30.桜花、危機一髪。
―――そして少女たちは、知らずに戦う。
「ぐれんを……こあ……に……?」
『ああそうさッ! キミたちみたいな子供には分からないかもしれないけどねェ! コイツは! 俺を! 最底辺まで貶めた、最低最悪のゴミ人間なんだよッ!!!』
白衣を着た、悪魔の発明者は激しくそう叫んだ。
『奴は俺をコケにしたッ! 俺の完璧な作戦を、一瞬で壊したクソ野郎なんだよッ!! そのせいで、あんな得体の知れない男に首輪を付けられて……もううんざりなんだよこのクソがッ!!』
「そんなの……ぐれんのせいじゃ―――」
『うるせェなッ!! アイツのせいなんだよ……俺が失敗するはずねェんだよ!!! ―――は、はは……そうだよ。俺は失敗なんかしないんだよ……あは……アハハハハハッ!!!』
狂ったように、どこからともなく高笑いを響かせる悪魔。
そんな悪魔は、遂に動き出した。
『あぁ……そうだ。どのみちキミたちには死んでもらわなきゃだからさ』
「え……っ―――」
『―――丁度いいや。“紅蓮”で試そっと』
そんな言葉が聞こえてきた直後の事だ。
目の前にそびえ立つ、一機の黒き機人は、その紫の瞳を輝かせた。
「……アン。今すぐに、この場所から逃げるのだ」
「エッ?」
「さっきの、蒼華たちと合流するのだ。そうすればきっと助けてもらえるから」
「な、ナニをイッテイルの?? オウカも、イッショダよね?」
桜花は左手でアンを庇うような態勢になり、黒き機人の攻撃に備えていた。
しかしアンは動かない。……いや、動けない。
どうするのが正解か、その幼い脳みそでは理解が出来なかったからだ。
「早く……早く行くのだ!!」
『逃がす訳無いだろうッ!? キミたちは知りすぎた! だから殺す―――殺れッ! “グレン”!』
サイケリの言葉に呼応するように、黒き機人は動き始めた。
最初は、ゆっくり。起動するような動き。
だけどそれは、段々と慣れていくように素早くなっていって―――
『まずは手前からだッ! そこのガキを刺し殺せェッ!!』
―――気づいた時には、桜花の目と鼻の先までその刃は迫って来ていたのだ。
◆
「―――アブナイッ!!!」
タンッ……と、誰に押されて態勢を崩してしまった。
私はそのまま、流れるように地面へと倒れ込んだ。
「う……ぁ……?」
「アブナイよッ!? ナニシテルの、オウカ!!」
「助けて……くれたのだ?」
「ウんッ!! ホラ!! ハヤクタッテ!!!」
『させるかよッ!! ガキ相手でも俺は容赦しねェ! おら! 殺れ―――“グレン”ッ!!』
「―――ッ!!」
あの男の命令を受けて、“グレン”は再び私目掛けて剣を突いてくる。
でも、やっぱり私の身体は動かなかった。
多分、理由はこれだ。
この、胸の痛み。
「ぁ……う……」
せっかく立ち上がったのに、脱力してしまう。
ぱたりとその場に座り込んで、まるで……このまま殺されるのをただ待つだけみたいな、そんな態勢になる。
「(ぐれんが……わたしを……ころす……?)」
そんな事、あの人ならする訳ないのに。
それなのに……今、こうして現実に起きてしまっている。
その事実が、どうしても私の身体から力を抜き去っていたのだ。例えそれが、“彼”が望んでしている事でないのだとしても。
『―――アハハハハハッ!!! まずは一人ィッ!!』
もう、お終いなのだろうか。
せっかく“彼”が助けてくれたこの命。与えてくれたこの身体。
ぜんぶ、全部。“今”の私があるのは、“彼”のお陰でなのに。
もう、それも終わりなのだ―――
「(死んだら……ぐれんに会えるかなぁ)」
鋭き刃が、もうすぐそこまで迫ってきている。
ああ、これでやっと楽になれるのだ。
これで、良かったのだ―――
―――グサァッ……!!
「ァ……ア……アアアアアアアアアアアアッ!!!!」
しかし。
いつまで経っても私の身体を襲う痛みは無く。
代わりに聞こえてきたのは、一人の少女の悲鳴と、鈍い音。
そして漂ってくるこの香りは―――
「血―――?」
「アァッ!! イダイ……イダイヨッ…………ォォォッ!!」
血の、匂い。
「い……ゃ……うそ……なのだ……!!」
「ァ……アアア………!」
「―――アンッ!!!!」
◆
「今の音はッ!?」
「分からないですっ! でも、何かの機械音……と、大きな叫び声が聞こえてきましたです!!」
「場所は……この先からだよね?!」
「だと思いますっ!」
「それじゃあすぐに行くよっ!!」
「了解です!!」
蒼華と冥は、逃げた少女たちを追って地下六階までやってきていた。
そして、ちょうど今さっきの事だ。冥が言った通り、道の先の空間から一際大きな叫び声と、それと機械の足音のような音が聞こえてきたのは。
「この先で……一体何が……!」
蒼華たちは決して強い訳じゃない。
まだ、日本から召喚されて日が浅いのだ。“本物の戦”とは遠くかけ離れた、平和な暮らしをしていた人の中でも少し抜きん出て強いくらいの力しか持っていない。
だから、それをその目で見た時。
彼女たちは、あ然するしか無かった。
「こ……れ……は?」
アニメだけの話だと。漫画だけの話だと。
ゲームだけの話だと。そう思っていた。ずっと。
だけど。
「こんなの……」
冥は、その場ですくんでしまっていた。
平和とは程遠いその光景に、恐怖してしまったのだ。
目の前に広がっていたのは異様な光景。
一人の少女の足に、一本の巨大な剣が刺さっていて。その傷あとから、ドクドクと血が流れ出ていて。
そしてその剣を持っていたのが、企画外の巨体だった事。
ロボット兵器が、小さな少女を殺しかけていたのだ。
血の匂いと、少女の嗚咽が二人の耳には聞こえてくる。
―――こんなの、あの時の光景とは全く違うじゃないか。
『アハハハハハッ!! やれ、“グレン”! どちらでもいいからまずは一人殺すんだぁッ!!』
どこからか、そんな声が響く。
だが、その言葉を聞いた瞬間。
―――蒼華の中で、何かが引っかかって。
「(グレ……ン?)」
あの時の、ハンター協会の総力をあげて戦った“魔獣”戦とは全く違う状況。
今回は、あの時とは違って動ける人間は蒼華と冥しかいない。
それが蒼華の頭ではちゃんと分かってて、その上で、蒼華は足を動かしていた。
『殺せェッ!! そして見せつけてやるんだ、世界にッ!!! 俺は失敗なんかしない、最高の発明者なんだとなァッ!!!』
「(だめ、だめ……だめッ……!!!)」
“グレン”と呼ばれた、黒き機人は。
その手に持つ剣を再び構えて、少女の居る方へと放った。
「だめぇっ!!!」
『何……ッ!?』
しかし。
「あぶな……かったぁ……っ!!」
「うぅ……っ……ぐれん……ぐれぇん……」
蒼華は何とか危機一髪でそれを未然に防ぐ事ができたのだ。
ただ一つ、やはりさっきから蒼華の頭の中には引っかかっている事があった。
『チッ! また邪魔かよ……しかも2匹ッ……!! ……だがまあいい、試験運用にはぴったりじゃないか。女子供しかいないなんてなァッ!』
「あれは……明らかに悪者、だよね。―――ねぇ、二人とも。これって一体どういう状況なの?」
蒼華は、自身の履いていたズボンの裾の部分を勢いよく千切ると、それをアンの傷ついた脚に巻きつけて、応急的な治療を施しながらそう聞いた。
しかし……
「イダ……イ……」
「ぐれん……ぐれんっ……」
少女二人は、怯えて話もできない様子だ。
だが、片方の少女も、“ぐれん”と言う言葉を使っていた。
あの、謎の声も“グレン”と言っていた。
「(まさか……)」
そんな事が、あるはずが無い。
たった今、馬鹿な考えが脳裏をよぎった。だけど、そんな事はあっていいはずが無いのだ。そう、蒼華は自分自身に言い聞かせていた。
「……何はともあれ、アイツは倒さないとヤバそうだよね」
「お、お姉さん……?」
「やれるかな、冥」
「……お姉さんは勝算が無い戦いは絶対にしない人です。お姉さん―――ううん、蒼華さんがやれるって言うんなら……きっと勝てます」
「そっか。ありがと、冥―――それじゃあ。やろうか」
蒼華は、少女たちを部屋の奥の方へ運ぶと、事前に買って懐にしまっておいた武器を取り出した。
「それは?」
「ん、これはね……」
『チッ……女二人で何ができるってんだ!! やれ、“グレン”ッ!!』
そんな命令が下されて。
黒き機人は、素早い動きで剣を振り下ろしてくる。
だが。
それは―――
「ふんッ……!」
ガァァンッ……!!!
という、金属同士の打ち合う、重い音が響く。
「げ……マジですか、お姉さん」
「どう? すごいでしょ、このメリケンサック!」
……なんと。蒼華は、その拳一つで、巨大な剣の攻撃を防いでしまったのだ。
「さーて。何がなんだか分からないけど、まずはコイツを倒すよ!! 話は全部終わってから! いけるね? 冥!」
「了解ですッ!! やりましょう! お姉さん!!」
◆
「―――ぁ……う……それ、は……倒したら……」
震える声で、誰にも聞こえないように呟く。
「それは……ぐれん……なのに……」
あの機械の体が無くなったら、ぐれんは、助からない。
そんな、気がする。
もう、死んでいるかもしれないのに、そう思えて仕方がなかった。
「やめ……て……っ」
だけど、この声は誰にも届かない。
もう、一縷の望みも―――
「だれ…………か……っ」
―――此処には、存在しないのだ。
◆
「―――これで……最後ッ!!」
「ぐあああっ!!」
ドタッ―――
と獣人兵は、悠の一撃によって気絶し倒れ込んだ。
これが、最後の一人だ。
「なんとか……片付きましたね」
「ええ。本当にありがとう……あと、お疲れ様」
「いえいえ。男として当然の行動をしたまでですよ」
「あら、なかなかカッコいいこと言うのね―――って、何か落ちたかしら?」
カラン……という音が聞こえて、麗は咄嗟に反応する。
「……落ちた……って、これですかね。なんだろう……鍵……? “研究室”、って書いてありますけど」
「研究室……っていうと、さっき見たわね。確かそこの通路の突き当りのところよ」
「どう、しますか?」
「行ってみましょう。何か分かるかもしれないわ」
「分かりました。それじゃあ俺が先行して行きます。会長は後からゆっくりでいいのでついてきてください」
「ええ、分かったわ」
そうして、悠が先行して、麗の見たという“研究室”まで一直線に向かうと。
「―――ここが、研究室?」
鍵はしっかりと刺さって、中に入ることができた。
のだが……
「名前の割に、なんにも無いのね。あるのはこの……メモ書きだけかしら」
棚や机はあるのに、それだけで何にも無いのだ。
麗の言うとおり、あるのは3枚のメモ書きのみ。
そして、その一枚の中には―――
「なに、かしら……これ―――」
「どうかしたんですか?」
「これって―――後輩くんの、名前じゃ……?」
機体ナンバー2、“ヒカミ・グレン”と書かれた物が、入っていたのだ。
毎度命からがらの更新〜……!
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