34.潰すべき敵はどっち?
―――少年少女の決意は、双翼に潰される。
「―――なーんてカッコつけてみたのはいいけど……これからどうすればいいのかしら」
『こんな運命なんかブチ壊してやる』、そう強く意気込んだのはいいものの、メリドのやるべき事というのはどれもそう簡単に成せる物でもなかった。
《十ノ色》に押し付け―――託した闇魔法の使い手『影咲奏』の件。
そんな《十ノ色》の一人である“クロカゲ”が連れて来た『発明者のサイケリ』の件。
そしてその“サイケリ”が連れ去って行ってしまった謎多き少年『緋神紅蓮』と、彼を主に選んだ伝説の剣『桜花』、さらには獣人族の国で救ったと例の少女も合わせた三人の件。
「で……しかもミッション追加って……」
メリドはため息をつくしかなかった。
たった今、これらの件が招いた最悪の結末に絶望し落ち込んでいる少年少女たち。
彼らのメンタルケア……それをしないといけなかったのだから。
「私にかかる負担が大き過ぎるのよ……もう。ま、目的を達成するためならいっか。こんなの、楽勝楽勝……っと!」
まるでもう既に諦めているかのような、でもそれでいて勝ちを確信しているような様子で軽く背伸びをした後、メリドは少年少女たちを探して歩き始めた。
◆
「―――一人になるのは逆に辛い、って。分かってはいたんだけどなぁ……」
一方その頃。
緋神蒼華はとある場所へ向かいながら、一人で思い悩んでいた。
彼女にとって、召喚されたこの世界における最も大切なモノ。そして残された唯一の家族である弟の紅蓮を失ってしまった事はかなりのダメージとなって蒼華の胸を抉っていた。
それも、手も届く目の前だったが故に余計に。
「私にもっと……力が、あれば」
何かを嘆くわけでもなく、ただただ後悔するばかり。
蒼華の手は、本人も気づかぬ内に硬い拳となっていた。
「アイツは私から、紅蓮を奪った―――」
そして脳裏に焼き付いた、あの白衣の男の薄汚い笑い声。
あの日、蒼華の中で何かが壊れてしまっていた。
◆
時を同じくして、別の場所では。
「っぐ……ぐすっ……なんで……どうして……っ……!」
あの日、あの場所にいた四人の中でも最も深い絶望を味わっていたのはこの式神冥だった。
冥は強い。強かった。だからこそ、それが慢心に繋がり、今回の結果に繋がってしまったのだと、そう考えていたのだ。
全ては自分のせい。自分がもっと強くて、蒼華の足を引っ張るようなことをしなければ。そう、ずっとずっと後悔していた。
そして“彼”もまた―――
「やっと……見つけた」
「おにい……ちゃん……?」
式神悠。
あの時、紅蓮に施された仕掛けの情報をいち早く得ていた人物。
もっと自分が、うまく立ち回れていれば。彼もまたそうやって自分を責め立てていたのだ。
「冥。落ち込んでいるのも、すぐには立ち直れないのも分かる。それは、俺だって同じだから」
「だったらほっといてよッ!! なんで私を一人にしてくれないのッ!?」
「―――お前を一人にしておけないと思ったからだよッ!!」
「ひっ……!」
悠は強く怒鳴った。
普段は見せない悠の変わった一面に、驚きと恐怖を隠せない様子の冥。
悠は続けて彼女に言った。
「みんな……後悔してるんだよ。みんなだ。あの時、あの場所にいた全員が後悔してるんだよ」
「だ……だから……何?」
「だからさ。全部……全部一人で抱え込まないでくれよ……」
「おにい……ちゃん……。泣いてる……の?」
ずっと我慢していたモノが、悠の目から溢れ出していた。
それはもう、歯止めが効かなかった。
「な……んで、泣いてる……の……」
「……っ……悔しいから……だよ……!」
「そんなの……私だって……!」
「いや……俺の……方が……!」
そして気づけば、冥の目からも同じように涙が滝のように溢れ出ていた。ポロリポロリと、大粒の涙が。
「くや……しいよ……ぉ……!」
「ああ……くや……しいな……っ!」
何も出来なかった。
「悔しい……。そっか……みんな……悔しいんだ……ね」
「ああっ……そうだ。みんな、同じ思いだ!」
だからこそ。
「それに……私がこんなに悔しいんだもん……。蒼華さんは……もっと―――」
「ああ。きっと、もっと悔しい思いをしているはずだ」
二人は前を向き始めていた。
「―――まだ、センパイは生きてるよね……?」
「ああ……僕たちはアイツが死んだところを直接見たわけじゃない。だったら……少しでも可能性が残っていることになる!」
前を向き、歩き始めていた。
「それなら。こんな所で立ち止まってる場合じゃ、ないね」
「ああ。そうだな」
「もっともっと、強くなって。そして、必ず―――」
「ああ。必ず―――」
「「紅蓮を助けよう!!!」」
そんな、二人の固い決意は。
桜花が最初に眠っていた、あの古びた遺跡の静寂を切り裂いた。
―――切り裂いて、しまった。
「―――おやおや……一体誰かと思えば」
「誰だッ!!」
「おー怖い怖い。そんな怖い顔で睨まないでくださいよぉ〜」
ふさげた口調。まるで気配も感じられなかった背後から、突如聞こえてきた声。
悠たちは即座に振り返った。
「誰だと聞いている……! お前は一体何者なんだッ!?」
「お前ェ? ―――どうやら大人に対する礼儀というモノを貴様らは知らないようだなァッ!!」
刹那、一瞬にしてこの場を包む空気が変わった。
そして、その男は姿を現した。
「俺は《双翼の爪牙》っつー最高にイカれた集団でリーダーをやってる“クロウ”ってんだがよォ」
「そうよくの……そうが?」
「あぁ。このペインとかいうふざけた王国をぶっ潰して、ついでにこの王国が召喚したっつー召喚者とやらも全員ブッ殺してやろうっていう最高にイカれた計画を達成するため、君たちガキの前に現れましたよ〜ん!」
そう言って、ペロリと舌を出すクロウと名乗った男。
その舌には、八つかそこらの舌用のピアスが付いていた。
見ればその男は、体中に入れ墨やピアス、金属製のアクセサリーなどを付けていた、いわゆるヤンキーとかヤクザみたいなタイプの、しかもそれでいて高身長でガタイのいい男だった。
「んで。そっちにいるのが―――」
クロウは自分とは反対側を指差して、悠たちの視線を誘導した。
するとそこにも、まるで気配を感じられなかったはずなのに、どういう訳か別の男が立っていたのだ。
「紹介しよぉう! そいつはクソほどイカれたクソみたいなクソ男で、クソみたいな陰湿な水魔法の使い手。クレイジークソ男の“ファング”ってんだ!」
「クソが多い。あとテメェは人前に出ると性格が変わるのはどうにかしてくれ。クソうぜぇ」
「うるせぇ黙れカス!」
体格はクロウほど大きくはない。
だが、例えるなら呪術師とか占い師みたいな、顔をフードで隠した少し怪しげな男。それがファングと名乗る男だったのだ。
「ま、どうせ名乗った所でテメーらはここで死ぬ運命だから意味ねえんだけどなァ! クハハ!」
「我ら《双翼の爪牙》が、あの忌々しい召喚者どもと、ついでにこの小国もぶっ壊してやる……!」
そう呟いた直後、攻撃態勢に入ったクロウとファング。
だが、悠と冥はすぐには体を動かせなかった。
まだ抜けきっていない絶望と、目の前に立つ男たちの強大さが目に見えて分かっていたから。
そう。この《双翼の爪牙》とかいう連中。彼らは明らかに、悠たちよりも格段に強い者たちだった。
「んじゃ、これ以上こんなところで時間を使う訳にもいかないし、ここらでお別れだ。人思いに一撃で仕留めてやらァッ!」
「“水刃”……!」
二人の攻撃が、悠と冥にそれぞれ襲いかかる。
「くっ……こんなところで……!」
「セン……パイ……!」
二人が死を覚悟した、その時。
「―――させないわよッ……!!!」
「水よ! 彼らを守りなさい!」
悠たちの周りには、一瞬にして水のドームが現れてクロウとファングの攻撃から身を守ってくれた。
さらには追撃を許すまいと、一人の人物がクロウに向かって攻撃を仕掛けに行ったのだ。
そう。この式神兄妹のピンチに駆けつけたのは。
「麗さん!」
「蒼華おねーさん!!」
緋神蒼華と、榊原麗。
式神兄妹を心配して、彼らが向かった方へと少しずつ向かっていた二人だった。
あの後、麗は蒼華と合流し、二人で急いでこの古びた遺跡へと駆けつけたのだ。
「なんだァ? ガキ共」
「我らの邪魔をするというのか。緋神蒼華、榊原麗ッ……!」
「……ええ。その通りよ」
「当然よ。もう、これ以上誰も失うわけにはいかないからねッ……!」
覚悟を新たに、これ以上もう誰も失わないとたった今決意した蒼華には、溢れ出んばかりの“闘気”が身に纏っていた。
「へぇ。威勢だけはいいみたいだけどよ。それだけじゃ俺らには勝てないぜェッ……!!」
「くっ……速い……!?」
素早い身のこなしで蒼華を翻弄し、その手に持ったナイフで斬りかかるクロウ。その攻撃は、明確な致命傷を与えるほどまでにはいかなかったが、確実に蒼華の肉体に傷を与えていた。
それだけ素早く、確実性の高い攻撃だったのだ。
「おらよォッ!」
「きゃぁっ……!!」
そして、遂に大きな一撃を蒼華へと与えてしまった。
右肩から胸の中心辺りまで、斜めに切り裂かれてしまった蒼華。幸い服のお陰でダメージは軽減されたが……
「蒼華ッ……!?」
「お前も一緒に殺してやるよ……“水蛇”ッ……!!」
「きゃあああっ!!」
今度はそれを助けようとした麗が、ファングの水魔法によってダメージを負ってしまう。
「ケケッ。どうやら口だけのようだな、ガキ共。あんまり調子に乗って俺たちを怒らせるんじゃねぇよ、なぁ!? 召喚者の中でも抜きん出た才能を持ったエリートガキ共がよォッ!!」
「お前たちは俺たちがこの手で殺そう―――殺して、殺して、殺しまくってやろう―――」
「くっ……」
絶体絶命。
そう表現するのが、最適な状況。
こんな場所でこんな事になるなんて、この場の誰一人とて想定していなかった。当然助けも期待できない。
ただ、死を待つばかり。
そう、ならざるを得なかった。
「紅蓮……っ」
「センパイ……っ!」
「紅蓮……っ!」
「後輩……くんっ……!」
先立つ不幸を、許して―――そんな、誰もが思うような最期の言葉が脳裏に浮かんだ、その瞬間の事だった。
―――奇跡が、起きたのだ。
「―――はいは〜い。殺さないで殺さないでね〜」
「フシュ……フシュー!!!」
ドガァァン!!という轟音が、辺りには響いていた。
「あァ? なんだァ?」
「クロウ、こっちへ来い」
「うるせぇファング! 俺に指図すんな! ―――そんなことより、テメェらは一体何者だッ……!?」
「私たちぃ〜? 私たちはねぇ〜」
「フシュ……フシュ……」
土煙の中から、二人の人物が現れた。
そしてその二人は、自分たちのことを、こう名乗ったのだ。
「―――《十ノ色》。世界に安寧をもたらす者たちの名よぉ〜覚えておきなさ〜い」
「フシュー!!!!」
命からがら〜!
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蒼華たちを救ったのはまさかの《十ノ色》……果たして彼女らは一体何者なのか―――
次回、35.意味深なヒントを残すなよ!!
お楽しみに〜!!
次回更新予定日→5(月曜日)




