25.助けたら王子様になっちゃった。
―――少年の記憶。その身体に刻まれた力。
「そいつを捕えろッ!!」
「クソッ! コイツ、ここから動かねェッ!」
「ンだよ、接着剤でもついてんのかよッ!!」
ザクッ、ザクッ……。
そんな鈍い音が俺の体から響いている。
痛い。痛いなんて言葉で形容できない程に、俺は痛みを感じていた。
泣いて、叫んで、嗚咽したい。だけど、だけど耐えなくちゃ。耐えないと―――この子が!
「チッ……たまにいる商品泥棒かと思ったが……なんだコイツ、何にも持ってねェじゃねーかよッ!!」
「どうでもいいから早くどけろよッ! 最悪殺しても構わねぇからよ!」
「分かってらァ! だけどコイツ、中々しぶとくて……ッ!」
俺は自分の身を呈して、オークションにかけられていた獣人の少女を守っていた。その子に、助けを求められたから。
舞台のリングの上に上がり、周りの観客たちが困惑する中で俺は、その少女を連れ去ろうとしたのだ。だが当然、そんな事をしようとすれば主催者や観客たちが黙っていない。
流れるように俺は抑え込まれた。
しかしこの少女だけは守りたかった。
理由は分からない。
でも―――この感覚は、“あの時”と同じ気がする。
桜花と出会って間もない頃、俺が死にかけた……あの時と。
あの時も、無我夢中で影咲を庇ったけど―――今回もその感覚でこの少女を守っているのだと思う。
「緋神くんっ!!」
「ぐれんっ!!!」
「少年っ!!」
「緋神ッ!!!」
少し遠くで、仲間たちの呼んでる声がする。
でも助けには来てくれないみたいだ。
いや、多分、来れないんだと思う。
あれだけ観客が居たら、きっと半分以上は向こうの相手に行ってしまうだろうから。
「そろそろトドメと行こうや……ッ!」
「死んで悔めよ人間のガキがッ!!」
もう死ぬのか?
いや、また死ぬのか?
痛い。痛い……ッ!
でも、耐えなくちゃ―――
―――『紅蓮。もしも私が助けに行けない状況があったら、その時は自分の力で何とかするんだよ?』
姉ちゃん……ッ!
こんな時に姉ちゃんの言葉を思い出すなんて―――
―――『どうすれば……って。そんな事も分からないの?』
……分からないよ。
体中が痛くて、敵も沢山居て……俺はもう死にかけで。
―――『大丈夫。紅蓮、私が教える事は全部役に立つ! っていっつも言ってるでしょ。だから、大丈夫だよ。私が教えてきた事を思い出して、戦うの。ま、紅蓮がそんなピンチに陥るような事には絶対に私がさせないけどね!』
姉ちゃんが……教える事は全部役に立つ……か。
いっつも肝心な時に居てくれない、アホでゴリラな姉ちゃんだけど……でも。
「オラァッ!! 死ねやァァァッ!!」
「―――駄目っ!! いやぁっ……緋神くんッ!!!!」
―――グサァッ……。
そんな、ナイフの刺さる鈍い音が鳴った。
だけど。
俺は立ち上がっていた。まだ、生きていたんだ。
「―――は……? 嘘、だろ……?」
「……ようやく、思い出したよ姉ちゃん。この子を守るための力はもう……持っていたって事を」
「そんな……ナイフを……素手でッ……!」
俺は突き立てられたナイフを右手で掴んでいた。
当然刃は俺の手に刺さるが、今更こんな痛み……なんとも思わない。
立ち上がる事すらままならないし、痛くて倒れそうだし。
だけど、姉ちゃんの教えが、俺をこの場に立たせてくれているんだ。
諦めるわけには行かない。
それに、こんな所で死ぬわけにもいかない。
「クソガキが舐めやがって……ッ!!」
俺にナイフを刺してきた獣人の大男は、再びナイフを構えて突進してくる。
視界も意識もぐらつくが……まだ戦える。
こうすれば、こんな大男でも……ッ!
「―――フッ……!」
「ぐああぁっ!!」
ダァンッ!と大男は俺の足かけを喰らってその場に顔から勢いよく倒れ込んだ。
そして決め技として、
「おらっ……!」
「ガアアアアアアアアアッ!?!?!?」
キン○マを思いっきり蹴ってやった。
どうやらコイツらにもちゃんとあったみたいだ。キ○タマ。
男ならここを蹴ってやれば数分間から数十分間は動けなくなるって、姉ちゃんに教えられてたんだ。これが結構役に立つのなんの。
「落ち着けオメェら! 奴はもうボロボロだし、こっちにはまだ十人以上居るんだッ! 数で攻めればアイツは確実に殺せるはず……タイミング合わせて行くぞッ!!」
『了解ッス!!』
と、ちょうど俺が大男のキンタ○を蹴り上げた直後、周りの獣人たちも連携を取って動き始めていた。
数は大体十人程度。まあ、もしかしなくても相当ヤバイ状況なのは確かだな。
だけど大丈夫だ。
体中の切り傷の痛みはヤバいけど、まだ何とか持ちこたえられそうな気はする。
それに、こういう時の対処法も姉ちゃんに教わっているからな。
「行くぞ……一斉に飛びかかるからなッ!!」
「ッ……!」
状況は最悪だ。
周囲を囲まれて、しかも上への逃げ道も封鎖するらしい。
だが、それならそれで逆に最高の状況かもしれない。
あとは姉ちゃんに教えてもらった、攻撃の避け方さえしっかりとできれば……!
「せーの―――跳べッ!!!」
「3……2……1……今だっ!!!」
悲鳴を上げる肉体を酷使して、俺は獣人たちが跳んで生まれた足下のスペースからスライディングして抜け出すと、そのまま獣人たちはそれぞれでぶつかって自滅していった。
どうやら頭を強打したらしい奴が多くて、ほとんどの獣人はその場で既にダウンしていたのだが……
「ぐっ……やられたか―――だが、まだオレが残っている!」
「オレもなッ!」
まだ二人ほど立ち上がっていた獣人が、一斉に襲いかかってきた。しかし、先程のような連携はもう取っている余裕は無いようだった。
これくらいなら俺一人でも簡単に相手出来るだろう―――ッ!
「オラァッ! とっととくたばれうがあああああっ!!」
「おいお前ッ! なに簡単にやられてうわああああっ!」
大ぶりの攻撃をかがむ事で躱した俺は、そのまま力を込めて奴らの腹を殴ってやった。
二人目に関しては油断と隙が多すぎて、拳を打ち込むのはだいぶ簡単だった。
「はぁっ……はぁっ……」
痛い。痛すぎる。
でも、勝ったんだ……俺、この子を守り抜いたんだ。
やったよ、姉ちゃん……!
ありがとう……俺に守る力を教えてくれてっ……!
「あ……れ……? もう力が……入ら、な―――」
「緋神くんっ!!」
「ぐれんっ!!!」
なんか、安心したら急に力が抜けて……
「ゆっくりお休み、少年―――」
直後、俺の視界は暗転して消えた。
■
「…………」
あれから、どうなったんだろう。
記憶は確かにある。俺があの獣人の少女を助けて、そしたら襲われて。
何とか勝ったところまでは覚えてるけど……そこからが分からない。
「いっ……つ!!」
寝ている身体を起こそうとしたら、背中側に受けた傷の痛みが全身に駆け巡ってたまらずすぐに倒れ込んでしまった。
ぼふっ、とベッドに寝転ぶ俺。不思議とここで寝ている間は背中の痛みも感じなかったのだ。
「はぁ……」
ため息をつきながら窓の外を眺めると、辺りはすっかり夕陽が差し込んでいた。
カーカーと鳴くカラスの声が聞こえてきて、少しだけ子供の頃を思い出す。しっかりとカラスの声を聞くことなんてあんまりなかったからな。
「それにしても静かだな……」
カラスの声が響くくらいには静かなこの部屋で一人、ただ寝ていることしかできない自分に少しだけ嫌気がさしてしまう。
多分ここは病院かなんかなんだろうが、それにしても静かだ。
(そういえば皆はどうしたんだろう……)
「ぐれんっ!!!」
すると、そんな静寂を切り裂くような声が俺のいる部屋に響いた。
この声は―――桜花か。
「どうかしたのか?」
「お、良かったのだ! ちゃんと起きてたのだ……! ―――って、そんな事を言っている場合じゃ無かったのだ!」
「だ、だからどうしたんだよ」
「―――あの子が目覚めたのだ!」
「あの子……?」
「そう! あの、ぐれんが助けた獣の女の子なのだー!」
「あぁ、あの子か。そっか、無事だったんだな……良かったよ」
桜花のその言葉で、俺はホッと胸を撫でおろした。
血相変えてやってきたから何事かと思ったが、これで一安心だな。
「それでな、ぐれん。その子がお前に会いたいって言ってるのだ」
「ん? じゃあ呼んできてくれるか? 俺も話してみたかったし、あの子と」
「おー、分かったのだ! だったら―――ほら! こっちに来るのだー!」
すると桜花は病室の外の方にちょいちょいと手招きをした。
どうやらあの子はすぐそこまで来てたみたいだな。
―――ぴょこっ。
そんな効果音が聞こえてきそうな感じで、その少女はつられて顔を出した。
ぴこぴこ動く耳が可愛らしい、獣人の女の子がそこには立っていたのだ。
「ぐ、グレン。アリガト」
たどたどしい言葉遣いで、隠れながらそう言った少女。
多分言葉に慣れていないのだろう。奴隷、と言うくらいだしきっとちゃんとした教育を受けていないのだろうな。
だから俺は、言葉の意味が分かるように、そして敵意がないことを示すようにほ微笑みながらこう答えた。
「無事で、良かったよ。君は、怪我とかは無い?」
「ン。ケガ、ナイ。グレン、ケガシテル」
「俺は大丈夫! ……というか、もうちょっとこっちに来ても良いんだよ?」
「ム、ムリ……」
「あ、そ、そ……う?」
何でだ。
もしかして無理矢理助けたから嫌われてるとか?
それともいらないお節介をしてしまっていたとか……?
だから距離を取られてるのかな……俺、怖いのかな……。
なんて思っていると、その子はこう言ったのだ。
「ダ、ダッテ……はずかしい……」
「は、はず―――って、そんな事気にしなくてもいいのに……」
「はー、分かってないなぐれんは。いいか、この子はな、お前の事がす―――」
「ダメッ!!!!」
「わぷっ……! な、何するのだ!」
桜花が何かを言いかけると、今日一番の大声でそれを止める少女。
あ―――というか、今更だけど俺、彼女の名前を知らないな。
さっきから「あの子」とか「少女」とか、宙とはな呼び方してるからそれはまず先にどうにかしたいかも。
「あー、話の途中でごめんね? 良かったら、キミの名前を教えてほしい、な」
「ナマエ?」
「うん。名前。ほら、君のことなんて呼んだらいいか分からないからさ」
「そ、ソレナラ……ロ―――ううん」
ロ。
そこまで言いかけた少女は、すぐに首を振るとこう言ったのだ。
「グレンは、ワタシノオウジサマ。ダカラ、グレンガキメテ! ワタシノ、アタラシイ『ナマエ』を!」
お久しぶり(?)です!
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