5.初めてのたたかい。
―――少年は生きる為に戦う。もう、一人ではないのだから。
『して、ぐれん。これからどうするのだ?』
俺の手元で、“桜花”がそう問いかけてきた。
「そうだな……ひとまずは“ハンター”登録をしたいんだけど、多分それにすら登録出来ないから、野営の練習をしながら弱そうなモンスターと戦ってスキルアップをしたいと思うんだけど。桜花はどう思う?」
『ふむ、そうだな。友人はおろか、金も無いぐれんにはそれしか道はないのだ!』
「がふっ」
桜花の純粋な肯定の一言に俺の心臓は深く抉られる。
大ダメージだ。
「だ、だよな。よし、それじゃあ何処か野営出来そうなポイントを探しに行こう!」
『うむ! 行くのだ!』
無理矢理元気を捻り出した俺は、この呑気な剣に宿る少女“桜花”と共に近くの森へと向かって足を進めるのだった。
◆
「それで〜? 早速ハンター登録ってのをしに来た訳だけど」
「ふむ。いきなりして来いと言われてもな」
「うーん……あ、あそこじゃないですか?」
「……みたいだね。どうやらあそこが受付みたい」
「では、参りますか……」
ハンター協会へ、ハンター登録をしに来た5人の召喚者。
―――そう、影咲達だ。
先刻、ペイン国王やその側仕えの近衛騎士アーダによって戦闘訓練を行っていたのだが、数値100を叩き出した影咲達5名はそもそもの能力値に依存して戦闘スキルもある程度持ち合わせていたようで、すぐにコツを理解し、『5人で』とは言え近衛騎士アーダを追い詰めることに成功したのだ。
それを見た国王は、すぐにハンター登録をし実戦経験を積んで来いとの指示を出す。
そしてそんな戦いを見ていた他のクラスメイトには、『そなたらも彼らのように強くなれる可能性は大いにある!』と鼓舞し、やる気を仰いでいた。
そんなこんなで国の中心にあるハンター協会へと足を運んだ影咲達だったのだが―――
「すいませ〜ん。ハンター登録、ってのをしたいんですけど―――」
「まあ! 数値100の奇跡の方たちですわ! 国王陛下から話は聞いております! さあさ、こちらへどうぞ!」
「あ、ど、どうも〜」
蒼華が5人を代表して受付へ行ったのだが、どうも国王が先に話を通していたらしく、受付の女性はそう大声を上げながら影咲達5人を裏の部屋へと案内した。
当然、協会内で飲み食いしていたり、依頼を探していた他のハンター達からも注目を浴びることになる影咲達。
特に美形が揃っていることから、余計に注目を集めているようだった。
「さ! ハンター登録はもう完了しておりますので、こちらのFランクプレートを首から掛けてくださいませ!」
そう言って受付の女性が渡してきたのは銅色の小さなプレートだった。これが、ランクを表す物なのだとか。
「あ、どうも」
「それで、早速皆様に“試験”と称しまして依頼をしたいのですが、よろしいですか?」
「あー、分かりました。挑戦してみます」
受付の女性は、間髪入れずにそう頼む。
“試験”、なんて言われたら断らざるを得ないのが蒼華の悪い癖。
話を詳しく聞かずして了承した事に、麗や悠は溜め息をついていた。
「ありがとうございます! それで、私から依頼したいのは、とある遺跡の調査なのです!」
「遺跡の、調査……?」
麗は何かの疑問を感じたのか、繰り返すようにそう呟いた。
すると女性はにこやかな笑顔で頷き、
「はい! この街の少し外れにあります、古びた遺跡を調査してきて欲しいのです。あそこは、本来立ち入りは固く禁じられているのですが、最近誰かが入っていく姿を見かけた……との通報がありまして、中にある“壁画”と“錆びた宝剣”の様子を確認してきてもらいたいのです」
「ふむ。安全確認の仕事という訳ですか」
「兄さん、これなら安心して受けられるね!」
「だな」
受付の女性に依頼された仕事を確認した式神兄妹は、「これなら」と首を縦に振っていた。
そして蒼華や影咲も、
「最初だからね、こんなもんかな」
「ですね」
と肯定の意を示している。
しかしそんな中、麗だけは何かを怪しんでいた。
それもそのはず。
麗は、『こんな簡単な依頼で本当に試験と呼べるのだろうか』と思っていたのだから。しかしハンター協会や国王の意図が読めない以上、今は従うしかないと首を縦に振る。
「分かりましたわ。その依頼、受けさせていただきます」
「ありがとうございます! それでは早速向かってみてください!」
「了解です」
クエスト成立。
影咲達5人は話が終わるとハンター協会から出て、依頼内容である古びた遺跡へと足を向ける。
「初依頼だね〜」
「ですね」
蒼華や影咲はもちろん、他のメンバーたちもそれぞれ会話に花を咲かせている中、何処かギスギスした感じもある事を全員が理解していた。
別に皆が嫌いな訳じゃない。それは全員分かっていた。
しかし、1つだけパーツの欠けた歯車のような、少しだけ噛み合わない感じがしたのだ。
原因は当然、彼―――紅蓮にあった。
それぞれがそれぞれの理由で紅蓮を求めているこの現状。
―――影咲は己の欲望の為。
紅蓮を強く想いすぎる気持ちが彼を求めさせていた。
―――蒼華は亡き家族との誓いの為。
そして最後の家族である紅蓮を必ず手放したくないという独占欲が彼女を突き動かした。
―――冥は幼き頃の約束の為。
小さい頃から面倒を見ていた自分が居ないと……そんな想いが紅蓮への独占欲へと代わっていた。
―――悠は親愛なる友の為。
唯一の男友達への家族的、友人的愛情が紅蓮を失いたく無いという恐怖心を煽っていた。
―――麗は今後の自分たちの為。
他のメンバー達の不調に唯一気づいている彼女は、原因もすぐに見抜いていた。だからこそ、このパーティーには紅蓮が必要だと考えてるのだ。
なんとしても、紅蓮を見つける。
そんな想いが、密かに5人の間で一致しているとは知らずに、彼らは遺跡へと向かう。
彼が―――紅蓮が立ち去ったあとの、遺跡へと。
◆
「んー……この辺りでいいかな?」
『うむ! よいと思うのだ!』
あの遺跡から少しだけ進んだ先にある小さな森。
その中で見つけた川の近くの平らな場所を見ながら、俺はそう呟いた。
ここなら、とりあえず水分に困ることは無いだろう。
そしてあとは寝る所と食料問題だが……
『モンスターを狩るしかないのだ!』
「ですよねぇ……」
木の実とか果物を見つけられたらいいのだが、それが安全である保証は無い。それなら生き物の肉を焼いて食べる方がまだ安全な気がしてしまう。
最悪川の水だけを飲み続けるしかないだろう。
そんな覚悟で俺は桜花へと尋ねてみる。
「なあ桜花」
『なんだ?』
「モンスターって、どういうのがいるんだ?」
『あー、そうだなぁ―――』
そう呟いた桜花は、少しモンスターやその他の敵について解説してくれた。
曰く、この世界にはモンスターは何種類も存在しているらしい。
雑魚モンスターのスライムから始まり、モンスター界最強と謳われているドラゴンまで、様々な種類がいると。
さらに敵となるのはモンスターだけではないらしい。
曰く、闘気が有り過ぎるが故にその身を変貌させてしまった“狂人”や、逆に魔力が有り過ぎるが故にその身を変貌させてしまった“魔獣”を始め、敵国の種族―――“獣人族”や“魔人族”もその殆どが敵だと言う。
それらと戦うのに、やはり俺はとにかく鍛えなければならないのだとか。
『という事でまずはワタシをうまく扱えるようになるのだ!』
「まあ、そうだよな」
とりあえず俺はこれから、ひたすらモンスターを倒しながら剣のスキルアップをすることになるだろう。
“桜花”を上手く扱えないと、俺は死んでしまう可能性が高いのだから。
「それじゃあ、とりあえず弱そうなモンスターを倒しながら食べられそうな物を探すか〜」
『うむ! 頑張るのだ!』
「おう、頑張るぞ!」
そうして俺たちは拠点となる場所に目印となる木の棒を拾ってその場に刺しておき、辺りの探索を始めた。
■
「―――早速お出ましか!」
「ガルルル…………」
目の前に現れたのは、一見普通のイノシシだった。
拠点から少しだけ進むと、早速現れたのだ。
「桜花、コイツもモンスターなのか?」
『うむ! イノシシというモンスターだぞ!』
「へ、へぇ……」
そのままだったか。
それなら、コイツは倒せば食料になるな!
必ずここで仕留めなければ。
『それでぐれん、お前は剣は扱えるのか?』
「え? い、いやお恥ずかしながら全く……。小さい頃にチャンバラならしてた事はあるけど」
『チャンバラだと……? むぅ……そんな物でどうにかなるとは思えないのだ……』
「ま、まあなるようになるだろ。きっと」
『不安なのだ……』
桜花の不安ももっともだが、俺だって真剣だ。
生きるためなら、こういう時こそ力が発揮されるだろう。
「ブルルッ! ガルルルルルル!!」
『来たのだ!』
猛々しい鳴き声と共に、イノシシは突進してくる。
ただ、一直線の突進なので避けるのは簡単だった。
「ブルル……ガルルルル!!」
再び俺をロックオンしたイノシシは突進を繰り出す。
一直線でくるなら、本当は落とし穴とか使うのが一番効果的なんだろうけど、せっかく剣があるんだ。
だったら一突きにしてみるのも手かもしれない。
「喰らえ……ッ!」
「ブルルッ!!」
―――グサリ。
見事作戦は成功だった。
イノシシのやつ、バカ正直に正面から突っ込んできて俺の構えていた“桜花”によって串刺しにされて死んでしまった。
『うむ! よくやったのだ!』
「ふぅ……一安心だな」
俺は剣に刺さったイノシシがちゃんと死んでるか確認しながら、ホッと一息つく。
しかし、一難去ってまた一難という言葉は本当にあるらしく。
『お、おいぐれん! 何やら嫌な気配がするぞ!』
「嫌な気配なんて―――え」
振り返って拠点に戻ろうとした時だ。
辺りの草むらから覗く、光る目と牙。
(あれは―――)
「ブルルル!」
「ガルルル!!」
「ブルルガルル!!」
「イノシシの群れじゃないかぁぁぁぁ!!」
『ひゃぁぁぁ逃げるのだ逃げるのだぁぁ!』
そうして俺たちは初めてのモンスターとの戦闘を終え、そしてまた同じ戦闘が続くのだった。
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