幕間2 愛し、愛されし。
―――少女の想いと、少年の想いは重ならない。
「…………」
凸凹した獣道を進み。
「…………」
ちょっとした林を抜けて。
「…………」
大きな湖を迂回して。
「…………」
今度は森の中に入って。
「…………」
気づけば日も沈み。
「…………」
川の辺りに差し掛かったところで、『無言』の旅は突然終わりを告げた。
「―――ふむ……これは、喧嘩をしてるのか?」
「んー、多分逆だと思うけど〜?」
「逆……という事はあれか? “いちゃいちゃ”というやつか?」
「うん、大体そんな感じ」
『いや違いますッ!!!』
流石に我慢の限界で、私と紅蓮くんは同時に叫んでしまった。
全力のツッコミだ。
(というか……紅蓮くんと同じタイミングで言葉を―――えへへ……)
―――って、そうじゃなかった。
なんか勘違いされてるから、つい怒ってしまったんだよ!
「む……そ、そうなのか。それはすまなかった。メリドの奴が変な事を言うから……つい、な」
「いえ、全然大丈夫ですよ。悪いのは全部メリドさんですから」
「なんでぇ!?」
謝るクロキリさんに対して、紅蓮くんはそう笑って応えた。
私は全然大丈夫じゃないんだけどね!?
なんかメリドさんはしょんぼりとしてるけど……
―――あの時の……紅蓮くんの告白(?)から数時間。
私たちはずっと無言のまま、気まずい雰囲気の中馬車旅を続けてきた。
だって、まさか紅蓮くんからあんな事言ってくるなんて予想もつかなかったから……流石の私でも動揺しちゃうって言うか何というか……。
「あの〜。そろそろ日も沈み込んだんで、ここいらで今日は野宿としようと思うんですけど、お客さんたちもそれでいいですかねぇ〜?」
すると、御者のおじさんが私たちにそう尋ねてくる。
確かにこの時間帯に進むのはちょっと危険だろうし、野宿するって言うのは事前に聞いていたから全然抵抗は無い。
むしろ野宿なんて一度もした事無いからちょっとだけテンションが上がっちゃうね。
「はい、大丈夫です〜」
メリドさんが御者の人にそう答えると、馬車は川の隣で停車する。
「食料とか寝具は全部こちらに積んでありますので、好きなものを使ってくださいね」
「あ〜どうもどうも。それじゃあ遠慮なくうちのシェフが使わせていただきますね〜!」
「シェ、シェフってまさか……」
「―――頼んだよ、少年!」
「……はぁ、分かりましたよ。ご馳走、振る舞いますからちょっと待っててくださいね」
そう言うと、メリドさんに頼まれたからか仕方なくと言った様子で調理器具とかを物色し始める紅蓮くん。
(まさか……これは紅蓮くんの手料理が食べられるイベントなの!?)
じゅるり……ヤバいよ。食べる前からよだれがでちゃうよ……!
それくらい彼の料理は美味しいんだもん!!
『ぐれんの料理だと!? それならワタシも食べるのだ!!』
そう言って、ボンッ!と飛び出してきたのは桜花ちゃんだ。
やっぱりゴスロリな服がよく似合うかわいらしい風貌だけど……もう自由に人の姿になれるようになったみたいだね。
「ふーん……君が噂の、ねぇ〜?」
「メリド。彼女が―――?」
「多分、ね」
「……? どうかしたのだ……?」
「ううん。なんでもないよ? それよりも君、かわいいねぇ〜!」
「そ、そうか……? えへへ〜、なんかちょっと照れるのだ……」
早速打ち解けた様子のメリドさんと桜花ちゃんを横目に、紅蓮くんは「待ってろよ〜桜花!」と、桜花ちゃんの姿を見てか、気合十分と言った様子で調理に取り掛かっていた。
「むー……」
そんな彼を見て、ちょっとだけ……嫉妬心を覚えてしまうけど。
でも、そんな気持ちなんて彼の頑張っている姿を見ているだけで全部晴れて無くなっていく気がする。
大丈夫。
私のほうが、紅蓮くんの事―――好きだもん。あんなぽっと出の子なんかに渡さないから……!
■
「はー、美味しかった〜!」
「ふむ……これはかなり美味だな。保存食ばかりを使った味気の無い見た目だったが、いざ食べてみると見た目からは想像のできない味が飛び出してきた……。まるで、宝箱のような感覚だったぞ」
「ですね〜! まさか私までご相伴に預かれるとは思ってなかったですけど……ここまで美味しい物を作れるとは。いい旦那さんになれますよ、お兄さん!」
「……いい、旦那さんかぁ。多分、というか絶対そうですよね!」
御者さんの言葉に全力で頷く私。
焚き火を囲んで、紅蓮くんの作った料理に舌鼓を打っていたのだが、クロキリさんが言った通り本当に美味しい料理だった。
「って……あれ?」
「んー、影咲ちゃんどうかしたの?」
「いや……肝心のぐれ―――じゃなくて、緋神くんが居ないなー……って思って」
そう言えば、さっきから居ない気がする。
「ちょっと行ってくる」なんて言って離れたっきり戻ってこないなんて。トイレとかだろうと思ってたけど、それにしては長すぎるよね。
どうやら桜花ちゃんも居ないみたいだし、何だか怪しい気がする。
「ごめんなさい。ちょっと近くを探してみますね!」
「うん! あ、でも気をつけるんだよ〜?」
「分かってます!」
メリドさんの言葉に答えながら歩き出す私。
んー……一体何処まで行ったんだろ。
そんなに遠くまでは行かないと思うんだけど―――って。
(あれは……!)
「フッ……! フッ……!」
―――見つけた!
でも……あれって一体何をしてるんだろ。ちょっとだけ、観察してみよっかな。どうせ日課だし……今日の分ってことで。
「……フッ! ―――まだまだ……時間の許す限り、俺は鍛えなきゃいけないんだから……っ!」
どうやら、紅蓮くんは剣の素振りでトレーニングをしてるみたいだ。
私はその様子を、割と近くの木陰から密かに眺めていた。
『あんまり無理は良くないのだ……みんなも心配するぞ?』
「大丈夫だ……! 俺には強くならなくちゃいけない理由が沢山あるんだ……。だから、一分一秒たりとも無駄にしちゃいけないんだよっ!!」
『どうして……どうしてそこまで強くなろうとするのだ……? ぐれんを掻き立てるのは、一体なんなのだ……?』
桜花ちゃんは、いきなり核心を突くような質問をする。
確かにそれは私も気になってはいたんだ。だって、紅蓮くんなら私やお姉さんたちで守ることができるんだもん。
だからずっと私たちに甘えててくれればいいんだけど……。
それは嫌だったのかな……。それとも、やっぱりあの時の私のミスが―――
「―――あの時さ。俺、姉ちゃんや影咲たちに酷いこと言っちゃったんだ。それをずっと後悔しててさ。俺がもっと強かったらそんな事を言わずに済んだのに……あんな事、言われずに済んだのにって」
違う。あれは、私のミスなのに……!
そして、その原因になったのはあのゴミ国王なのに……!
紅蓮くんは、何にも悪くないのにっ!!
「そしてそんな矢先に、俺は影咲を庇って死にかけたんだ。お前には悪いと思ったけどさ……でも、影咲が死ぬなんて考えられなかった」
『どうして……?』
「だって影咲はさ―――俺がずっと……ずっと、好きだった人だから」
(え―――?)
「どれだけ手を伸ばしても届かない存在に居るってのは分かってたんだ。こんな俺みたいな嫌われ者に、そんな資格は無いって」
(嘘……だよ)
「でも、こんな俺にでも影咲は優しく手を差し伸べてくれたんだ。そんなの……好きになって当然だろ……?」
『やっぱり……そうだったんだな。前に話してくれたぐれんの過去……その穴を埋めるのは、あの女だったのだ……な』
「ああ。とにかく俺は影咲が大好きだったんだ」
(こんな……こんな事って―――)
「でも、俺はそんな彼女を失望させてしまった。それに、死にかけてみて分かったんだ。どれだけ俺が無力な存在だったかって……」
『それで、強くなろうとしたのか?』
「ああ、そうだよ。強くなって、影咲も、お前も、姉ちゃんや冥、悠兄さんや会長さん……皆を守れるくらい強くなりたいって思ったんだ。でも、そうするにはあまりにも皆と差が開き過ぎてる……だから、皆が休んでるその時間だって、俺は自分を鍛えることに使わなくちゃいけないって、そう思ってる」
『でも……それじゃあぐれんが先に倒れちゃうのだ!』
「だから大丈夫だって! 自分でも限界は分かってるつもりだからさ。それに……俺が倒れるくらい辛い思いをする事よりも、大切な人たちが傷つく事の方が、俺には耐えられないからさ。だから、鍛えるんだ。鍛えれば、鍛えただけ強くなれる気がするから」
『……あの女の為、なのか?』
「それもあるよ。だけど、俺はお前もすごい大事だと思ってる。俺に生きる理由を与えてくれたのは、他でもないお前―――桜花だからな」
『……えへへ』
「大切な家族である姉ちゃんや、小さい頃からずっと一緒に居てくれた悠兄さんと冥も、俺にとってはかけがえのない存在なんだ。会長さんはまだよく分からないけど……でも、俺の味方をしてくれる人は、みんな守りたい。そう、思うよ」
何……それ。
そんなの……ずるいじゃん。
かっこ、よすぎるよ……。
「―――ん? そこに、今何か……」
『……はぁ。してやられた、な』
■
私は必死に走っていた。
とにかく一人になりたくて、無我夢中で走っていた。
気づけば、川の上流の方まで来ていた。
大丈夫、帰り道は分かる。ちゃんと私の魔法で“マーキング”しながら来たから。
「はぁぁぁぁぁぁぁ……!!!」
周りに誰も居ないことがわかると、私はすぐにへたりこんでしまう。
走った疲れからっていうのもあるけど、一番はさっきの紅蓮くんの言葉が私の心を刺して来たからだ。
「かっこいい……かっこいいよ紅蓮くん……」
やばいよ。
さっきから、下半身が焼けるように熱いのが分かる。
妙な快感が、私の脳を刺激しているのが、分かる。
「好き……好き……好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き……! 私もずっと……ずっと『あの時』から大好きだったよ……!」
ポケットから、一枚のハンカチを取り出す。
そしてそれを、一気に鼻にあてがい―――
「すぅ〜っ……。はぁ……好き……彼の全部が好き……匂いも、声も……全部、全部全部ぜぇ〜んぶ……大好き……」
ああ、これはマズイかもしれない。
嬉しすぎて、もう何も考えられないよ。
「紅蓮くん……紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん紅蓮くん……っ!」
右手でハンカチの匂いを嗅ぎ、出てくる言葉は彼の名ばかり。
左手は疼く下半身を鎮めるために必死に動かした。
「大好き……大好き大好き大好き大好き大好きっ……!」
こんなにも、幸せな事があっていいのだろうか。
ああ、生きるっていい事だね。
貴方が守ってくれた、この命……。
二度も守られちゃったね。
それじゃあ私はさ。
この命を―――
アナタの為に 使ってみせるカラ
「大好きだよ……紅蓮くんっ……!」
満月が照らす少女の身体は。
火照った肌に、艷やかな肢体。
―――激しく流れる川に映し出されて、溶けて消えていった。
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ちょっとでも面白いと思っていただけたなら……ぜひ……!
短いとか言ったのは嘘だ、しっかり長いやつ書きました!
発情影咲ちゃん……えっちだ
次回更新予定→金曜日
本編戻るよ




