぐれん!!』
気づけば俺は飛び出していた。
好きな人たちを、守りたい……その一心で。
◆
「やあぁぁぁっ!」
「ふっ、はっ!!」
蒼華と悠が、前衛でモンスターたちを倒しまくっていく。
冥は後衛組の麗と影咲を守りながら、前衛組の防衛を抜けてきたモンスターを蹴り倒していた。
「皆さん、回復を!」
「援護しよう!」
後衛組も、それぞれの力で前衛組を全力でバックアップしている。
連携は、完璧だ。
しかし、さすがに戦闘初心者。いや、初心者と呼ぶにも拙いその戦闘技術では限界があるようで、全員とも既にボロボロになっていた。
―――あれから、すぐにハンターたちは平原に集まり、そして次第に作戦は実行された。
森を通過してきたモンスターたちは、ハンターの集う平原に現れて、程なく戦闘が開始されたのだ。
そしてそれから約10分。
影咲たちの限界は、既に近かった。近くにいた“召喚者”たちも同様に。
だからだろう。
注意が散漫し、背後から近づく別のモンスターの気配に気づかなかったのは。
『―――グギャァァァァァァッ!』
「か、影咲さんッ!!」
冥は麗の近くに寄ってきてしまったモンスターを倒していて、影咲の近くには居なかった。
振り返った時には、既に時は遅かったのだ。
「―――ヒィッ……! わ、私はまだ……死にたくなんか……っ!」
獣種のモンスターの鋭い爪が、今―――振り下ろされた。
影咲の願いは虚しく、辺りには鮮血が舞う。
刹那、5人の気は動転してしまう。
―――そう、影咲たち、5人の……だ。
「えっ……?」
目の前で、誰かが倒れた。
その背中からは、血がドクドクと流れている。
「嘘……なんで、君が……ここに?」
影咲はそう呟いた。
いや。影咲だけじゃない。蒼華や冥、悠までもがその人物を見て、「嘘だ」と呟き、頭を降った。
もちろん、麗も例外ではなく、思考が、脳内が歪んでいくのがわかった。
『ぐれん……ぐれん! ぐれんっ……目を覚ましてくれ、ぐれぇぇぇぇぇぇぇん!!!!』
―――緋神紅蓮。
彼は、モンスターに襲われそうになった影咲を庇って……そして重症を負ってしまったのだ。
辺りには、紅蓮の手に握られていた“桜花”の、悲痛の叫び声が響き渡った。
―――日はもう、沈みかけていた。
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