幕間5 全てが狂い始める。
―――そう、全てが。
そして、一方その頃。
「……ここは、どこ?」
「―――成功、したのか……?」
10人の人間や獣人、魔人たちが一人の少女を囲んで、口をあんぐりと開けていた。
「……あなたたちは、だれ?」
裸体の少女は、濡れた体を気にもせず、素肌を晒していることにも気にせず、ただ問いかける。
「―――あの人は、どこにいるの?」
「……あの……人?」
「……ええ。私の、私だけの大切な人。名前は……思い出せないけど、私にとって、とても大切な人」
少女は、目の前にあった鏡まで歩いていくと、自分の目に触れながら、こう言った。
「そう……この真っ赤な瞳と同じ名前だったわ。いや……目の色は、同じだったかしら―――?」
天を仰ぐ少女。
少女は何を言うでもなく、あとはただただ空を見ていた。
そして。
「―――ああ、私だけの愛しい人……。他の女が擦り寄ってこないように、守って……いいえ、分からせてあげないと」
「……き、君は……一体―――」
「私? 私はねぇ……」
「―――私、だよ」
その瞳は、黒と紅のオッドアイに、染まっていた。
◆
希望の糸口は見えたその夜、その者達もまた、各々の思いを、覚悟を決めていた。
《緋神蒼華/自室》
アイツら、強かった。
この十数年間、毎日をただただ稽古に使ってきて……恋愛とか、青春とか、そういうのを犠牲にして、それでも力が得たくて、稽古を続けてきたっていうのに。
それなのに、私は負けた。
この世界に来てから、私はずっと負けっぱなしだ。
「俺は、強いねーちゃんも弱いねーちゃんも、全部好きだよ」
小さい頃、紅蓮はそう言ってくれた。
その時からだ。その時から、私は誰にも負けないくらい強くなりたいって思ったんだ。
母さんも父さんも死んじゃって、二人で強く生きていこうって思ってたけど、私が強くなれば、紅蓮にもうこれ以上悲しませる事なんてないって、そう思ったから。
でも、負けた。
紅蓮も居なくなって、紅蓮の好きだった奏ちゃんまで死んでしまった。
……私は、弱い。
―――ああ、そっか。だからか。
弱いから、紅蓮が取られちゃいそうになったんだ。
大切な仲間以外の、紅蓮に擦り寄ってくるゴミ共は排除するって決めてたのに……私が甘かったから……弱かったから。
……決めた。
もう、優しくなるのはやめにしよう。
せっかく得た力……才能を無駄遣いするのもやめよう。
紅蓮の為にも、奏ちゃんの為にも、私はもっと強くなる。
全員、排除できるくらい、強くね。
「見ててね、二人とも。私が全員―――排除するからさ」
◇
《式神冥/書斎》
大好きなセンパイが死んだ。
出会ったばかりの私に優しく接してくれた、影咲先輩も死んだ。
みんな、死んじゃった。
こんな、ことになるなんて、想像もしなかったや。
「めい〜! 俺、お前と居るの楽しいみたいなんだ!」
紅蓮センパイは、まだ私たちが小さかった頃にそう言ってくれたのをよく覚えている。
いっつも、楽しい、楽しいって。私と居るときだけに、彼はそう言ってくれたんだ。
だから、気づけばセンパイのことを好きになっていた。
センパイが「楽しい」って、私と一緒に居るのが「楽しい」って言ってくれないと、不安で不安で仕方なかった。
センパイの声は、まるで媚薬のようだった。
あの快感は、一度知ってしまえばもう二度と離れることなんてできない感覚だ。
だから私は、ずっとセンパイと居続けた。幸い一番身近にいたおねーさんは、血縁関係を持っていたから安心して過ごせた。
どうやらおねーさんもセンパイに気があったみたいですけど。
それに……私の兄も。
でも、そんな関係ももう終わっちゃったんだ。
センパイはもう居ない。
早く、現実に戻らなくちゃ。
センパイを蘇らせる方法なんて、調べてちゃ、だめなんだよ。
「楽しいよ―――楽しいよ―――楽しい―――」
えへ、えへへ……
あの声が、また聞きたいです。センパイ。
だからなんとしても、蘇らせますから。
私だけの、センパイ。
だからまた、言ってください。
私に、私だけに、「楽しいよ」って。
これはもう病気です。依存し過ぎちゃってます。
でもいいんですよ。それが私を、動かしてくれるなら。
「待っててくださいね、センパイ♡」
◇
《式神悠/自室》
冷静になれ、冷静になれ。
どんな時だって、冷静なのが自分の取り柄じゃないか。
人が死んだからって、なんだ。
もう僕は、同じ思いも何度もしているんだ。
父さんが死んだときも、母さんが死んだときも、同じ思いをしたはずじゃないか!
なのになんで、なんでこんなにも辛いんだ。
紅蓮が、死んだ?
「悠兄さん。悠兄さんは本当にいつでもかっこいいね……」
紅蓮はいつもそう言ってくれていた。
本当は弱いのに、ただ格好良く自分を見せているだけなのに、そんな自分を見て、紅蓮はいつだって「かっこいい」と言ってくれた。
そんな純粋な紅蓮を騙しているのが嫌で、僕は蒼華さんと稽古をするようになった。
少しでも、強くなりたくて。
そして、紅蓮が虐められていた時。
僕は蒼華さんとの訓練で得た力で、紅蓮を守ってやれたんだ。その時初めて思った。
―――僕の力は、人を守るために使うんだと。
そして、僕はさらに力を付けた。
力と同じくらい、知識も身につけた。
これでいつでも紅蓮を守れる。
紅蓮の大切な家族である蒼華さんや、僕の大切な妹の冥も、自分自身ですらもちゃんと守れると思っていた。
なのに、紅蓮は居なくなってしまった。
僕たちの、目の前で。
まだ死んでいると決まった訳じゃない。
だけど、守れなかった。
「希望の糸口……僕は―――俺はこの糸を絶対に離さないからな」
だから今度は、必ず守ってみせよう。
僕の、紅蓮を。
◇
《榊原麗/庭》
彼はいつも、毎晩毎晩ここで一人で訓練をしていたわね。
一人で、ずっと。
魔力の才能も、闘気の才能も目覚めず、それでも大切な存在と一緒に居たいから……だから一人で頑張っていた。
私はそんな彼に興味を示すようになっていた。
彼といる間は、彼のことばかりを考え続けていた。
別に恋愛感情を抱いているわけでは無いが、ただ面白くて、研究するような感じでずっと思い続けていたの。
「センパイ……かわいいですね」
いつしか、変な妄想をするようになっていた。
彼はこんなこと言わないのに。
「センパイ……綺麗です」
自分の頭の中で、彼が、彼の声で、彼のまま動いてくれる。
彼が今後どうなっていくか。それを想像するのが楽しくて。
研究欲……と言えばいいのか、ただただ自分がおかしいだけなのかは分からない。
だけど、一度付いてしまった癖が抜けることは、なかった。
日に日にエスカレートしていく妄想内容。
別にこうなりたい訳じゃない。ただ面白いだけだった。
だから本物の彼を前にしても別に普段と変わらない私でいれたし、それが理由で恋慕の感情なんて抱いていないのだと決めつけていた。
だけど、それは違った。
失って、初めて気づいた。
彼がいないことの、不安に。
手が、脚が震える。
何故だろう。生徒会の選挙に出たときも、母親に少し無理なお願いをする時だって緊張なんてしなかったのに。
しかもこれは緊張とは少し違う震えだということも分かってしまった。
怖いのだ。
死ぬことが、死なれることが。
全てが想像の通りに行くと思ってた人生。
それがこの世界に来てから、綺麗に崩れ去ってしまっている。
しかも、ちょっと目をつけていた彼も、その渦に飲み込まれてしまった。
どうして。どうしてなの。
「怖い……怖いよ」
もう、今まで通りでいるなんて、無理なんじゃないかな。
そう、思い始めるようになってしまっていた。
「―――センパイ、大丈夫ですよ。俺がついてます」
ふへ……。
でも、大丈夫だった。
そうだ、私の脳内には私の理想の彼が居るんだ。
ふへ、ふへへへ……。
だから、こんな私くらい隠し通せる。
誰にもバレないように、一人で、妄想し続けよう。
そしていつの日か、それを現実にしてみせよう。
だって私の人生なんだもん。私の思い通りにならなきゃ、おかしいじゃない。
どうもです。
前回の半分の部分が、分けたほうがいいんじゃないかという意見を頂いたので幕間として分けさせていただきました。
最新話に関しましては、予定とはずらして火曜日か水曜日辺りに更新できたらなと思います!
では!!




