26.勇気を出したら最悪の結末に……。
―――少年が目覚めた時、既に少女は居なくなっていた。
「お、俺が名前を……?」
「ソウ。グレン、ワタシノ『ナマエ』キメル」
「え……で、でもそんな事急に言われても……」
戸惑う俺。
だって仕方無いじゃん。そんな、名付けろって急に言われて簡単に決められるかって……。
しかしそんな俺の気持ちとは反対に、少女は純粋な瞳で俺の事を見つめてくる。まるでおもちゃを買ってもらう瞬間の子供のようだ。
相当楽しみなのだろう。
今の名前がよっぽど気に入らないのか、はたまたそれとは別に、単純に俺に新しい……そう、いわば“あだ名”のような物が欲しいだけなのか。
真意は彼女にしか分からないが、どちらにせよこれからその名で彼女の事を呼ぶことになるのだ。
―――慎重に決めなくてはならないだろう。
「分かったよ。ちょっと待っててね」
「ウン!」
元気よく返事をしてくれる少女。
うむ、いい返事だ。
それならばこちらもそれ相応の形で応えなくちゃな。
そうだな……。
少女の特徴は何度も言うようだが、長く伸びた金髪に、真紅に輝く瞳、長く立派な牙……と、“可愛さ”・“美しさ”・“カッコよさ”が混在する、逆にアンバランスな見た目をしているのだ。
それでいて表情はとても優しそうな……悪く言えば無知ゆえの幼さ、みたいな物が残る顔でぷにぷにしたほっぺたが特徴的だ。
さらにその肌はとても白く輝いていて、獣人たちの話から仕入れた情報通り、かなり人間に近い肌をしていた。
あと特徴的なのが、首を拘束する器具だ。
これは外れないのか、もしくは外してないのか……これまた真意は不明だが、それもかなり目立っていた。
黙っていれば博識そうだが、喋ればたどたどしい言葉遣いという点もかなりギャップがあって魅力的ではある。
立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花―――って例えは全然違うのかな。まあ子供に使う表現では無い……のかも。
「う〜ん……」
「厶、ムズカシイ?」
「ううん。全然大丈夫だよ。もう少しだけ待っててね?」
彼女を待たせるのも申し訳ないし、そろそろ決めてしまわないと。
なんて思っていると、
「なんか私の時は早く決まったのに、今回は随分と悩んでいるんだな」
「それはだって……あの時はお前にぴったりな名前がパッと思い浮かんだからであって……」
「あー、それじゃあこの子はパッと思い浮かばないってことなのだー?」
「ち、ちがっ……! そういう意味じゃないけど……!」
「ならさっさと決めるのだ〜」
「ぐ……わ、分かってるよ!」
クソ……なんだか桜花のヤツ、だんだんとムカつく態度になってきたな。まさか反抗期でも来てるのか?
って、そんな事よりも、だ。
そうだな……どこの特徴を取るか、がポイントだが……。
「(特徴が多過ぎるッ……!!!)」
タイプ別の、優秀な特徴がそれぞれ集まったような容姿のせいで“アンバランス”という言葉しか出てこないんだ。
だがそれじゃあ名前にするには―――
……あ、いや待てよ。
これなら全然違和感無いんじゃないか……?
「うん……これなら、合ってるかも……」
「ナニナニ? キマッタノ!?」
「うん。一応、だけどね」
「キカセテ! キカセテ!」
うぅ……こんな純粋な目で頼まれたらなんだか言い辛いが。
別にそんなかわいい訳でもカッコいい訳でも無い名前が思い浮かんじゃったし……でも、それ以外思いつかないし、言うしかない―――!
いざゆかん。
覚悟を決めた俺は、その『名前』を彼女に告げた。
「―――『アン』、なんてどうかな? 意味は、色々とあるんだけど」
「アン……! ヨビヤスイ、ダカラスキ!」
「お……気に入ってくれたみたい……?」
「キニイッタ! ワタシノナマエ、コレカラ“アン”! ヨロシク、グレン!」
そう言いながら、アンはこちらへたたたっと駆けてきて、そしてにぱっ!と笑うと右の手を俺に差し出してきた。
多分、握手を求めているんだろう。
「はい!」
「ン! コレデ、モウダイジョウブ!!」
さっきまで「恥ずかしい」なんて言っていた子と同じとは思えないくらいの変化だ。アンは俺の目を見てそう言ってくれた。
「よーし! 二人が仲良くなったところで、今度は買い物に行った奏たちを探すのだー!」
「え、影咲たちは買い物に行ってるのか?」
「あ、言ってなかったのだ?」
「うん、聞いてないな」
それは初耳だ、桜花よ。
まあ俺はこうして眠っていた訳だから、知らないのは当然なんだけど。
「そっか。それなら今言ったからいいのだ〜」
「オウカ、エライ!」
「えへへ〜、アンに褒められたのだ〜!」
「それでいいのか……桜花……」
なんか少しだけ幼稚園味が増してきたこの空間で、俺は一人ため息をついた。
この二人の相手は癒やされる反面、気疲れもするみたいだ。そこら辺は今後の課題になるだろうか。
ってか、それよりもだ。
「(どーすっかな……)」
辺りはもうすっかり夕方だし、何よりもここは獣人の国なはずだ。
そんな不慣れな状況で今から影咲たちを探すとなると、何処をどう探せばいいのか……。
それに、俺の負ったこの背中の傷が痛すぎるせいで、多分まともに歩けないだろう。
正直とても情けない話だ。これから姉ちゃんたちも助けないといけないと―――い、う……の……に―――
「(姉……ちゃん?)」
あ……れ。
そう言えば、すっかり忘れてたけど……この国に来た本来の目的は姉ちゃんたちを探して救い出す為であって―――
―――そうだ。確かポケットに、あの男……サイケリから届いた手紙があったはずだ。確かあれに、姉ちゃんたちの居る場所や指定された日時が書いてあったはず。
「(あれ……無い?)」
そんなはずはない。
忘れないようにと、ポケットに入れておいたはずなのに。
「ぐ、ぐれん? どうしたのだ、突然慌てて」
「ダイジョウブ?」
二人は不安気な表情で俺の事を見つめてくる。
だがその表情は、俺の焦る心をさらに掻き立てていた。
「(なんで……なんで無いんだっ……?)」
俺以外にあの紙を必要とする人は居ないはず。
まさか影咲たちが取ったわけじゃあるまいし―――
「(いや……待てよ……? そんな……まさかな……?)」
桜花はさっきこう言ったんだ。影咲たちは“買い物”に行ったのだと。
いくら俺がこんな状態だからって、俺を放って勝手に向かうだなんて考えられない。だってメリドさんやクロキリさんも居るんだぞ? なら二人だってきっと止めてくれるはずだ。
そうだ……きっと大丈夫だ。
冷静になれ、俺……こんな時こそ冷静に成らなくちゃ駄目だろ……?
「(確か……指定されていた時間は夜の―――)」
時間的にはもうこのあとすぐといった所だろう。
だったら、俺が取るべき行動は一つだけだ。
「桜花……すまないが俺をとある場所まで連れて行ってくれないか?」
「―――だめなのだ」
「ど、どうしてだ……っ? 別に変なところに行く訳じゃ無―――」
「嘘をつくのはやめるのだ。 ぐれんのその顔……とっても怯えてるように見えるのだ」
「……そ、それは……っ!」
「あの男のところに、いくのだな?」
「……それは……」
「はぁ。別に隠さなくてもいいのだ。どうせ私も行こうと思ってたからな!」
「お、桜花……っ! だけどお前は―――」
「いいから! 気にしなくて、いいから……」
「……でも」
「でももなんでもも無いのだ! さ、行くのだ〜!!」
そう言って、桜花が持ってきたのは一台の車椅子だった。
「それは?」
「見ての通り、車椅子なのだ! これでぐれんを運ぶのだ〜!」
「げ……マジ……?」
「マジマジ! 大マジなのだ!! さ、早く行くのだー!!!」
「え……嘘、だよな? こんな恥ずかしい格好のまま―――」
……直後。俺は、人生で初めての車椅子を経験する事になるのだった。
◆
一方その頃。
「ほんとに、いいんだね?」
「はい。もう、覚悟ならここに来る途中でしてきましたから」
「それなら良いんだ。私たちにできるのは、影咲ちゃんを全力で守る事だけだからさ」
「ああ。覚悟が出来てるのなら、これ以上我々から言うことは何も無い」
影咲たちが訪れていたのは、見覚えのある廃工場。
皮肉な話、以前の「あの場所」とほとんど同じような場所に、それはあったのだ。
―――《発明者》サイケリの本拠地。
そう。影咲たちは、紅蓮に秘密でここまで訪れていたのだ。
影咲の手には、紅蓮が探していたサイケリからの手紙が握られていた。
「多分、このあからさまに怪しい梯子を降りるんだと思うけど……」
「ふむ。ならばここは先行して私が行こう」
「待ってください。それなら、私に行かせてくれませんか?」
「……危険だ。それは許容出来ないな」
影咲の言葉に、クロキリは威圧的な口調でそう返した。
しかしそれで影咲は怯まず、再び言った。
「これは、私の覚悟の表れなんです。証明させてください―――私の、強さを!」
「しかしだな。どんな罠があるかも分からないのに先に行かせるわけには―――」
「―――クロキリ。そこまで彼女が言ってんだから、少しは尊重してあげなさいよ。女の意思の固さは、ちょっとやそっとじゃ崩れるモノじゃないんだから!」
影咲の提案に反対するクロキリ。
それに喝を入れたのは、メリドだった。
普段のおちゃらけた様子とは一転、今のメリドはかなり真剣な様子だった。
その様子にクロキリも心を動かされたのか、
「……分かった。お前たちがそこまで言うのならば、良いだろう。ただし危険と判断したらすぐに私が先行させてもらう。それで良いな?」
そう言って、影咲の提案を飲んだのだ。
「はい。ありがとうございます―――それじゃあ……」
提案が受け入れられるやいなや、早速梯子を降りようと梯子に足をかける影咲。
「(待っててね……紅蓮君。私が君のお姉さんたちを助けてみせるから……! そしたらきっと君は―――私を……!)」
覚悟と、秘めたる想いを胸に梯子を降りていく影咲。
カン、カン、カンと鉄製の梯子の、無機質な音だけが響く。
降りていくと見えてきたのは、長くて暗い通路だった。
明らかに怪しい気がするが、それでも影咲は臆せず梯子を降りていく。
あと少しで地面だ。
きっと、この梯子を降りきってからがこの戦いの、本当の始まりなんだ。
「(絶対に……振り向いてもらうんだから……っ!)」
たん……っ。
ついに、影咲は梯子を降りきった。
―――降りきって、しまったのだ。
次の瞬間。それは、刹那の出来事だった。
―――カチッ。
そんな無機質な音と共に、影咲の右足は少しだけ沈んだ。
感じた違和感の正体に気づいた時には、もう遅かったのだ。
「えっ―――」
壁が開き、目の前には巨大で鋭いドリルがあった。
それは、影咲の小さな身体を貫通させるには、十分過ぎるくらいの大きさの物だった。
グサリ。
そんな鈍い音が響き―――影咲の身体には。
とても回復が不可能なレベルの、大きな穴が、空いていたのだ。
ギリギリ書き上げてきました……!
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何卒!!
次回更新予定日→水曜日or木曜日
次回はサイケリの陰謀が動き出します―――




