23.獣人の国に来たよ。
―――少年は、少女たちの覚悟に驚いた。
「それじゃあこの辺りで。私らはこの辺りで野宿とかしてるんで、また必要でしたら探して声かけてください!」
「分かりました。どうもありがとうございました!」
俺たちは馬車を降りると、長かった旅路のお礼を御者のおじさんに告げると、互いにその場を後にした。
「てことで、『グラ』の大国家、《ジェフェルー王国》に到〜着!」
「いえーい! なのだー!!!」
メリドさんが背伸びをしながら、嬉しそうにそう声を上げた。
そんな彼女の言葉に、人型モードの桜花も笑ってハイタッチをしていた。
どうやら馬車旅の中で二人はだいぶ親交を深めたようで、結構仲良くなっていたのだ。
桜花が誰かと仲良さそうに話しているのは、これで二人目だな。何だかこちらとしても微笑ましい限りだ。うんうん。
「ふむ……それで、ジェフェルーに来たのはいいが、これからどうするのだ? まさか行く宛が無いとは言うまいな」
「それなら、例の手紙で指定された場所にすぐ向かえば―――」
「おいおい少年、それは本気で言っているのかい?」
「え……?」
いつもより暗い声のトーンで、そう言うメリドさんに少し恐怖を感じてしまう俺。
何か、マズイことを言ってしまっただろうか……。
「ああ、メリドの言う通りだ。ちゃんと考え直してから発言を―――」
「―――まさか観光しないで行くつもりかいっ!?」
「……かん、こう……?」
えっと。この人は突然何を言い出すんだろうか。
冗談にしては本気な顔してたけど。
「メリド、お前はホントに頭のネジが外れているみたいだな。それで本当に王の側近が務まっていたのか?」
「いやいや、大丈夫だったって! ねぇ、影咲ちゃん!」
「え、私に振られても―――まあ、それなりには……活躍してたと……思います、よ?」
少し目をそらしながら影咲は答えた。
この反応だと、多分本当は……
「ほら、影咲も答えに困ってるじゃないか。やっぱりろくな仕事ぶりでは無かったようだな」
「そ、そんなぁ!!! なんでぇ! 私色々と頑張ってたのにぃ〜!?」
「自業自得だ。これに懲りたらこれからはもう少しまともに見えるような働き方をするんだな」
「うぅ〜……酷いぜクロちゃん……」
「クロちゃんと呼ぶなガサツ女」
……今回ばかりはクロキリさんに同情しよう。
なんか今のメリドさんは面倒くさい女モードな気がする。
「でも、確か冷静になって考えてみれば、すぐに手紙で指定された場所に行くっていうのは少し浅はかな考えだったかもしれません」
「ああ、分かってくれたか。だが、それならどうする? 今の緋神にはどうやら考えがあるようだが」
「はい。メリドさんの意見も、あながち間違いでは無かったのかもしれません」
「ほう、というと……?」
「観光、ですよ。この街の、ね」
■
《ジェフェルー王国 王都サファーリ》
「なるほど……宿の確保と装備の新調、それに道具の購入や万全を期すために地形の把握をする―――フッ、なかなか才能があるようだな、緋神は。どこかの駄メイドとは違って、な」
「あ、ありがとうございます……!」
「私を見て言うなよー……」
クロキリさんに褒められると素直に嬉しく思う。
だって彼は、Aランクというハンターの中でも高ランカーの人なのだから。
俺は何だか落ち込んだ様子のメリドさんを尻目に、隣を歩く桜花と影咲に尋ねてみる。
「二人はさ、無理して俺についてこなくてもいいんだよ……? だってこれからは行くところは、“アイツ”がいるところなんだから……」
「何を言っているのだ、ぐれん! 私はお前がなんて言おうと、絶対について行くのだ!」
「そうだよ、緋神くん。一人でなんでも背負いこもうとしないで!」
「でも……いいのか、二人とも……アイツには散々酷いことされたのに……」
「もうぐれん! しつこいのだ! 行くといったら行くのだ!」
「そうだよ緋神くん!! もうこの思いは変えられないんだから!」
二人の決意が、俺の心に直接響いた。
こんなに、固く決意してくれていたなんて思わなかったから。
「熱い友情だねぇ〜……なんだか私、悲しくなってきちゃったよ」
「だからそれも自業自得だろうが。もっと若い頃に青春しておくんだったな」
「はぁ!? 私まだ若いんですけどぉっ!?」
「どこがだ」
……相変わらずメリドさんとクロキリさんは喧嘩してばっかだったけど。
何はともあれ、俺たちは騒ぎながらも街の中を散策し、話していた武器や道具などを見て回ることにしたのだった。
■
「おう、いらっしゃい……って、なんだよ。人間か……」
「どうかしたんですか……?」
「いや……どうもしねぇさ。改めて、いらっしゃい」
「あ、はい……」
最初に入った店で、少し違和感は感じていた。
だが、どうすることも出来ないまま俺たちは店を巡り、装備を整え、道具を購入した。
「なんか明らかに、敵視されてるみたいだね……」
「さっきから視線をいっぱい感じるのだ……」
この現状に影咲と桜花も若干の不安や恐怖を感じてきているようだ。
確かに、少し……というか結構怖いかもしれない。
何が起きていたか、少しだけ時を遡って詳しく解説しよう。
俺たちはあれから、街の散策改め装備の新調、道具の購入をしていこうとしていた。
のだが、はじめに入った店やその後に入る店、さらには店以外の通り道ですら何やら“人間”を敵視した様子の獣人たちの視線や態度というものを感じていて。
多分それは、今まで人間たちが築いてきた獣人たちとの敵対関係がそうさせてるんだろうと、痛いほど感じられた。
「確かにこれは……あまりいい気分はしないな」
「まあ分かってはいたけど……そうだねぇ……」
「でも、道具類も買い出し終わった事ですしそろそろ向かいませんか? ―――例の場所に」
「うん、そうしよ……緋神くん。さっきから私たちを見る目がだんだん増えてる気がしてるしさ……」
「のだ……いやらしい目、なのだ……?」
二人にはどうやらそう感じ取れるらしい。
確かに、二人はかなりの美少女だからそういう目で見られるのも仕方ないことだとは思うけど、なんか嫌だな。
独占欲、とは少し違うけど……でも、そんな感情。
このまま獣人たちの視線に彼女たちを晒し続けるのは嫌だ。だから、早く行ってしまおう。
もう、こんな場所に用などないのだから。
早く姉ちゃんたちを助けないと。
―――そう、思っていたのだが。
「―――おいテメェらァッ! 5年に一度の奴隷オークションが始まるぞォッ!!! 金と時間がある奴は全員大通りにきなァッ!!?」
どうやら。
まだまだ波乱は終わらないようだ。
◆
ワタシ、ドウナル?
コノママ、ダレカノ『ドレイ』ナル?
イヤダヨ
コワイヨ
ダレカ、タスケテヨ……
ナンデ、コンナメニアウノ?
ワタシ、ナンニモシテナイノニ。
パパ……ママ……どう、して……?
「いや……だ……よ……ぉっ……!」
◆
《発明者の隠れ家 B1F 侵入者迎撃用通路》
「奴ら……まさか味方を連れてくるとはな……ァッ! 報告を聞いてびっくりしたが……。それならそれでこちらにも考えはある―――」
「サイケリ様。この装置はここに埋めておけばいいのですか?」
「ああ。そこに埋めとけば、誰か一人は確実に潰せるからなぁ……!」
「踏んで押したら壁から大きな槍が飛び出してきて、そのまま腹を貫く装置……ですか。確かに梯子の下に設置しておけば、最初に降りた者が死ぬのは確実にでしょうね」
「その通りだ。そして恐らく最初に降りるのは、パーティーの中でももっとも強い奴だ。安全確認の為だなぁ……? となればこの装置をつける意味は大いにあると言うことだ。分かったか?」
「ええ。よく分かります。しかし、その他にも進路妨害用のトラップを設置するとは……中々貴方も人が悪いですね」
「賢いと言え、クソ奴隷が。まあいいがな―――それよりも、早く下へ行くぞ。アイツの調整もしたいからなァ?」
「少女の肉体を触媒に起動するようにした、『ナンバー2』の事ですか……?」
「ああ。今からヒカミグレンの歪む顔が楽しみで楽しみでしょうがないぜぇ……っ! さあ、早く行こうじゃないか……!」
◆
《牢屋(?)1》
「だめ……壁も扉も窓も、全部頑丈に塞がれてるみたい。逃げ道は何処にもなさそうね……」
「そう……蒼華でも駄目なら、私でもきっと無理でしょうね」
「……ごめんね、麗。私がもっと鍛えてれば良かったね……」
「ううん。謝らないで。私ももっと鍛えてれば良かったのよ。周りに圧倒されて、自分を鍛えることを忘れていた私の怠慢でもあるわ」
「……麗。―――って、あれ……? なんか、変な音が聞こえない……?」
―――カーン!ガーン!ドーン!カーン!
「ホントね……これって、もしかして隣から……? だとしたら、まだ勝機はあるかも……」
「ほんとっ!? なになに、どういうこと? 私にも分かるように教えてよ……っ!」
◆
《牢屋(?)2》
「せぇぇいっ!!」
「はぁぁぁっ!!!」
「どぉりゃぁぁぁ!」
「せぇぇぇぇやぁぁっ!!」
―――カーン!ガーン!ドーン!カーン!
「ホントに、これで気づいてくれるのか……っ!?」
「分かんないよ! でも、気づいてくれる可能性にかけて今はとにかく行動あるのみでしょ!」
「まあ、そうだな……っ! 両側から壁を攻撃すれば崩れる可能性は高い、か……っ!」
「そういう事っ! 幸いにも向こうには蒼華お姉さんがいますから……ッ!」
「ああ、向こうがこの作戦に気づいてくれるのを祈るしかないな……ッ!!」
「さ、もう人踏ん張りですよ兄さんっ!!」
「ああっ!」
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次回更新予定日→28日火曜日
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