表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/61

28.罠にはまってしまった。

―――絶望、それは唐突に訪れてしまうモノだ。





「よい……っしょ!」

「ヤッタ!」


「二人とも、ありがとう。大丈夫……? 怪我とかしてないか?」


「うん、大丈夫なのだ〜!」

「チョットタイヘンダッタヨ」



 俺は桜花とアンの二人に、何度も「ありがとう」とお礼を伝えながら、周囲を見回していた。

 廃工場の中には地下へ降りるための鉄の梯子があって、それを降りるのに車椅子に乗ったままの状態ではかなり苦労したのだ。


 桜花とアンが力技で無理矢理俺を降ろしてくれたことで、何とか地下一階にやってくる事が出来た。



「……なんかちょっと臭いのだ?」

「“チ”ノニオイ?」


「(血の……?)」



 アンのその言葉に、一瞬だけ疑問を抱いてしまう。

 獣人の嗅覚は鋭いと言われているが、ここにはまさに今降りてきた鉄梯子があるのだ。

 だからその鉄っぽい香りと間違えたのか……とも思うが。


 一応、多少は警戒しておいた方が良さそうだな。

 今はまだ二人に守られているだけだけど……本当なら俺が二人を守らなくちゃいけないんだから。



「……よし、二人とも。とりあえず今は先に進もうか」


「わかったのだ!」

「ウン!」


「だけどこれだけは守ってくれ。―――もし怖い奴が来て、危ない目に遭いそうになったら……その時は、俺を見捨てて逃げるんだ。これは、絶対守ってくれ……絶対、だぞ」



 俺は二人にそう繰り返し忠告した。

 しかし当の本人たちは、



「ん? 何を言っているのだ?」

「グレンハ、バカ」



 と、まるで俺の方がおかしい事を言っているかのような反応をしてくるのだ。

 流石にこれは看過出来ない。そう思って、さらに強く忠告する。



「何があっても、絶対に俺を捨てて逃げるんだ! 頼むから……そうしてくれ……! じゃないと俺は…………ッ!」


「ぐれん……」

「キュウニ、オオキナコエ……ビックリシタ」



「頼む……これだけは、絶対に約束してほしい。絶対に、だぞ」


「はぁ……はいはい。分かったのだ〜。ぐれんがそこまで言うのなら、そのお願いを聞いてやるのだ!」

「オウカガイイナラ、ワタシモイイヨ」


「……ありがとう。二人とも」



 本当にこの二人には頭が上がらないな。

 出会ってから助けられてばっかりで……でも、今は下を向いている時じゃない!



「(待っててくれ……姉ちゃん……影咲ッ!)」


「それじゃあ、出発するのだ!」

「ゴーゴー!」





《廃工場 B2F》



「スロープがあって助かったよ、ホント」


「なのだ〜」



 あれから地下一階を探索してみたが、特にこれといった物も見つからず……。

 道なりに進んでいくと、そこにはスロープがあって難なく地下二階へとやってくる事が出来た。


 だが、ラッキーが訪れた反面。

 当然、アンラッキーも訪れる訳で―――



「シッ。ダレカ、イル」


「……ッ!」



 アンの耳が、誰かの足音を捉えたらしい。

 咄嗟に俺たちは物陰に身を隠した。廃工場の地下、というだけあって、そこには木箱や謎の機械が所々にあって、まるでスニーキング系のゲームをやっているみたいな感覚だ。


 俺の車椅子も、何とか隠れられそうでこれまた助かった。



「……もういったのだ?」


「……ウン。タブン」


「それじゃあぱぱっと進むのだ!」



 小声で会話する二人。

 俺はその強気さに若干の不安を感じるが、今の俺は何度も言うように行動不能な状態だ。


 だから、今はとにかく進むしかないのだろう。

 二人の意思のままに。



「ん……?」



 すると進み始めた直後の事だった。

 俺の視界には、とある一枚の紙きれが落ちていたのだ。



「どうかしたのだ?」


「ちょっとそこで止まってくれるか? 何か落ちているんだ」


「分かったのだ〜」



 車椅子を止めてもらって、そこに落ちていた紙きれを拾い上げる。何やら見たことのある紙きれだけど……




『“ヒカミ・グレン。貴様の大切な―――――”』




「(この……手紙は……ッ!?)」



 どうしてこれが、ここに落ちているんだ。

 だってこれは、出発前に俺が探していたサイケリからの手紙じゃないか。


 そんな、まさか。

 だって、この手紙の存在を知っているのは俺以外には―――



「(―――まさか。影咲……なのか……ッ!?)」



 まさか。そんな馬鹿な事が有り得るのか……?

 だけど、もし、そうだとしたら……。



「―――影咲が危ない……!」


「……その紙、もしかしてなのだ?」


「ああ。サイケリからの……あの手紙だった。そしてこれがここに落ちているってことは……」


「内緒でここまで来たわけだな?」


「多分な。でも、そうだとしたらメリドさんやクロキリさんも居るかもしれない……のか。それなら多少は―――」




「―――ソノテガミ、フタリノニオイシカシナイヨ」



「えっ……?」



 アンが、俺の持つ手紙をくんくんと匂いながらそう呟いた。

 ―――手紙から、二人の匂い? だけど、それなら俺と影咲の匂いでちょうど二人分じゃ……



「オンナノヒトノニオイカナ? フタリトモ」


「は―――?」



 俺の匂いはしていない……のか?

 とにかく何にせよ、俺以外の女性が二人もその手紙に触れたと言う事だ。一人は影咲だとすると……もう一人は―――



「メリド……なのだ?」


「かもな。多分、この先に二人は居るんだと思うけど……」


「ジャアイコウ! ナカマナラ、アンシン!」


「なのだ!」


「あ、ああ……分かった」



 やっぱり、不安だ。

 どうしてこんな時に俺は動けないんだろうか―――


 不安感はただただ募るばかりで。

 それでも、俺を乗せた車椅子は桜花たちの手によって前に進んでいく。



「(皆……無事でいてくれよ―――)」





《廃工場 B3F》


  

「……行ったか?」


「ウン。タブンモウダイジョウブ」


「良かったのだ……」



 再び見張りの目をかいくぐった俺たちは、あれから地下三階までやってきていた。

 が、先程からやけに監視の目が緩い気がする。俺がこんな状態だから、結構音も出てるし、隠れ方もガバガバなはずなのだが……



「(……大丈夫、だろうか……)」



 直感が危ないと告げている。

 だけど、俺に進むことを拒否することは出来ないし、そもそもここに来た目的が目的だから、帰るなんてのは以ての外だ。



「よし、進むのだ!」


「ア! マタサカミチ! アソコマデビューン! ダヨオウカ!」


「分かったのだ〜!!!」



 すると二人は、監視が無い今が好機だと思ったのか、一気に車椅子を押して通路を駆け抜けていった。

 このまま地下四階まで行けるなら、大きな一歩になるだろうが―――





―――事はそう上手くは進まなかった。





「―――打てェェェェェェェェェッ!!!!」




 刹那。そんな号令と共に。




「……ッ! 危ないッ!!」



 俺は、車椅子を無理矢理振り払って、ハンドルを掴んでいた桜花とアンをスロープ方向に突き飛ばした。



「きゃっ……!」

「イタイ……ッ!」



 火事場の馬鹿力がこういう時に発動してくれて俺としてはかなりありがたい話だ。

 上手いこと二人を吹き飛ばす事が出来た―――が、そう安堵したのもつかの間。


 ダダダダン! と重厚な音が響いて。



「っぐ……ぁ……!」


「ぐれんっ!!!」



 俺は、弾丸のような物に肩の辺りを貫かれていた。

 痛い―――痛いけど……アンを助けたときに比べたらこんな痛み―――



「ぐれん……っ!!!」


「来るな! ―――来ちゃだめだ……! 早く、早くそのまま逃げてくれ……ッ!!」


「だけど……っ!」




「奴らも逃がすなッ! 捕らえてサイケリ様に差し出すのだッ!!」



 敵の声が聞こえる。

 だけど、そんな事にはさせてたまるか。二人は、何としても俺が守り抜くんだ。



「早く行けッ!!!」


「いやなのだッ!!」



「―――いいから早く行けって言ってんだろッ!! 言う事聞かないなら捨てるぞッ!!!」



「捨て―――な……んで……っ……。なんでそんな事いうのだ……っ……!」



 俺は決して振り返らない。

 背後から、桜花の涙ぐむ声が聞こえてくるが、俺は精神をすり減らして、溢れ出る想いも抑え込んで。


 二人を守りたい一心で、怒声を放った。



「いいから……行けよッ……!! 俺なんかと居るより……きっと他の奴と居る方がおまえにとっては幸せなんだから……ッ!」


「―――ッ」



「打てェッ!」



 ダダダダダダンッ!



「ぁっぐぅ……っ……! 痛い……痛い痛い痛い痛い痛いっ……!」


「ぐ、ぐれ―――」



「いいから……いいから早く行けよッ……! 最期の―――俺との約束くらい―――守って、くれ―――よ……ッ!!」



 やばい。

 意識が、もう保たない。


 何も、考えられない。

 何もかもが麻痺したみたいだ。





「―――よし。そいつは完全に抑え込んだ。コイツは我々でサイケリ様の下に運ぼう。残りのガキ共はお前たちが捕らえてこい。いいなッ!?」


『ハッ!!』





 だめ―――だ。

 早く、にげて―――




「っ……お、おい! まだ立ち上がってるぞ……!」


「―――ぁ……うぁ……あああああ!」



 ガッシャァァァァンッ!!

 俺は、震える腕で車椅子をスロープ方向に投げ飛ばした。


 これが、俺にできる最期の時間稼ぎだ。

 頼むから、二人とも―――逃げていてくれよ―――?



「ぅ……ぁ―――」



 次の瞬間。

 俺の意識は、完全に消え去っていた。







「はぁ……っ! はぁ……っ!」


「グレンハ……? グレンハッ!?」



 何が、起きたのだ。

 なんで、なんでここにぐれんがいないのだ。


 どうして、なのだ。





「―――近くにいるはずだ! 探せ!」





 なんで、こんな事に―――



「ナンデ。ナンデナノ、オウカッ!!」


「……分からないのだ。私にも……なんにもわからないのだ……っ」



 助けてほしいのだ。

 このまま、私も殺してほしいのだ―――っ。



「グレンハマダ、イキテルヨネ。ネェ!」


「ぇ……ぐれんは、まだ……だいじょ―――――えっ……?」



 あれ。

 おかしいのだ。


 なんで、何も感じ取れないのだ?



 いつもなら、契約した証として魔力的な繋がりが感じられたはずなのに。



 それが今は、何も無いのだ。



「ぇ……?」



 そんな事……あり得るわけがない。

 おかしい……おかしいのだ。



「ネェ……ナンデダマッテルノ! グレンハ、ブジナノ!?」


「……わからない……っ……のだ……っ……!」



 涙が、気付いたら止まらなかった。



「ナンデ……オウカガナイテル……ノ?」


「分からない……のだ……っ……!! なんにも……分からないのだっ……!」



 頭が真っ白になって、もう何も考えられないのだ。

 ああ、私もここでお終いなのだ―――





「―――おわっと……! キミ、大丈夫?」


「だれ……なのだ……」




 聞いたことある、声。




「私? 私は、私だよ?」


「その、声は―――」



 ぐれんの


 たいせつな


 ひとの



「こ……え」





「―――緋神蒼華、ただいま参上しました! ってね!」

今回も無事に更新できました……!

少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークや高評価での応援をよろしくお願い致します!


紅蓮の周りが強くなってからが、この作品の本領発揮なのです。

姫プレイが見れるのはもう少し先なのです(小声)


次回更新予定→土、日曜日のどちらか(までには)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ