46.動力補給方法は“キス”か“ハグ”?
―――少女の想いは、止まらない。
「―――それでは、今から改造手術を始めますよ」
「あ、ああ……」
シャオンさんたちと別れた後、俺はサイケリの奴に呼び出されて、《ゼアン村》の外れにあるサイケリの小さな隠れラボまで足を運んでいた。
建物の中は想像通り狭く汚く、ホコリが待っていた為、俺はつい咳払いを何度もしてしまっていた。
「以前説明した通り、貴方の今の体はとてつもなく不完全です。何せ、ボコボコにされた私の傑作の予備パーツで作られた核ですから」
そう。その核―――つまり心臓部分をしっかりと改造しなければ、魔力や闘気の供給がうまく成されず、結果俺はまた死に絶えてしまうというのだ。
「―――えー……ですから、今から改造を始めるので、さっさと上だけ脱いでください」
「ああ、分かったよ」
サイケリに言われて、俺は素直に服を脱いだ。
するとサイケリの奴は、露わになった俺の上半身を見て「ほう……」と何かに感心しているようだった。
「……どうかしたのか?」
「―――いや。ここに来る前……つまり貴方が機体の中にいた時には、まだ致命傷となる傷がいくつもあったかと思うのですが……それもすっかり見えないな、と思いましてね」
「言われてみれば……そうだな」
俺は自分の体を触りながら呟いた。
確かに俺の体には、桜花やアンを庇ったときに受けたかなりの量の傷があったはずだ。
だが、サイケリの作った機体の核部―――治療装置兼動力源となる装置に入っていたお陰だろうか。今ではそんな数々の傷も、今や傷跡を残すのみとなっていたのだ。
「ッ……。少し痛むけど、別に気になるほどじゃないかもな」
「あの時のガキンチョが、随分と立派になったものですね」
「煩え。話はもういいから、そろそろ始めないか?」
「……それもそうですね。分かりました。―――それではそこに寝てください。改造を始めますから」
そう言ってサイケリが指差したのは、目の前にあった金属でできたベッド―――実験用の装置みたいな物だった。
俺はそこに躊躇なく寝ると、サイケリは小さな注射器を取り出して、
「麻酔と、睡眠薬を混ぜた物を貴方に投与します。今度はちゃんとした改造をしたいので、半日ほどかけてじっくりと進めさせて頂きますよ」
「ああ、了解した。メンテナンスの必要がないくらい、完璧にやっちゃってくれ」
「ええ。それでは―――」
そんな短い会話を俺とすると、そのまま俺の右腕上部に注射器を刺した。
「―――それでは、ぐっすり眠っていてください。貴方が目覚めた頃には、全てが終わって……貴方は完全な機械と人間の融合体となっているでしょうから」
「あ……あ―――たの……む―――」
直後、俺は厳しい睡魔に襲われてしまい。
抵抗する間もなく、俺は“ソイツ”に意識を手放した。
◆
『―――我は、コイツの“不幸”と“死”を■■■いた。』
『・・・』
『―――だが、貴様が来た。』
『・・・』
『この人間は、我のモノだ。』
『・・・』
『我以外の存在が、コイツの中に居るのは許されない。』
『・・・』
『出ていけ。■■■■。』
『・・・断る。』
『何故だ。』
『・・・既に、契約は成された。“血”が、その証。』
『ならばその血ごと―――』
『・・・無駄。既にワタシは、この子の■■だから。ワタシが死ねば、この子も死ぬの。』
『……それも、無駄な話だ。コイツが一度死ねば、また我が寿命を縮めて蘇らせればいいだけのこと。』
『・・・無駄。既にこの子に寿命は無い。つまり、出ていくのはアナタ。』
『―――クッ……』
◆
「―――カレナ。お前はそろそろ“境界”の偵察に行ってこい」
「はァ〜い。分かったワ〜」
「ケラーナはサイケリのラボに向かい、紅蓮殿の様子を見てきてくれ」
「カカカ。任せテおケイ!」
「ゼヘナス。お前は村の見回りだ。何か異常がないか見てきてくれ」
「おう、了解シた!」
《ゼアン村》のリーダー“シャオン”は、的確に仲間たちに指示を出していき、それを受けたカレナたちもすぐに行動を開始していた。
一瞬のうちにして、桜花たちのいた噴水の周りからは人気が無くなったのだ。
「さて……今日も平和だといいが」
「平和じゃない時があるのだ?」
「ナノ?」
すると、シャオンの何気ない呟きに桜花が反応した。
「ん? ……ああ。そうだな。最近はちょっと物騒な事が起こるようになっててな」
「物騒な事、なのだ?」
「なんでも、隣の《ゼイン村》の奴らが度々この村の偵察に来るらしいんだ。ちょっと怪しい動きをしてやがるから、こっちも少し牽制する動きをして見せてるんだが、そしたら向こうの連中、どうにも強気にこちらに突っかかってくるらしくてなァ……」
「…………?」
「ああ、難しい話しちまったな。悪い。ま、お嬢ちゃん達には危険が無いようにするからよ。安心して紅蓮殿の帰りを待つといい」
「ワカッタノ!」
シャオンの言葉に、アンは直感的に頷いてみせた。
しかし、桜花だけはその言葉に頷くことが出来なかった。
「……ぐれんを……危ない目にあわせたくないのだ……」
少しでも危険があると分かった以上、桜花の脳内には紅蓮を危険から遠ざける事しか無かったのだ。
「ん、今なにか言ったかい?」
「……なんでもないのだ!」
「そうかい? それならいいんだが―――」
気づけば辺りはもうすっかり夕方になってしまっている。
そのせいか、シャオンの目には今の桜花が少し恐ろしく見えていた。
と、陽も傾き始めたちょうどその頃のことだった。
「―――カカカ! 今戻っタぞ!」
「おお、ケラーナ。どうだった、紅蓮殿の様子は?」
「カカ、どウだっタもナニも―――ほれ!」
意外とすぐに戻ってきたケラーナが、自身の後ろを指差した。
そこには、紅蓮の姿があった。
「桜花―――ただいま。手術は、無事に終わったよ」
そう言って微笑む紅蓮を見て。
桜花は涙ながらに、彼に抱きついた。
◆
「ぐれん……っ」
「っと……どうしたんだよ、いきなり。びっくりするだろ」
「ぐれん……ぐれん……っ!」
「ちょ……本当にどうしたんだよ!」
村の広場に戻ってくるやいなや、俺は桜花に抱きつかれていた。いきなり。ぼふっとだ。
それに、なんだか桜花の様子もおかしい。
隣にはシャオンさんもいるし、ケラーナさんだっているというのに、こういう事をしているのは少し恥ずかしいような気もするが、何故だか不思議と力が湧いてくるようだった。
「―――フフフ。気づきましたか? ヒカミグレン。その湧き出てくる力に」
「……え? おい。サイケリ……これは一体……?」
「安心してください。それは、貴方がしっかりと改造されている証―――そう。つまり動力源となる心臓部分がしっかりと機能している証なのです!」
「……おい。説明になってないぞ……」
「そんなに慌てないでくださいよ。ええとですね……つまり、貴方の動力源となる他者の魔力や闘気―――纏めて動力としますが、それを回収……いえ、この場合は吸収と表現した方が的確かもしれませんね。そしてそれを行う方法が、他者との濃厚接触……これも換言すれば、想いの通じ合っている者同士での接吻や抱擁となる訳なのですよ」
「…………ん?」
ええと……待てよ。
つまり、今サイケリはこう言ったんだよな。
俺の命とも言える魔力や闘気を補給するには、想いの通じ合っている者同士でキスやハグをしなければならない、と。
「まあ濃厚接触であれば、握手とかでもいいんですけどね」
「そ、そうか。なら良かっ」
「―――ですが、残念ながら効率はキスやハグの方が段違いに良いです。安心してください。貴方は既に人間ではありません。ですから感染症とか、そういう病の心配はありませんから」
「……マジ?」
「マジです」
……マジか。
てか、想いの通じ合っている者同士って…………姉ちゃんくらいしかいないんじゃないか……?
てかその姉ちゃんですら、今は無事かどうかも分からないってのに……。
「って……そうか……姉ちゃんの安否が―――」
「ぐれん……ぐれん…………っ!!」
「っと……ど、どうしたんだ桜花?」
「今は……今は他の女の話はしないでほしいのだ…………」
シュル……。
「え……? ちょ、ちょっと桜花さん……?」
周りには人目もある。かなり。
それなのに……それなのに。
桜花は、服をはだけ始めたのだ。
いきなりすぎて、俺にはそれが、何がなんだか分からなかった。
「要するに……ぐれんと愛しあえば……ぐれんは生きていられるのだろう……? なら……ワタシと……!」
「ちょ……ちょっと待って……いきなりすぎるだろ……! それに周りに人が……」
「別に……いいのだ。ワタシはずっと我慢していたし……それに、ワタシたちの関係を見せつけてやれば……いいの……だっ……!」
◆
「きゅる……」
一方その頃。
桜花が暴走しかけているその近くの木陰では。
「きゅる……!!!」
紫色の怪しい炎が、その一部始終を主へと伝達していた。
すると。
「きゅ……きゅるるるうう…………」
炎は一気に燃え盛り。
人知れず、木陰で燃え尽きてしまったのだ。
『アハ……アハハ…………許サナイ……ユルサナイ』
間もなく……騒乱は巻き起こる。
命からがらの更新です!
そしていきなりですが、21日(月曜日)に年内最後の更新をします。
とても気になる終わらせ方をするつもりので、年明けまで忘れずに待っていただければ幸いです。
またその告知も次回更新時にさせていただきます!
長い挨拶は次回に。
それではまた次回、お会いしましょう〜!
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