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32.それぞれの道―――歩む。

―――その日、全てが絶望に染まった。



『ヒ……ヒッ! た、助かった、のか?』



 サイケリは、一人フィールドを見下ろしながら腰を抜かしていた。自分の作った自信作が、あと少しで破壊されるところだったのだ。安心と、恐怖……それだけがサイケリの心を染め上げていた。


 そして。そんな状況に彼を追い込んだ、その言葉は。



「麗……どういうつもりっ!? なんで……どうして止めるの?!」


「―――ッ……!」


「ねぇ。なに。なんなの!? アイツは―――あのロボットはあそこに寝てる子供たちをあんな目に合わせてるんだよ!? それに私だって……」


「か、彼が……まさかッ!!」


「彼……? ねぇ。さっきからなんなの? どうしてそこまで必死に私たちを止めるの……? 麗。貴女、一体何があったの……? ちゃんと、分かるように説明してよ……!」



 蒼華のその言葉に、返す言葉が見つからず爪を噛んでしまう麗。悠も同様に言葉を返せずにいた。

 すると、近くから再び聞こえる何かの起動音。そう、その音の正体は当然―――



『フフ……フハハハ!! 再起動……ここからだ。ここからが我が最高傑作“グレン”の真価の見せ所だァッ!! ―――皆殺しにしろ……“ヒカミ・グレン”ッ!!!』



 ―――発明者・サイケリの指示を受けて、黒き機械の巨人“グレン”は再び動き出していた。

 しかし、その挙動は少し危うく、どうやら先程の脚部へのダメージが大きかったようでフラついた動きが目立っていた。



「え……? 今、なんて……」


「どうして、ここでセンパイのフルネームが出てくるの……?」



 ただ、そんな動きなど彼女たちの意識には全く無かった。

 先程、機体に指示を出す謎の人物から発せられたその言葉……それだけに意識が向かっていってしまっていたからだ。



「ヒカミ……グレン……? ま、まさかね。ど、同姓同名の別人に決まってる。そうだよ……そうだよね……ぇ?」


「な、何を言ってるんですかおねーさん……。せ、センパイの名前が出てきたからって何になるんですか? た、たまたま知ってただけで、それをたまたま口に出しただけですよ……きっと、きっとそうですよ……!!」


「たま……た……ま―――?」



 “たまたま”。本当にそんな事があり得るのだろうか。

 蒼華は脳内でこの言葉を繰り返す度に、そんな考えはどんどんと薄れていく。


 段々と、自分の内から気力が抜けていくのが実感できてしまっていた。それくらいには、その一言が蒼華を絶望にまで追い込んでいたのだ。



『クッ……クハハハハ!! どうした? 戦意喪失か? なら、殺してやるよ! この最強最悪の個体、“ヒカミ・グレン”でなァッ!!』


「黙りなさい! 非道な発明者がっ!!!」



 サイケリの命で、黒き機人グレンは再び蒼華たちに向かって歩き出した。が、そこに麗が氷の魔力マナで生み出した小さな氷礫を“グレン”の足元に放ち、足止めを試みる。



「そうだ……どこでコソコソと隠れているのかは知らないが、早く正体を現せッ!! そして―――グレン……いや。紅蓮を返せッ!」


『紅蓮を、返せだとぉ……? おいおい、お前たちは何を言っているんだ? いいかぁ? コイツはなぁ―――』




「(―――やめる……のだ。それ以上、言っちゃ、だめ……なのだ……!)」




 サイケリの、煽るような言葉に反応を見せたのは……

 一人の、傷だらけの少女……桜花だった。





「(ぐれんが……ころす……)」



 そんな事があっていいはずがない。

 だって彼は……桜花の所有者マスターは、誰よりも人に優しい人だったから……。


 自分だけを傷つける……人だったから。


 だから、殺しなんて絶対にさせちゃいけない。

 そう、桜花は思う。



「(なにか……とめる方法は……)」



 どうにかして、止めなくてはいけない。あの、戦闘を。

 桜花は必死に思考を巡らせた。


 そして、とある一つの方法を思いついた。

 それは、賭けにも近い―――いや、博打も博打。大博打な作戦だった。



「……行くしか、ないのだ……!」



 桜花は震える足に力を込めて、立ち上がると。

 ちょうど自分の隣にあった非常用の物と思われる扉をこっそりと開けて、部屋の外へと出ていった。



「……! ここなのだ!」



 そして少し周囲を見回すと、恐らく“あの場所”へ行けると思われる階段を見つけ、そこへ向かって一直線に駆け抜けていく。

 一歩一歩に力を込めて、けれど素早く。全力で階段を駆け上がり、そして、登りきった先にあったのは―――



「『めいんるーむ』……! 多分、アイツはここにいるのだ―――」



 メインルーム。この建物の、全ての制御を行っている部屋。

 そして、黒き機人―――グレンを操っている人物が居る部屋だ。


 そう。桜花の目的は―――



「お前に、会いたかったのだ―――」


「―――お、お前は……!」







「―――どうした……突然黙り込んで……! グレンを返せと言っているんだッ! 聞こえていないのかッ!?」


「…………」


「オイッ!!!!」



 今まで一番怒気のこもった声をあげる悠。

 そんな彼の元に、蒼華・冥・麗の三人は集まった。



「ねぇ……一体何がどうなっているのよ……! ちゃんと説明してよ二人ともっ!」


「そうです……! 一体センパイが……どうかしたんですか!?」


「蒼華……冥さん……」



 状況の把握がまだできていない蒼華と冥は、どうしても気になっている事を麗に尋ねてみる。

 が、麗や、横で目を鋭く光らせている悠にも、それを答えることは出来なかった。


 何故ならば、あのメモに書いてあったのは“緋神紅蓮”を機体の核に使っていると同時に、既に彼の肉体が瀕死の状態にあるという事……この2点が特に重く受け止められてしまい、蒼華や冥といった紅蓮を心の底から敬愛している二人には、そうやすやすと教えることは出来なかった。



「―――いいから早く紅蓮を返してくれ……ッ! すぐに……すぐに治療をしなければならないんだッ!!」



 悠は、力の限り叫び続けた。

 しかし。肝心の指示者サイケリの声は返って来ず、当然命令を受けていない“グレン”は動こうともしない。


 場が、一気に静まり返ってしまった。



 時間はもう、あまり残されていないと言うのに。



「おい……早く答え―――」



 そう、悠がまた問いかけようとした瞬間の事だった。




『フフ……フハハハ!』



 突然、サイケリは笑い声をあげたのだ。



「何が……おかしいッ!!」


『いや……まさかの展開になりそうでな。いやいや、面白い事が起きるものだ』


「どういう……意味だッ!」



『クッ……クク! ―――こういう意味だよォッ!!!』



 そう、サイケリが叫んだ直後。

 激しい起動音と共に、再び“グレン”が動き出したのだ。



「ぐ、グレンが……!」


「―――まずいっ! みんな避け―――――」



 麗の氷魔法を無理矢理壊して、そのまま素早い動きで剣を振るうグレン。それに対して反応が少し遅れてしまった蒼華の指示は、もうすでに剣が迫って来ている中で放たれた物だった。



『―――きゃああああああああっ!』

「くっ……!! うああああっ!!」



 蒼華たち四人は、剣によって遠く吹き飛ばされてしまう。

 が、刃が身体に当たることは無く、その風圧によって吹き飛ばされただけだった。



「な、何を……ッ!」



 悠は、いち早く立ち上がって状況を確認する。

 すると、グレンはこちらに迫ってくるかと思いきや、くるりと方向転換をして、逆側の壁の方へ向かっていた。



『―――壊せ』



 そして、そんな指示が下されると。

 グレンは勢いよく壁に攻撃を加えて壁を破壊。一見無駄な行動のように見えるが、破壊された壁の内側にはとんでもないものが隠されていた。



「……あ、あれは―――ッ!?」



 それは、まるで昇降機のような物。

 ちょうどグレンくらいの大きさの物でも余裕なくらい、大きな大きなオープンエレベーターが、そこにはあった。



「っ……うう……! 今の、音は……?」


「まさか奴ら―――逃げるつもりじゃ……!」


「嘘……! ―――絶対に、逃してはだめです!」



 蒼華が一番衝撃を受けてしまったらしく、まだ起き上がれていない中、悠と麗はいち早くサイケリたちの思惑に気がついたのか、すぐに駆け出していた。

 気づいた時には、既に足が動いていた。



「そんな事は……させないッ! させて、たまるか……ッ!!」


「後輩くんは……絶対に取り返しますッ!」



 全速力で。自分の出せる、限界の力で駆け抜ける悠と麗。

 目指すは機人グレン。しかし、壁を破壊したところで、グレンは再びくるりとターンしてきて、今度は悠たちと対峙する形になった。



「ッ……!」


『回収しろ』



 再び指示が下される。

 すると、グレンは悠たちをギリギリで躱し、素早い動きで捉えられないように相手を翻弄しながら、壁際でとある一人の少女を掴むと、そのまま先程露わにした昇降機へと乗り込んだ。



「しまった―――!」



 さらにグレンは、近くの壁に手を突っ込んで、新たに壁を破壊すると、そこから二人の人物を掴んで肩に乗せた。

 一人は白衣を着た、顔の歪んだ男。もう一人は、先程壁際で休んでいたはずの少女の一人だった。



「クククッ……! 悪いがここは一旦撤退させてもらうぞ……!」



 そう言うと、グレンは左手で昇降機のスイッチを押した。

 ガガガガガ……という起動音が少しした後、グレンたちが乗る昇降機は徐々に上へと昇り始めていた。



「クソ……ッ! 絶対に……行かせるかッ!」


「悠さん……魔法、いけますか!?」


「ええ、もちろん―――」



 蒼華と冥の目の前で、彼を失う訳にはいかない。

 それに、自分たちだってここで奴らを逃してしまえば、一生後悔してしまう事になるのだ。


 だから、血肉を削ってでも、意地でも取り返さなくちゃならなかった。



 これが、【氷の魔女】と呼ばれた麗と。

 【凍てつく才能】と呼ばれた悠の、始まり。


 その、恐るべき、力の一端。





「「絶対に、取り返してみせる……ッ!!」」





 二人が、手をかざすと。

 二人の周囲には一気に氷の世界が広がった。


 まだ、力の使い方なんて分からない二人だったが……暴走した魔力は、廃工場全体を凍らせるには十分過ぎるくらいの力を放っていた。


 しかし、まだ昇降機は動き続けている。

 完全に凍りきらなかったからだ。



「まだだ……ッ!」


「はぁ……っ……!!!」



 だが、二人は諦めなかった。

 今自分に撃てる、最高火力の魔力の波動。氷の波動を、サイケリ目がけて二人同時に撃ち放ったのだ。


 ―――勝った。


 そう、二人は確信していた。




 しかし―――



「さあ、今こそ力を見せてみろ。―――“オウカ”ッ!!」


「分かったのだ。―――『【ソード変化モード』」



 一人の少女が、見覚えのある剣に瞬時に変わったかと思えば、その剣はひとりでに動き出し。

 そして―――



「―――“高速乱斬アクセルスラスト”」



 目にも止まらぬ速さで、まるで誰かが剣を振るってるかのような動きをし始めて―――そして……



「―――解除。これで、もう……私たちの勝ちなのだ」



 悠たちの最後の魔法も、剣によって打ち消されてしまい。

 昇降機は上昇を続け―――




「―――クハハハハッ!! 我らの勝利だッ!! ハーハッハッハッハッ!!!」




 やがて、そんな高笑いと共に、グレンたちは見えないところまで消えてしまったのだ。


 その日。

 蒼華たちは―――



 ―――緋神紅蓮を、失った。




「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

命からがらガラガラ。

こういう方向性で行きますよ。ついてこれますか。武器の貯蔵は十分ですか。


ブックマークや高評価を是非是非お願い致しますね!!!

次回の更新は次の木曜日か金曜日にします!!


次回から少し幕間を挟んで……新章突入するよ!!!


※3章のタイトル変更しました

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