6.魔獣たちの軍勢が襲来してきた。
―――女の勘は、よく当たる。当たるのだ。
『結構危なかったのだ……』
「だな……」
あれから俺たちは、何とか襲いくるイノシシ達を殲滅し回収。
合計で6体のイノシシを狩ることに成功したのだ。
その全ての死体を拠点へと持ち帰り、一旦休憩をしていた。
「さて、これ……どうするかな」
『調理して食べればいいのではないか?』
「って言われてもな……調理方法を知らないんだ、俺は」
料理が出来ないわけじゃないが、流石に俺が扱えるのは処理済み加工済みの食料だけだからな。
当然魚や獣などの解体なんてした事は無い。姉ちゃんならこういう事が得意そうなものだが。
『うむぅ……では仕方ないのだ!』
「桜花?」
やれやれ、と言った様子で桜花はひとりでに動き出した。
あの時と同じく、ふわふわと俺の目の前で浮いている。
『ワタシがコイツらを解体してやるのだ!』
「え……? ちょちょちょ待ってくれ! お前、解体方法なんて分かるのか!?」
『うむ! 正しい知識かどうかは分からないが、見様見真似なら出来るのだ!』
「ほ、ホントか?」
『信じてくれ、なのだ!』
正直あまり気乗りはしない。どうにも信用出来ない……が、別に疑っている訳でもない。
このまま腐らせるよりかは数億倍マシ……そう思った俺は頷いた。
「分かった。それじゃあ解体、頼んだぞ!」
『任せろなのだー!』
◆
「―――今、誰かの声が聞こえなかった?」
「いや、聞こえなかったけれど」
「あ、そう。聞き間違いかなぁ?」
蒼華が何かを聞き取ったのか、仲間達に尋ねてみるも自分以外はどうやら誰にも聞こえなかったらしい。
確かに何か声が聞こえた気が……そう悩む蒼華だったが、そんな悩みは一瞬にして消え去る事に。
「―――皆さん、どうやら到着したようですよ」
悠がそう言って立ち止まった先にあったのは、件の古びた遺跡だった。
意外にも大きかったその遺跡に驚いた影咲達は口を大きく開けていた。
「おっきいんですね……」
「ですね……」
特に後輩組―――影咲と冥は特に驚いていたが。
そんな中でも麗はやはり冷静に作戦を考えていた。
「さて、一応ここで目的を再確認しておきますが、今回の依頼内容は至ってシンプルです。遺跡内にある壁画と錆びた宝剣の状態確認……たったのこれだけです」
「ぱっと見てぱーっと帰ろうよ!」
「蒼華……貴女ねぇ。まあでも、彼女の言う通り早めに終わらせて帰るほうが懸命かもしれません。ここは古びた遺跡ですから、中で何が起こるか分かりませんし」
天井が崩壊して生き埋めになるかもしれないし、モンスターに襲われて殺されてしまうかもしれない。
あらゆる可能性を麗は想定し、慎重に考えた上でそう提案したのだ。
決して蒼華と同じような適当な考えではないのだ。
「それじゃあ行きましょうか」
麗は仲間を先導しながら進んでいく。
遺跡は皆の想像していたモノよりもだいぶ綺麗で壊れる様子もなく、モンスターが出てくる気配もしなかった。
遺跡内が安全だと分かると、全員観光気分でサクサクと進んでいき、やがて大きな空洞へと辿り着いた。
「うわぁ〜、すっごい綺麗!」
空洞に出ると、そこの正面の壁には大きなステンドグラスのような物が飾られていた。
虹色に輝く、とても綺麗な物だった。
「あれが、壁画……なんですかね?」
「恐らくそうかと。他にそう言ったような物はありませんから」
影咲の疑問に、辺りを一通り見渡した悠がそう答える。
しかし同時に、悠はさらなる疑問を感じていた。
「ですが……何か足りない気もするんですよね」
「兄さん、どうかしたの?」
悠の呟きに、冥が反応を示した時だ。
「ああっ、これは!」
「ど、どうかしたのかしら!?」
突然蒼華が大声を上げて、それに麗が素早く反応したのだ。
他のメンバーも蒼華のもとへとすぐに集まった。
「見て……これ、剣が―――」
そう言って蒼華が指差した場所には、明らかに剣が飾ってありそうな祭壇があったのだが。
そこには肝心の、剣が無くなっていたのだ。
「―――無い、ですね」
「です……ね」
しかも剣が無いだけじゃこの問題は終わらなかった。
剣の代わりとして、とある物が側に置いてあったのだ。
「これは……研磨剤? と布? どうしてここにこんな物が……」
「しかもそれ、結構新しいやつですよね? 全然風化してる様子もないですし」
麗がそれを拾い上げると、それを見た影咲はその状態を見て言った。
確かにこれは割と新しい物だ。影咲の言う通り風化している様子も無いのだから。
「てことは……これを使った人が最近居ると言うことで……」
「じゃあその人が、通報にあった侵入者ってことですかね?」
「でしょうね。これはちゃんと報告しないとね……」
遺跡内で大きな情報を得た5人は、他に調べ残しが無いかをチェックしたあと、すぐに遺跡を出ることにした。
しかし帰路につく際、影咲は布からはらりと落ちたとある物を拾っていたのだ。
「これは―――髪の毛?」
そう。
それは、髪の毛だったのだが……それが愛する紅蓮のモノだと知るのは少しだけ先の話になる。
◆
『解体できたのだー!!』
「すごい! すごいぞ桜花!」
『ふふん! もっと褒めるのだー!!』
俺は目の前に並べられた沢山のイノシシ(だった物)たちを見ながら、驚きの声を上げる。
桜花が解体すると言って不安だったのだが、どうやらそれも杞憂に終わり、結果としては大成功で無事に終わったのだ。
あとはこの解体済みの肉を調理するだけで、美味しいご飯の完成だ。
火の起こし方とか、そういう知識も生き残る術として姉ちゃんに教わっている。だから、これ以降は何も問題ないのだ!
「よし桜花! 今から俺の料理の腕を見せてやるぞ!」
『おお! で、どんな調理をするのだ?』
「そうだな! これだけ肉があればビーフシチューやハンバーグが………………」
『……ん? どうしたのだぐれん。その、びーふしちゅーやはんばーぐ、と言うのは作らないのか?』
「―――が―――じゃん」
『うん? なんだ、ハッキリ言うのだぐれん!』
「だから、調味料が何一つ無いじゃぁぁあん!!!!」
料理の腕を自慢しようと胸を張ると、調味料に無い事に気が付き。俺の悲痛の叫びは森の中に木霊した。
日はもう沈みかけていた。
◆
「―――なるほど。剣は無くなっていた……と」
「はい。壁画……は何ともありませんでしたが、剣らしき物は何処にもありませんでした」
ハンター協会へと帰還した影咲たち。
受付にいた、依頼者のお姉さんに麗が早速報告をしていた。
報告を聞いたお姉さん―――名前をフェイルと言うらしいが、フェイルは「ありがとうございました」と一言礼を言って、裏の部屋へと消えていってしまった。
「何かまずいのかね?」
「……どうでしょうね」
蒼華の純粋な疑問に麗は曖昧な答えを呟く。
一体、あの立ち入り禁止の遺跡にある剣というのがどれだけ貴重な物かは分からないが、少なくとも歴史のある物だと言うのは、剣その物を見ていない麗でも簡単に分かった。
「―――お待たせ致しました」
と、そこで裏の部屋へ消えたフェイルは再び5人の前に戻ってくる。フェイルの手には一つの小袋が握られていた。
「ではまずこちらが今回の報酬に―――」
そう言って、フェイルが小袋を麗に渡そうとした……その瞬間だった。
『―――緊急警報! 緊急警報!』
「―――きゃっ、突然何!?」
ジャララッ!とフェイルは持っていた小袋を中身ごと落としてしまう。中に入っていたのはお金―――金貨だったのだが、それを落としたときの甲高い音が近くにいた人の耳を驚かせた。
そして何よりも、彼女を驚かせるに至った原因―――つまりこのアナウンス。
これは一体何なのか……その場にいたハンター達は続けて語られるアナウンスに耳を真剣に傾けていた。
『―――1000を超える魔獣・モンスターの軍勢が近くの森に出現しました!』
「せ、千だって……!?」
「嘘だろ!? そんなの災厄級じゃないか!」
瞬時にその情報を聞いた協会内のハンターたちは騒ぎ始める。
が、麗たちにはそれがどれだけ異常な事なのかは理解できない。
「一体、何が起きているのですか!」
「は、はい……ただいま確認がとれました!」
麗は再びフェイルへと問いかける。
するとフェイルは他の協会職員から受け取った書類を見ながら、5人へ事情を説明した。
「現在、皆様に調査いただいた古びた遺跡の裏にあります森の付近にて、魔獣のリーダーが率いるモンスターの軍勢が確認後されたとの事です。
その数は1000を超えるとの報せがあり、この事態のランクは過去最高に近い、“災厄級”の事態となっています!」
「なる……ほど」
分からない言葉はもちろん多々ある。
が、とにかく危険だと言うことは5人とも瞬時に理解していた。
「そして、こちらの事態の対応ですが……このままですと、この国は終わりを迎えてしまう可能性があります」
「ええっ!? じゃあ早く対処しないと!」
冥は焦ったようにそう言う。
がフェイルは落ち着いてとジェスチャーをし、続けてこう言ったのだ。
「ええ。ですから、これより緊急で―――全ハンターたちによる、魔獣、そしてモンスターの殲滅戦の依頼を発注したいと思います!」
その言葉が、5人と紅蓮を結びつける“災厄”の事件の始まりとなる。
―――“魔獣軍殲滅戦”が、始まろうとしていた。
◆
『何か嫌な気配がするのだ……』
「そうだな……俺もただの焼き肉を食っただけだから何か変な感じだ。あと眠い」
『そういうことを言っているのではないのだ!!』
「でも、もう日も沈んだし……そろそろ俺は寝るな?」
『う、うむ……分かったのだ』
遺跡の裏の森の中。
ハンター協会では魔獣の軍勢の侵攻が確認され、早急な対応がなされていた頃。
その件の森にて野宿生活一日目を終わろうとしていた紅蓮は、木を背に眠っていた。
すぐ近くまで、魔獣の軍勢が迫ってきているとも露知らず。
『無事に明日を迎えられるといいのだ……』
桜花は、空に輝く満点の星空に願う。
―――己と、己の主の無事を。
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