幕間8 もっと皆のこと知りたいよね?
「魔人族の大陸、かぁ……。一体どんなところなんだろ?」
私―――緋神蒼華は歩きながらそう呟いた。
それは純粋な疑問だった。
前に一度、事件に巻き込まれた時に獣人族の大陸“グラ”には行ったことがある……というか連れて行かれたことはあるけど、こうやって今回みたいに、ちゃんと『旅』として他の国に訪れるのは初めてだったから。
「んー、私のイメージ的には喋る魔物がいっぱいいる感じがします!」
「喋る魔物か〜……って、そんなのがあり得るの?」
「いや、知らないですよ! どうせ私の想像の話なのに、そこに食いつくなんておねーさん馬鹿なんですか?」
「馬鹿じゃないけど!? ……っていうか冥、もしかして私に喧嘩売ってる?」
私の隣を歩く冥は、「う〜〜」と唸りながら私を睨みつけてきていた。私もそうなのだが、近頃怒りの沸点が低くなっている気がしていて、そこが少し自分でも怖いと思っている。
と、そんなやり取りを隊列の先頭でやっていたからだろう。
後ろから、麗が小言を入れてきた。
「もう……貴女たちねぇ……。生きるか死ぬかの世界で、さっきもあんな事があったばっかりだってのに、よくそんな平和ボケしそうな言い合いができるわね……」
「あはは。蒼華さんはともかく、冥はバカですから。しょうがないっちゃしょうがないですよ」
「あ〜!? お兄ちゃん、もしかしなくても私のこと馬鹿にしてるよね!? バカって言ったほうがバカなんだよ!?」
「事実を言ったまでだ。お前はもっと冷静になることを覚えた方がいいぞ」
「私は常に冷静な完璧美少女ですけどー!? ふんす!」
麗の……じゃなくて悠の一言がきっかけで、式神兄妹の喧嘩がヒートアップしてしまった。
私はそれを一歩下がったところで眺めていたけど、同じく下がってきた麗が、私と、その後ろを歩く子たちをぐるりと見回しながら再び話を進めた。
「ところで、こうして一緒に旅しているのだし、少し知りたいことがあるのだけれど」
「あ、え……っと、私たちのこと、ですか……?」
「ええ、そうよ。えっと……貴女は“成瀬美咲”さん、だったわね?」
少しだけビクビクしている、小柄で可愛らしい美少女。
どこか冥と共通している外見も多いが、冥とは違ってとっても優しそうだ。
「それで、隣にいる貴女は……」
「わ、私は水瀬よ。さっきも言ったけど、一応あのグループの副リーダーみたいなことをしてたわ。ま、まぁ別に大したことはしてなかったけどね」
「“水瀬璃奈”ちゃん、だったよね」
「あ、はい! そうです、緋神先輩!」
「あ、私のこと知っててくれてるんだ。ありがとね」
「当然です! 武術の道を進む者に、貴女の名前を知らない人はいないですし、憧れない人も当然いないと思いますよ!」
「あはは、そんなに私ってば有名だったっけ?」
「もちろんですよ! どんな武道の大会でも、難なく優勝を取っていく……まさに無敵のヒーローですもん!」
「―――っていうか、私も一応先輩なんだけど……敬語……」
私のことを興奮しながら熱く話す璃奈ちゃんの横で、同じ先輩なのに態度が違っていたことを、麗はすごく気にしているようだった。
「ま、まぁ……いいわ。それで君は……」
「クックックッ……! 遂に我の番という訳か。遅いぞ氷の姫君よッ!」
「あ〜……えっと……?」
「そう怯えるでないぞ。ククク……言われずとも我自ら名乗りを上げてやろうではないか。―――我は“周防界斗”。だがこれは世を忍ぶ仮の名であり、この人間の姿も実は仮の姿で、本当の我は天上の―――」
「あー、はいはい。そのくらいでいいので黙ってくださいね」
「なっ……やめたまえ! 下民ごときが我に触れるなどッ……!」
「アンタも今は下民だから大丈夫よ。ノープロブレム、ってね」
……なんだかすごい子だって言うのは分かったけど……。
周防界斗くん。そう名乗った、新しく仲間になったメンバーの中で唯一の男の子だったんだけど、なんかちょっと癖がすごいみたいだ。
そしてそんな彼を止めたのは、確か彼ら反王国派のメンバーの中でも一番の実力者だという―――
「あぁ、ワタシか。えっと、ワタシは“スーラ”っていいます。この通り見た目はすっごい外国人だと思いますけど、日本にいた時間の方が長いんで、日本語はこんなふうにペラペラですから!」
「なるほど。通りで流暢だと思ったわ。それに確か貴女、召喚者の中ではかなり強い方なのでしょう?」
「まあ、ワタシが一番強かったのは事実だと思いますけど……」
「―――ふざけた事をぬかすなッ! 最強の存在は1人だけで十分だと何度も言っただろう!? フハハ! そう、我一人で十分だということだッ!!!」
「な、なるほど……? 貴方が強いというのは十分理解できたわ」
すごい。あの麗をここまで困らせている人なんて、今まで見たことがない。
ってことは、あの完璧超人の彼女からしても厄介な相手だってことか。
「う゛ぅ゛〜〜〜!!!」
「だからまずはそういう態度をやめろと僕は何度も……!」
「ククク……また分からせねばならないようだな。さあ来るがいい人間の子よッ! 我がその力の一端を見せてやろうッ!」
「あーはいはい。そうやっていっつも負けるくせにカッコつけて。恥ずかしくないの? ワタシは恥ずかしいけど」
……あー……。
なんか、凄いことになっちゃってるよ。
「あ、あはは……。いつも、こんな感じなんです、よ?」
「はぁ……こうして離れてみて分かったわ。響也って相当すごいリーダシップを持っていたのね」
「みたいだね〜。この完璧生徒会長である麗を困らせるなんて、相当すごいことだよ」
「うぅ……私だって出来ないことの一つや二つはあるわよ……!」
旅を始めてから数時間。
太陽も天に鎮座し、私たちを照らす頃。
そんな賑やかな光景がここには広がっていた。
そしてそれは、この後起こる、激戦の予兆―――嵐の前の静けさであることは、まだここにいる誰もが気づくはずが無かったのだ。
「いいから一旦静かにしてくれないかしらぁぁぁぁ!!!!」
次回更新日は17日木曜日!
多分改造が終わった紅蓮のお話です!
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