24.奴隷オークションに参加してみた。
―――少年は再び、泡沫の……
「おい、奴隷オークションだってよ……今回はどんな上物がいるんだろうなァ!」
「おっしゃお前ら! 早く行くぞッ!!」
『応ッ!!』
嬉々とした様子でその場を去っていく獣人たち。
そんな彼らを皮切りに、その場にいた他の獣人たちも続々と馬車の通り去っていった方へと駆け出して行く。
奴隷。その言葉だけで良い物で無いのは明白なのに、対照的なお祭りのようなその雰囲気に、俺たちは圧倒されていた。
「フン。奴隷オークション、か……。あまり気分は良くないな」
「んー。でも、正直ちょっと気になりはするよね。奴隷、って町中で見かけはするけど、主従関係が成立する瞬間ってのは私も見たことがないからさ」
「メリドさん……なんかちょっと狂気じみてません? その言葉……」
「え、そう?」
影咲の問いかけに、さも当然かのような反応をするメリドさん。
確かに今のはちょっとだけ怖い発言かもしれないけど、まあそこまで気にする必要は無いだろう。
それにしても、奴隷……か。
しかもさっきこう言ってたよな。「5年に一度」、って。
「……俺も気になるかもです」
「ぐれん!? ど、どうしたのだ……ぐれんまで気が狂ってしまったのだ……?」
「いや、違うんだ。5年に一度のオークションって言われた、ちょっとだけ気になっちゃってさ」
「それなら、皆で見に行ってみる?」
「いいんですか……?」
「んー、いいもなにも少年が大丈夫ならこっちは全然だけど」
「それじゃあ……お願いします!」
メリドさんの言葉に、大きく頷いて答える俺。
姉ちゃんたちの事を忘れた訳ではないけれど、5年に一度のオークション―――少しだけ興味をそそられてしまう。
それに、何か行かないとまずいような気もする。
このざわつきが、勘違いならいいんだけど……
(何はともあれ、全ては行ってみないと分からない事だよな)
「よ〜しそれじゃあ! ちゃちゃっとそのオークションとやらを見に行くとしましょ〜っ!!」
かくして。
俺の純粋な興味から、俺たちはこれから、獣人の国ジェフェルー王国にて5年に一度開催されるという奴隷のオークションに顔を出すことになった。
■
「で、ここがオークション会場って訳ね……」
「物々しい雰囲気、なのだ?」
「地下でオークションって……確かに雰囲気あるね……」
女性陣は会場に到着するなり、早速怖がった様子を見せていた。
そしてクロキリさんはというと、俺の隣でこう呟いていた。
「獣人の奴隷なのか……? それとも人間や魔族の奴隷なのか……? いやでも、獣人の国だし……うむう……」
どうやらだいぶ悩んでいるようだ。
まあその問いの答えも、中に入れば自ずと分かる事だろう。
「それじゃあ、行きましょうか―――」
先行して、俺が会場の中へと踏みこもうとしたその時だ。
―――コワイヨ。タスケテ、ダレカ、タスケテ。
「……誰、だ?」
「のわっ……! ど、どうかしたのだぐれん?」
誰かの声が聞こえて、それで立ち止まってしまった。
急に立ち止まった俺に、ついてきていた桜花がぶつかってしまったみたいだが……今はそんな彼女の心配をしてる場合なんかじゃない。
誰かが、俺に助けを求めている……?
「ひ、緋神くん? どうしたの……? なんかすごい汗かいてるみたいだけど……」
「い、いや……なんでも、ない……よ」
こんなの、皆には言える訳がない。
だって100%頭のおかしい奴だって思われてしまうから。
急に、誰かの声が聞こえただなんてそれこそ狂気しか感じられない。これは、真相が分かるまでは黙っていることにしよう。
「ごめん、すぐに進むよ」
「わ、分かったのだ……?」
皆には黙ったまま、俺は再度歩みを進めた。
多分、あの声の主はこのオークション会場に居る気がする……そんな気がしていた。
だから、行くんだ。
何が起こったかは分からないけど……でも、助けを求める声がするのなら、俺はそれに応えたい。
たとえ、何が起ころうとも。
■
「おい、今日の上物って獣と人のハーフなんだろ!?」
「バカかよお前。そもそも獣人って存在自体が獣と人のハーフなんだから、それじゃあ結局獣人じゃねぇか!」
「いやいや。あながち間違いでもないかもしれないぞ? だって今日出品される上物って、人の成分がより濃く出た獣人らしいからな。えらい別嬪の血を継いでるって聞いたぜ?」
「ふーん。そりゃ楽しみだが……おい。あれはなんだよ……なんでこんなところに人間が居るんだ?」
どうやら、早速見つかってしまったようだ。
やはり俺たち人間は、獣人からは嫌われた存在らしく。会場に入った瞬間からだいぶ痛い視線を受けていたのだ。
だが、彼らは別にこちらへ突っかかってくるという様子も無く、オークションは無事に幕を開けることに。
「やっぱり、想像とはちょっと違うんだね」
「ああ、そうだな。確かに漫画やドラマで見るような雰囲気とはだいぶ違っていて……これじゃあまるでコロシアムで出場者を見下ろしているかのような感覚だな」
そう。地下にあるオークション会場は、まるでサッカーや野球のスタジアムのような造りになっていて、中央にはリングのような台が一つ設置されていた。そしてそれを取り囲むようにぐるっと観客席がある……そんな形だ。
規模感はそこまで無いが、奴隷のオークション……と言われれば納得ができる造りになっていた。
「―――お集まりの皆さん! 大変お待たせいたしました!」
と。ちょうどそのタイミングで司会者の人がリングの中央に現れた。いよいよオークションの始まりみたいだ。
「ついに始まるんだね……なんかドキドキしてきたよ……!」
「あまりいいものではないがな」
「でもまあ、不謹慎ではあるけどさ。確かにドキドキしちゃうのは分かるかも」
なんて皆は少し楽しそうな様子をしていたが、やっぱり俺はさっきのあの声が気になってしょうがなかった。
「ぐれん……さっきから何かおかしいのだ。ちょっとだけ、嫌な予感がするのだ」
「……? 何か言ったか、桜花」
「……ううん。なんでもないのだ。それよりもほら、オークションが始まるのだ!」
何だか変な様子の桜花を俺は横目に、視線をリングの中にいる司会者の方へと集中する。
―――イヤ……ハナシテ! コワイ……コワイヨ……ッ!
「……っ!」
また。まただ。
さっきから響く、この少女の声は一体なんなんだ……?
どうやら周りには聞こえてないみたいだけど……まさか俺だけに聞こえているのか?
そんな事が……あり得るのか?
「―――それではまずは本日の大目玉から参りましょう! 彼女をこちらへッ!」
そうこう考えている内にオークションは進行していき、初っ端から大目玉が出ることになっていた。
司会者が高らかに宣言すると、脇の通路から、黒服の大男が一人の少女を抱えて現れた。
「艷やかな金髪に、獣人の中でも最強と言われている狼種の牙と赤い瞳! そう! 彼女こそが人間と獣人の完璧なハーフなのですッ!!!」
『『ウオオォォォォォォォォォッ!!!!』』
獣人たちは司会者の言葉に強く反応を示していた。
心なしかその顔は火照っているように見えたが、まさか発情でもしているのだろうか。
あんな年端もいかぬ少女に。
「……」
少女の見た目は、たった今司会者が言ったように長く艷やかな金髪に、真紅の瞳、長く立派な牙が特徴的な10歳くらいの身長……といったところだ。
身長に関してはだいぶ桜花と近しいものを感じるが、まだ桜花の方が高そうだ。
と。そんな事よりも、だ。
先程から、彼女から強い視線を感じる気がする。俺を見ているのか、それとも近くの別の誰かを見ているのか……。
まさか、あの子が声の―――
「さあッ! それでは始めますよッ! スタート価格は100万からですッ!」
―――ダレカ……キコエテルナラ、ワタシヲ……タスケテッ!!!
「……っ!!!」
「ぐ、れん……? どうしたのだ、びっくりしたのだ……」
「緋神くん?」
「少年……?」
ああ、やっぱりそうなのか。
助けを求めるのは、彼女だったらしい。
原理は分からないけど。それでも、あんな少女が助けを求めるのなら……それに応えない訳にはいかないだろう。
だって、こんなところで一人の女の子を救えないようじゃ、姉ちゃんなんて助けられないだろうから。
『―――俺、強くなったら姉ちゃんのこと守ってみせるからさ!』
誓ったんだ。
強くなって、姉ちゃんを守るって。
だから、少しでもそんな姉ちゃんに近づけるように。
俺はここで男を見せる。あの子を助け出してみせる。
「ど、どうしたの緋神くんっ! 一人でリングの方まで……まさかっ!!」
「緋神ッ! 馬鹿な真似はよしてくれよッ!?」
偽善者だって罵られてもいい。
自分を犠牲にして、一人の命が……人生が救えるのなら、それでいいじゃないか。
「少年っ!! 戻ってきて!!」
「ぐれん……やめるのだ……っ!!」
ごめん、皆。
俺は、彼女を助けてみせるよ。
絶対に、ここの獣たちには渡さない。
「助けを求めるのなら、応えてみせよう―――たとえこの身がどうなろうとも」
刹那。
俺は、無数の獣人たちに―――
「緋神くんっ!!!! どう……して……っ!!! 緋神くんは私だけをっ―――」
―――刻まれて、消えていく。
次回更新予定日→来週の月曜日までに一回は更新します!
ちまちま確認していただけるとありがたく思います!(多分土日月のどこかには更新できるかなと!)




