33.戦いの後。失った物と取り返した物。
―――少女たちは、絶望から逃れられない。
獣人族の支配する大陸。その中でも最も大きな国家である《ジェフェルー王国》での出来事は、大陸を飛び越えて全世界へと瞬く間に拡散されていった。
ユーストリア大陸の小国家ペインのハンターたちが、一度に大量に誘拐され、何人もの怪我人を出してしまった事。
この事件が、今大陸を飛び越えて問題視されているのだ。
◆
《魔族の大陸リューディッヒ とある王国》
「―――そうか。報告ありがとう」
「いえ。それでは私はこれにて失礼します」
パタリ。静かに彼は退出した。
部屋に残されたのは、一人の男。青年だった。
「獣人族が人間族のハンターとやらを誘拐……それはまあ汚らわしい獣人共の暴走と言う事で片付けられるだろう。だが問題なのは―――」
その男の視線の先にあったのは、二つの髪の毛だった。
男はそれを、入っている試験管から取り出すと、別の機械らしい何かへと移し替えた。
すると機械が起動し、髪の毛を入れた場所からホログラム映像のような形でとある人物の姿が立体で映し出されたのだ。
「この二人の死―――一見するとただの人間に見えるが……髪の毛一本から伝わってくるこの気配、魔力……恐らくこやつらは……」
◆
《ペイン王国 ハンター協会前》
「ええ……はい。―――はい。まさか、そんな事になっていたなんて……。はい。―――分かりました。今の私なんかに何ができるかは分かりませんが、大切な時にあの子たちのそばに居てあげられなかった分、できる限りの事はしてあげたいと思います。―――ええ、それでは失礼します」
パタリ。こちらでもまた、静かに扉を閉じて速やかに退室していた。
ペイン王国のハンター協会。その取り調べ室から出たメリドは、真っ先に彼女たちのもとへと向かった。
「皆……」
「めり……ど……さん……っ……!」
すると、彼女の姿を見るなり。
蒼華は勢いよくメリドへと抱きついていた。その瞳には、沢山の涙の跡があった。
「蒼華ちゃん……」
何か彼女に……彼女たちに声をかけてあげたいメリドだったが、メリドにとっても想定外の事が起きすぎて、どう言葉をかけてあげればいいのかが全く思い浮かばなかった。
ただ、ありふれた慰めの言葉を言うくらいしか、だ。
「本当に……ごめんね。私の、せいで……」
「……いいえ。メリドさんは悪くありません。悪いのは……目の前で、紅蓮を救うことが出来なかった僕たちの方ですよ……っ!」
「悠……」
強く、強く拳を握って、壁に押し当てる悠。
今の彼にあるのは、悲しみではなく、悔しさだった。深い深い、後悔だった。
「そうだ……皆、聞かせてくれるかしら……? とっても辛いかもしれないけど……でも、調査を進めるために、何があったのかを」
「待ってください。その前に、一つお聞きしたいことがあります」
「何かしら。私に答えられる範囲の質問なら、喜んで答えさせて―――」
「―――影咲さんは、どちらに居るのですか?」
麗は、単刀直入に、それでいて芯を深くえぐり取るような鋭い質問をメリドへと投げかけた。
そう。今、このハンター協会の小部屋に集まっているのは、蒼華・冥・悠・麗の四人と、今到着したメリドの合計五人だった。
彼女たちはクロキリ―――クロカゲの存在は知らない。だが、それは彼女たちには関係がない。
何故ならば、クロカゲの存在を知っていなくても、今ここにいるべきなのにいない人物を知っていたから。
―――紅蓮と、奏。二人の、大切な仲間がここに居ないのだ。
「後輩くんは……当然分かります。私たちの失態のせいで、取り返しのつかない事をしてしまいました」
「それは……」
「ですが、影咲さんに関しては話は別です。彼女が何処で何をしていたか……ご存知ないですか?」
「っ……そ、それ……は……」
「その様子。知らない、という訳では無さそうですね」
メリドは、当然驚いていた。
こんな状況だと言うのに、恐ろしいくらいの分析力……そして冷静さ。麗はしっかりと皆をまとめ上げようとしていたのだ。
彼女だって、悲しいだろうに。
それに対してメリドは、恐ろしいくらい焦っていた。
一緒に行動していた影咲はあんな事になってしまったし、それを証明できるクロカゲも影咲を連れて、拠点へと帰ってしまったし。
「影咲ちゃん……は……」
「教えて……メリドさん。一体、影咲ちゃんはどこにいるの……?」
全員が、メリドの言葉を待っていた。
どうやら全員、覚悟は決まっているらしい。とても力強い目でメリドの事を見つめていたのだ。
彼女は「はぁ……」と一つため息をつくと、それを話した。
紅蓮を追って、影咲たちと共に蒼華たちを助けに行った事。そこで起きた、トラップによる事故の事を。
「―――ッ」
「う……そ……ッ!!!」
それを聞いた冥は、一目散に飛び出していってしまった。
「……任せて、ください」
それをすぐに追いかける悠。
彼もまた、足元がおぼつかない様子だったが―――
「ごめん、なさい。私……本当ならあなた達を守るべき立場にいるのに、誰一人……守れなくて」
「……メリドさんの、せいじゃないよ」
「蒼華……ちゃん」
「―――ごめん、しばらく一人にさせて。ちょっと、色々と考えたい事が出来ちゃったから」
そう言うと、蒼華も何処かへと行ってしまった。
小部屋には、麗とメリドが二人きりで残されてしまう。
……とても、重い空気の中。気まず過ぎる状況だった。
そんな空気の中、静寂を切り裂いたのは二人以外の人物だった。
「あ、あの〜失礼します〜」
「あ……協会の―――確かフェイルさん、でしたっけ」
「は、はい。この度はありがとうございました……ってお礼を伝えに来たんですけど、どうやらそんな雰囲気じゃなさそう……ですかね?」
「そう……ですね……」
「話は聞かせていただきました……。まさかそんな事になるなんて、思ってもみませんでした」
フェイルはとても申し訳なさそうに頭を下げた。
しかし彼女は、「で、でも!」と言葉を続ける。
「―――あなた達のお陰で、本来の任務は達成されました。それはとても、素晴らしい事です」
「……? 私たちは何にも……」
「って……ああ。そうでした。本当にお礼を言うべきは、今ここに居ない彼ら……でした」
「……」
フェイルが言っているのは、紅蓮たちが受けた、『ハンターランク昇格試験の受験者が、試験会場の洞窟で行方不明になった事件の原因調査、及びその救出』の依頼の事だ。
それが今回の事件を起こすに至った、元の話なのだから。
そう。この依頼は、紅蓮たち以外に同じく調査を進めていた他のハンターたちが、敵の本拠地―――例の廃工場から少し離れた場所にある倉庫のような場所にてそのハンターたちを発見し、無事その救出に成功したのだった。
どうやら紅蓮の後を追っていた一部のハンターがそれに気づいたらしく、その人が他の仲間たちを呼んで何とか全員救出にまで至ったのだとか。
「そう、だったんですか……という事は、元々は私たちのせいで……」
「い、いえ! そういう事を言いたいんじゃなくて……」
「慰めは、いりません。私も、少し失礼します……」
麗はそう言うと、他の仲間たちと同じように部屋を出ていってしまった。
今度はフェイルと共に取り残されたメリド。
「……情けないわね」
「な、何を言ってるんですか!? 彼女たちは想像もできないくらいの悲しみに―――」
「違うわよ。私が、よ」
「え……?」
「あんまり詳しくは言えないけどね……私だってやるべき事をやらないといけないはずなのに。ちょっと調子に乗ったらすぐこのザマよ。ほんっと情けないわ」
メリドの拳は、とても強く握られていた。
彼女もまた、とても強く後悔している人物の一人だったのだ。
「……私も、やるべき事はきちんと果たすわ。ごめんなさい、少し彼女たちと一人ひとり話をしてくるわ」
「は、はい……」
「それじゃあ私はこれで―――」
そうして、メリドもまた、ハンター協会を出て蒼華たちを探しに行こうとしていた。
「―――あ、そうだ」
……が、彼女は思い出したように戻ってくると、中にまだいたフェイルにこう言ったのだ。
「今回の報酬は、高くつけといてね?」
「……ちゃっかりしてますね。ええ、分かりましたよ」
「……ありがと。それじゃあね」
そんな短い会話の後、メリドはすぐに外に出た。
自分のやるべき事。
それを、最後まで成すために。
「待ってなさい―――絶対こんな運命なんかブチ壊してやるんだから」
◆
《???》
「―――例のガキは?」
「死んださ」
「なら例の闇魔法の女のガキは?」
「それも死んださ」
「くく……ならあとは雑魚しか居ないだろう?」
「ああ。30匹ぐらいの雑魚だけだ」
「クックック……ようやく、あの小国を我らが手中に収める事が出来るんだなァ?」
「だな。我ら《双翼の爪牙》が、遂に世界支配への第一歩を踏み出す時が来たようだな」
「ああ。“コイツ”を使って……全部……ゼンブ―――」
「「―――支配してやる」」
命からがら!(合言葉)
てなわけで新章突入からいきなり絶望感マックスですけど、ここから徐々に再起しつつ、病み度が上がっていく感じを見せれたらなって思ってます!!
次は冥ちゃんが本格的に壊れそうな予感(予言)
次回!突如現れた《双翼の爪牙》なる集団。さらには《十ノ色》なる者たちも現れて、事態は大きく動くことになる―――?
34.潰すべき敵はどっち?
お楽しみに。
更新予定日→1(木)
しばしお待ちを!!それでは!!




