49.光と闇
―――希望と、絶望。
「アハハ……こんな不意打ち、久しぶりに受けちゃったなぁ……」
目の前でメリドが苦しそうに倒れながら、そう呟いていた。
腹から横に、まるで胴体を切断するかのような切り傷が彼女のお腹にはあって、そこからドクドクと血が流れ出ていた。
「今のは……影咲ちゃんの……?」
「ううん。別に私の命令じゃないよ〜? 今のはこの子が勝手にやっただけ♪」
右手に握っていた黑紅の槍が、勝手に動き出して、私の腕ごといきなり振るわれたのだ。私だってびっくりしてるもん。
「アハハ。ワタシ、血を見るのは怖かったはずだし、アナタが傷つくのも何だか嫌な気持ちになってた気がするんだけど……不思議と今は何でもいいやって気持ちになってるんだ。……なんでだろ〜?」
『不思議です。私も人を傷つけるのが何だか楽しくって……本当はこんな気持ちになるはずなんてないのに……。まるで私が私じゃないみたいです……』
さっきは発狂してた槍ちゃんだけど、その時に多分この子の中でも何か理性の糸のような物がプツッと途切れたのだろう。
タガが外れたような、そんな気持ちに私達はなっていた。
「ふーっ……ふーっ……。魔法の勉強してて良かったよ。いやホント……お陰である程度傷は塞がったけど……」
と、メリドはよろめきながらも何とかその場で立てるレベルまでは回復を果たし、私たちの前に再び立ちはだかった。
しかし見ると、彼女傷はまだ完全には塞がってはいないようだった。
「さて……と。影咲ちゃん、貴女……私に何か聞きたいことがあるんじゃない?」
「何それ。時間稼ぎのつもり? それならワタシ……とっとと外に出たいんだけど」
「あらら……なんで私が貴女にさっきの映像を見せたのかは聞かないの?」
「んー? それってたまたまなんじゃないの?」
「……ッ。ありゃ、これもバレてるんだ。―――そうだよ。たまたまさっき外で影咲ちゃんの魔法っぽい火の玉を捕まえたから、直接本人に聞こうと思ってたんだけど、影咲ちゃんってば“知らない”って言うからさ……」
メリドの隣に、さっきの映像を見せてきた火の玉―――私の使った闇魔法の火の玉がカゴに囚われたまま転がっていた。
でも、確かにあの魔法は私の魔法だけど、どんな効果があって、どんな事をしてくるのかは正確に理解できていなかったのだ。ただ頭の中に『使わなきゃ』っていうイメージが流れてきたから使っただけで。
―――まさか、その魔法からあんな映像が見れるとは思ってなかったけど。
「―――それで? 話はもう終わり〜?」
「う〜……そう、だねぇ。これ以上影咲ちゃんを引き止める理由も話題も無くなっちゃったけど……でもやっぱり、発明者に会うまでは影咲ちゃんには暴れてほしくないかなぁ……って私は思うけど」
「暴れる? ふふっ……何をいってるのメリド。別にワタシたちは暴れるつもりなんてないよ? ―――ただ壊すだけなんだから」
「それが暴れるってことなんだよー……もう」
これ以上は話しても意味がないだろう。
先程から話が全く進んでないし、やけに洞窟の出入り口の方をメリドガ気にしているみたいだから、きっと時間稼ぎをされているのだろうとも予想できる。
それなら。
「ごめんね、メリド。ワタシ、探さなきゃいけないからさ」
「探すって、何を……?」
「何って……そりゃさっき見えた“あの人”だよ♪ ―――それと、あの人にまとわりつく汚らわしいメスのところにも……」
……あ、れ。
今、自分でそう答えて何か胸の内に妙な引っ掛かりを覚えた。
―――どうして私、さっき見た映像に出てきた少年が“あの人”だって分かったの? 顔も名前も思い出せなかったはずなのに……どうして?
「う……頭が、痛……い……!」
何……これ。
いきなり私の頭の中は、ジワジワと広がる嫌な痛みに支配されていく。
私が、私じゃない私に侵食されていくような―――嫌な感覚だ。
「ああ……アアアァッ…………!」
「か、影咲ちゃん……?」
痛い……痛い……。
寒い―――苦しいよ。
『ど、どうかしたんですか……マスター……!』
「わかんない……ワカンナイよ……ッ!」
変なことを思い出したせいだ。
一分一秒と、時間が進む度に私の頭は痛く、体は寒く、心は苦しくなっていく。
「まさか魔人化した影響で消えてたはずの記憶が、ちょっとずつ蘇って……混濁してる……の? だとしたらそれって……私のせいなんじゃ―――」
消えてたはずの、記憶?
一体メリドは何を言っているのだろうか。
でも、そんな事を気にする余裕は私にはほとんど無かった。
視界がだんだんと暗くなってくる。
『あぁ……虚ろな目をして……! 何か、何かマスターを助けられる方法は―――』
私を、助けられる方法……?
そんなの、一つしかないよ―――
「たす……けて―――ぐ………………れ―――――」
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」
私が何かに縋るように、手を伸ばした時のこと。
刹那、凄まじい叫びが洞窟内に響き渡った。
直後ドガーン!という爆発音にも似た衝撃音がすぐ近くで鳴った。
恐らく、何かが私たちのいる洞窟の壁に打ち付けられたのだろう。
私は何故かそれを、震える足で探そうとした。
「い……ったた…………なん……だよアイツら……!」
声が聞こえる。
聞き覚えのある、声が。
「うぁ……めちゃくちゃ飛ばされたはずなのに、そんなにダメージを受けた感覚はない……な」
ポロッ……という瓦礫の崩れる音と共に、声は続けて聞こえてきた。
多分、この声の主がたった今この洞窟まで吹っ飛ばされてきた“何か”の正体なのだろう。
「……それにしても、ここは一体…………」
ああ、でももう駄目だ……。
足が、脳が……動いてくれない。何も考えられないし、一歩も動ける気がしない。
やがて私の全身から力が抜けていき、握っていた槍はカラーンという少し甲高い音と共に地面に落としてしまっていた。
―――せっかく、あの人の事が何か思い出せそうだったのに。
せっかく、自由に行動できるようになると思ったのに。
結局私は、足手まといのまま消えていくんだ。
『あ……マスター……っ!』
足元がよろめいて、気づけば私は前に倒れていた。
地面が、私の体を引き寄せるように離してくれない。もう、限界なのだろう―――
あはは……何だか、情けないや―――
「おっ、と……。大丈夫、ですか……?」
ぽふっ。
そんな、優しい音がして。私は何者かに抱き止められていた。
瞬間香る、懐かしい匂い。鼻を突き抜け、脳を蕩けさせるような、甘ったるいくらいの匂いが、した。
「ふぇ……?」
「結構周りが暗くなってたので、全然気が付かなかったですけど……気づけてよかったです」
その人の声は、私の顔の近くで聞こえた。
匂いが鼻と脳を蕩けさせるのと同じくらい、その人の声は私の耳を通って脳を支配しようとしていた。
それくらい、甘美なものだった。
「あな……た……は?」
「俺ですか? 俺は―――」
それは、私がずっと求めていたモノで。
それは、私にずっと欠けていたモノで。
それは、私の存在理由で。
「俺は―――緋神紅蓮、って言います。えっと……あなたは?」
そう言って彼は、屈託のない笑顔を私だけに見せてくれた。
その瞬間、私の中で……再び。
―――今まで保たれていた理性が、その心のタガが……粉々に砕け散った。
そして話は、今に至るよりも前。
およそ数十分前まで遡る―――
次回更新日→10日(日)
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大正コソコソ裏話
今日の話の終わらせ方めっちゃ迷いました。色々選択肢があったんです。
例えば捕獲エンドとか乱戦エンドとか死亡エンドとかファイナルクライマックスエクストリームエンドとか。




