22.手紙と助っ人が来た。
―――少年は無力と分かっていても動いた。
「それでは、今回集まっていただいたハンターの皆様に、改めて今回の作戦の概要を説明させていただきます」
ハンター協会の中庭に、緊急で集められた有志のハンターたちは前に立って話す協会職員の女性、フェイルさんの言葉に耳を傾けていた。
「今回の事件は、もう既に皆様の耳にも入っていることかと思います。なので詳しい話はこの場ではしません。―――さて、今回の作戦はいたってシンプルです。題して、『グラの調査』……及び『消えたハンターたちの捜索』としましょう。
作戦の内容は文字通りシンプルな話です。グラの地を調査し、それと同時に行方知らずのハンターたちの捜索をしていただきます」
そう作戦内容を淡々と告げるフェイルさん。
だが、その書類を持つ手は確かに震えているのが見えた。それもそのはずだろう。だって、彼女だって“妹”というとても大切な家族が消えてしまったのだから。
同じく“姉”を失ったかもしれない恐怖や不安が、俺の中にもあるから気持ちはよく分かる。
でも、彼女は凄いな。
そんな状況だというのに、自分の仕事には何一つ文句を言わずにやり遂げているんだから。
こうやって、俺たちの前で指揮を執っているのだから。
「皆さんそれぞれが、ご家族ご友人を今回の件で失ってしまったかもしれません。―――いいえ、大丈夫。きっと、囚われているだけです。そう、信じているからこそ皆様はこうして集まってくださったのですよね」
フェイルさんのその言葉に、集まったハンターたちは静かに頷いた。
ある者は拳を固く握り締め、ある者は誰かと手を繋いでいた。
己の中の、不安感を消そうとしているのだろう。
だから俺も、一人、固く……固く拳を握っていた。
「皆、同じなんだな―――」
「みんな大切な人が連れて行かれちゃったのだ……?」
「多分。きっと、みんな同じなんだよ。だから、こうして緊急の作戦でも集まってくれたんだろうし……」
見ると、周囲からは静かな殺気が感じられていた。
静かだが、皆今回の件でかなりピリピリしているのだろう。だが、まだそれを抑えているといった様子だ。
でも。
そんな気持ちなのが俺たちだけじゃないんだと思ったら、不謹慎な話だが少しだけホッとした。
ほんの少しだけだけど、気持ちが楽になったような気がする。
「―――それでは。各々情報共有をしながら作戦を開始してください。グラ行きの馬車は協会前に用意させていただきましたので、御者の方に言っていただければすぐに向かってくれるかと思います。
……皆様、どうか。どうか、よろしくお願いいたします……! それでは解散!」
『はいッ!!!!!』
フェイルさんの“解散”宣言で、集まったハンターたちはそれぞれ散り散りになっていく。
それを見て、俺たちも動き出すことに。
「俺たちも行こうか」
「うん、そうだね……!」
「よーし、早く行くのだー!!」
そう、俺たち3人で決意を固めた時だった。
「ちょ、ちょっと待ってくれアンタ達!」
「は、はい……?」
早速ハンター協会を出ようとしていると、誰か男の人に呼び止められてしまった。
つい俺は振り返って応えてしまうが、ハッと我に返るとすぐに影咲の後ろに隠れる。するとそれを真似してなのか、はたまた俺と同じく人に見られるのを嫌ったのか、桜花も俺の後ろに隠れたのだ。
「二人とも……?」
「ご、ごめん。まだ、上手く話せなくて……」
「のだ……」
「……そっか。分かった。しばらくは私に任せておいて!」
「ありがとう、影咲……」
そう影咲にお礼を告げると、そのまま影咲は話しかけてきた男の人に応える。
「あの、どうかしたんですか?」
「あ、ああ! ここじゃちょっと何だから、人気の無いところに行かないか……?」
「……どうしてですか? 別に私たちはここでも構いませんけど」
「あー、そうか? な、ならいいんだけどよ。これ、変な男からアンタらに渡すように頼まれててな。ほれ、これだ」
そう言うと、男は影咲に一枚の手紙を渡した。
「これは……? 一体誰から……」
「よく分からねぇんだけどよ、なんか白衣を着た男から頼まれたんだよ。それじゃ、俺は約束を果たしたからとっとと帰らせてもらうぜ〜!」
そう言い残して、その男は立ち去っていってしまう。
それにしても今の言葉―――と、男が完全に立ち去ったのを見た俺たちは目を見合った。
「ねぇ……まさか白衣の男って……」
「もう。そんな言葉聞きたく無かったのだ……。嫌な、思い出が……」
「でも。俺たちを狙った、白衣の男からの手紙なんて―――怪しいにも程があるよ」
「……うん。読んで、みるね」
影咲はその場ですぐに手紙を広げて読み上げた。
『“ヒカミ・グレン。貴様の大事な者たちは我々が預かっている。だがその者たちに用は無い。我々―――いや、私が用があるのはキミだけだ。仲間たちを解放したければ、一人で指定された場所まで来い。場所は”―――』
「……ッ」
やはり、今回の件もアイツが関わっているのか。
手紙の内容を聞き終えた俺は、例の白衣の男―――サイケリに対して深い憎悪を感じていた。
「緋神君。……絶対に行っちゃ駄目だよ?」
「あの男に関わるのだけは、もうゴメンなのだ……。だから、ぐれんも行かないでくれ……っ! きっと、今回も良くないことが起きる気がするから……だから!」
影咲と桜花は、俺の腕を掴んでそう言った。
どうやら力ずくでも俺を行かせたくないらしい。それだけ、俺を掴むその手には力が込められていたのだから。
でも、俺は……俺は―――
「―――グラに、行こう。大丈夫、ちゃんと作戦を立ててから……誰も傷つかないように考えてから行くから。だから、行かせてくれ……頼むっ……!」
―――姉ちゃんたちを、助けたいんだ。
俺がどれだけ無力だとしても、行かなくちゃならないんだ。俺が行かなかったら、なんの為に俺がここに存在しているのか……そしてあの時、俺が生き延びれたのかが分からなくなってしまいそうだから。
だから、必死にお願いした。
影咲と桜花は、それでも駄目だと必死に反論してくる。でも俺は引き下がらなかった。
ここで俺が折れる訳には行かなかったんだ。
そうして、しばらくの間膠着状態にあったこの論争も、とある人物の介入によって解消される事になる。
「―――皆。喧嘩はそこまでだよ〜?」
気楽そうな女性の声。
それに、この声には聞き覚えがあった。そう、この声の主は―――
「……メリドさん」
「おっす少年。それに影咲ちゃんも、二人とも無事に退院できてお姉さん嬉しいぞ〜!」
「どうして貴女がここに? というか、今までどこに行っていたんですか……?」
影咲はいきなり、核心を突くような質問をメリドさんにした。
するとメリドさんは一瞬だけビックリした様子を見せたあと、すぐにその問いかけに答えた。
「んー……私はちょっと調べ物をしててね。王城内の図書館に籠もってたのさ。でもそんな事をしている間にハンター協会で色々とあったって聞いてね。蒼華ちゃんたちに推薦出したの私だからさ……ちょっと不安になって来てみたらその予想が的中しちゃったって訳なのよ」
「……そう、だったんですか」
別にメリドさんは悪くない。少し負い目を感じてそうな話し方だが、全然そんな事はないのだ。
悪いのは全部、全部全部全部全部あの男なんだから……。
「それで、代わりと言っちゃなんなんだけどね? ―――ほら、来て!」
「……?」
メリドさんは、後ろにいる誰かを手招きして呼んでいるようだった。
「私も今回は同行するんだけどさ。私一人じゃ君たちも心配だろうから、私の友人を連れて行くことにしたんだよ。ほら、自己紹介しなさい?」
「あ、ああ……分かっている。……何故俺がこんな事を……」
するとメリドさんの後ろから、高身長で割と歳のくってそうなおじさんが現れる。
レザージャケットを着ていて、まるでいかついバイクを乗り回してそうな皆目をしていた。正直格好いい。
「……そこの女の紹介で今回お前たちに同行することになった、クロカ―――キリ。クロキリだ。基本俺は闘気メインの戦いをするが、多少なら水の魔力も扱う事ができる。ハンターランクはA。まだまだSには程遠いが、これでも強い自覚はある。だから、今回は是非とも頼ってくれると嬉しい」
「よろしく、お願いします……!」
なんて事だ。このワイルドダンディおじさん、ハンターランクAのめちゃくちゃ強い人じゃないか。
それは凄い助かる。これだけでかなり今回のミッションの危険度は下がった気がするぞ。
「はいはい。ってことでクロ―――クロキリの手も借りつつ、その手紙に指定されていた場所に向かいましょう? 詳しい話は、馬車の中で、ね」
「はい! 了解です!」
「……うぅ、仕方ないなぁ」
「……私は一旦剣に戻っておくのだ」
そう言うと、影咲たちも渋々納得した様子で歩き始めた。
どうやらクロキリさんの存在がかなり大きいようだ。
そして桜花は、馬車の人数制限のせいか、もしくはまたもや人見知りが発動したのか、今度は剣の中へと戻っていった。
「すいませ〜ん、グラまでお願いします〜!」
「あいよ〜!」
かくして。
俺たちは、メリドさんとクロキリさんという強力な助っ人を味方に加えて、ハンター協会からの緊急クエスト『グラの調査』を開始するべく―――そして、サイケリから渡ってきた手紙の場所へ行って、囚われた姉ちゃんたちを救い出すべく、行動を開始するのだった。
◆
「―――捕らえたアイツらに用は無い。フン……反感を買わないように待遇を良くしてやっているが……」
「サイケリ様。グラに人間族が次々と現れ始めました。恐らく、ペインのギルドから派遣されてきたハンターたちかと」
「……ヒヒッ! ついに、ついに来たかぁ……ッ! 随分と待ちくたびれたが……ようやくコイツをお披露目できるんだなぁ!」
「サイケリ様……?」
「……もう戻ってもいいぞ。邪魔が入らないように、しっかりと見張りをしておくがいい」
「ハッ」
サイケリの指示で、雇われた部下はその場を後にする。
そうして一人になったサイケリは、自分の目の前にある光り輝く金属のボディを触りながら呟いた。
「……楽しみに待っているがいい……ヒカミグレンッ! あの時受けた屈辱は、何としても晴らしてみせる……。今度は、あの女を利用してなァ……ッ!!!」
どうもです!!
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最近はだいたい3日に一回くらいのペースで更新出来たらなって思っているので、次回更新は金曜日夜にいたします!
ではでは!




