20.おかしな書き置き。
―――少年は不穏な気配に気がついた。
「―――もう大丈夫か? 二人とも」
俺は目の前で喧嘩を繰り広げていた二人を制しながら問う。
「がるるるるー!!」「うーーーー!!!」
がしかし。俺の静止も虚しく二人はまだ威嚇し合っていた。
なんでここまでヒートアップしてしまったのかはよく分からないけど、俺は諦めずに説得を試みる。
「な、なぁ二人とも。そろそろ喧嘩はやめないか? こんな不毛な争いをしている場合じゃな―――」
「「ちょっと静かにしてて!」」
「あ、はい」
何だこれは。
(……二人の圧につい縮こまってしまったけど俺が引く必要って全く無いんじゃないか?)
というか皆ここまで元気なんだから、もうこの診療所にいる必要もあんまり無い気がする。
それなら姉ちゃんたちにも心配かけたく無いし、早めに帰った方がいいかもしれないな。
「―――だから、なんであんな事を!」「うるさいのだ!
さっきから同じことばっかり!!」
二人の喧嘩はまだ続いている。
……本当にどうしてこうなってしまったんだ。
「―――なぁ。せっかくこうして皆元気に快復できたんだからさ、そろそろ姉ちゃんたちに顔見せない……? 皆、きっと心配してるはずだよ」
「……緋神くん」「ぐれん……」
俺がそう言うと、二人は喧嘩をやめて俺の言葉に耳を傾けてくれた。そのまま俺は言葉を続ける。
「実際、二人が眠り続けている間も姉ちゃんたちは何回か来てくれてたみたいでさ。俺はちょうどタイミングが合わなくて会えなかったんだけど―――でも、皆やっぱり心配してくれてるんだよ。だから、さ……早く、皆を安心させにいこう?」
思いのままに、二人に言った。
すると二人は何かを考えるように俯いたあと、何かを思い立ったかのようにベットごとに備え付けてあったカーテンをシャーッ!!と勢いよく閉めると、中で何やらゴソゴソとし始めた。
(ん……? 急にどうしたんだろ)
俺が二人の行動に疑問を感じていると、すぐにカーテンは開かれた。
「え―――」
そこから出てきたのは、さっきまで着ていた患者用の服ではなく自分の服を着ておめかしした影先と桜花だった。
いや、桜花は特にゴスロリな服から変化はなかったけど。しいて言うなら右目に眼帯を付けていたくらいか。
「緋神くん。迷惑かけちゃって、ごめんね。もう喧嘩はしないから、貴方の言う通り皆を安心させに行こう?」
「うむ……私も少しカッとなってしまったのだ。ごめんな、ぐれん」
「ふ、二人とも……」
「そんな顔しないで? 悪いことしちゃったのは私たちなんだからさ」
「ああ、そうだぞ! だからぐれんは気にすることなんて何も無いのだ!」
二人にそう言われて、どこかで感じていた責任感が一気に取り払われたような気がする。多分、二人が喧嘩を始めたのが俺のせいだから―――なんて思ってたからだろう。
それが急に手のひら返しなんてされたモノだから、びっくりして泣きそうになってしまったのだ。
「さ、そうと決まれば早く行こうよ!」
「急いで準備するのだ、ぐれん!」
そう言いながら二人は、手を繋いで病室のドアの方まで向かっていった。
「分かったよ、ちょっとだけ待ってて。すぐに準備しちゃうから!」
その様子を見た俺は、安心した気持ちで自分の寝ていたベッドのそばのカーテンを閉めると、着替え等もろもろの準備を始めるのであった。
■
「あれ……誰も居ないのかな」
「うむ、人の気配はしないのだ」
「もうお昼時なのにね」
あれから少し後、お世話になった診療所のハーブさんにお礼を言ってから俺たちは診療所を旅立っていった。
そしてまず最初に向かったのは俺たちの家だ。あそこが一番姉ちゃんたちがいる可能性が高いからな。仮にもし居なかったとしてもメリドさんがいるはずだ。
どちらが居ても情報は得られる。し、顔見せもできる。
そう思っていたのだが。
実際に行ってみるとそこには誰も居なかったのだ。
現在の時刻は影咲も言った通り昼頃だ。となると可能性として一番高いのは―――
「―――お昼ごはん、食べに行ってるのかな」
「かもな。会長さんに聞いたから分かるんだけど、あのメンツの中に料理ができる人は居ないみたいだし」
影咲の言葉に頷く俺。
そんな俺たちの話を聞いていた桜花が言った。
「てことは紅蓮だけなのだ? 料理できるの」
「待って。私も一応料理できるよ?」
「へえ。影咲って料理できたんだ」
「うん! まあ緋神君ほどじゃないけどね。もしよかったら、今度何か振る舞おうか?」
「え、いいの……? それじゃあ、お言葉に甘えて―――」
「任せておいて!」
何だこの展開は。全く予想だにしていなかった展開だぞ。
まさかの事態過ぎる。たまたま話の流れでそうなったとは言え、影咲の手料理を食べられる日がくるなんて。
こりゃ桜花には感謝しないとならないな。
そう思って桜花の方を見てみると、何だか桜花はうつむきながら何かを呟いていた。
「むぅ……なんか胸のあたりがモヤモヤするのだ。私も料理、してみるのだ……」
何を言っているのかはよく聞こえなかったが、次の言葉は場の空気を切り替えるかのように大きな声で言っていた。
「そ、それよりも次はどうするのだ!!」
「あー、確かに。ここにいないのなら、あとはどこに居るんだろ……心当たりはないけど」
桜花のそんな問いに、首を傾げながら答える俺。
―――あれ。これって、考えてみたけどもしかして詰んでるんじゃないのか? だって、誰とも会えなかった時点で情報が完全に途絶えてるんだから。
そう思っていると、影咲が近くの机の上で何かを見つけて言った。
「ねぇ、見てこれ―――書き置きみたい」
一枚の紙をこちらに見せながら、「こっちこっち」と俺たちを呼ぶ影咲。
俺と桜花はそんな影咲の下へ駆け寄ると、三人でその紙を見てみる。
(どうやら2日前の書き置きみたいだ)
『皆へ
二人とも元気かな? 本当は直接会って感動の再開を果たしたかったところだけど、この書き置きが読まれてるってことはそれが出来なかったって事なんだよね。
一応理由を説明しておくと、ハンターランクの昇格試験が突然早まったみたいで、私たち四人が呼ばれちゃったからなんだ。
だけど心配はいらないよ。これでも二人が眠っている間は皆で試験に向けて特訓してたんだから!(えっへん)
試験は一日もかからないみたいだから、多分今日会えるってことだよね!! 楽しみに待っててよ!
蒼華より』
書き置きには、そう記されていた。
だけど、それを読み終わってから何か心の中にモヤモヤが生まれてしまっていた。
何か、違和感がある。
どこだ? どこがおかしいんだ……?
「……? なんか変なのだ、このメモ」
「桜花ちゃんもそう思う? 何かおかしいよね、これ」
影咲と桜花もその不思議な感覚になっているみたいだった。
この姉ちゃんが残した書き置きには、やっぱりどこか違和感がある。
(……待てよ?)
と、そこで俺はとある事に気がついてしまった。
それは、見れば見るほど違和感の正体に思えてくる。
「―――何だよ、これ……!」
それに気づいた瞬間。俺の思考はぐるぐると回転を始めてしまい、血の気が引いていくのが感じられた。
「ど、どうしたの緋神君……顔、真っ青になってるよ……?」
「だ、大丈夫なのだぐれん!?」
「……おかしいんだよ」
「―――え?」
俺は、呟いていた。
だって、おかしいから。あり得ないんだから。
「な、何がおかしいの……? 説明してよ、緋神君」
「―――この書き置き。『2日前』のだろ……? ほら、この日付の欄」
俺はそう言いながら書き置きの一番上に書かれている日付を指差した。
そう。そこに書かれている日付は、俺たちが襲われた日……つまり3日前の日付から1日経過した物だったのだ。
「2日前の書き置き? あれ、でも―――」
「それはおかしいのだ。だって、このメモには……」
「そう。そうなんだよ。この書き置きには、こう書かれているんだよ」
―――『試験は一日もかからないみたいだから』
―――『今日会えるってことだよね!』
その言葉は、おかしいはずなのだ。
だって俺たちは―――
「……姉ちゃん達と、会えていないんだから」
「うそ……なんで?」
「ど、どういう事なのだ……?」
桜花はまだ混乱してるみたいだったが、影咲の方は今の状況がどういう物か理解できたみたいだった。
つまるところ纏めるとこうだ。
俺たちが襲われたのは3日前の夕方。姉ちゃんたちはその日の夜に各々別々のタイミングで俺たちのお見舞いに来てくれてたらしい。俺はその時、ちょうど身体検査等で会えなかったのだが。
そして、その翌日。つまり2日前の事。
この書き置きが書かれた日付だ。
この日に、『ハンターランクの昇格試験』とやらの開催日が『予定よりも早まって』知らされたらしい。その為この書き置きを残して姉ちゃんたち四人は旅立って行ったのだろうが、ここからがおかしいポイントになってくる。
この書き置きには『試験は一日もかからないみたいだから』と書かれていて、その後に『今日会えるってことだよね』とも書かれている事から、本来であれば試験は一昨日には終わっているはずなのだ。
なのに姉ちゃんたちはこの家には居なかった。帰ってきて居なかったのだ。
「で、でもさっき言ってたみたいにご飯食べに行ってるかもしれないのだ?」
「そ、そうだよ……その可能性があるよ!」
「いや、多分それもあり得ない」
「ど、どうしてなのだ……?」
「それは―――」
冷静に考えてみれば分かる話だ。
試験が終われば普通は家に帰るだろう。試験の事後処理とか、そもそも風呂に入ったり睡眠を取ったり……ともかくどんな理由であれ自宅には一度戻ってくるはずなのだ。
それにこんな書き置きを残している以上、この書き置きが一日以上も放置されていたら俺たちが心配すると思って、長い間の外出―――つまり食事や睡眠を外で済ませるなんて事も考えられないのだ。
自慢じゃないが姉は過保護な人間だ。だから、それはほとんど確信に近いものだと言える。
それなのに、この書き置きはこうしてまだ家に残っている。
それも2日間も。
「―――そ、それって……」
「おかしな話なのだ……確かに、あり得ないのだ……!」
「……皆が心配だ。ハンター協会へ行ってみよう」
「う、うん……!」
「分かったのだ」
その時の俺は、ただただ焦るばかりだった。
流石にフードを被って顔を隠しはしたものの、影咲たちの事なんて考えずにひたすらに協会へ向かって駆け出すのだった。
◆
「あが……っ! み、みんな―――」
「これで―――最後だ」
「ッ―――」
「―――2……3……一人足りない……? まあいいか。ひとまずこれで四人は確保した。お前たち、急ぎ『グラ』へと帰還するぞ。魔王様がお待ちだからな」
「「了解」」
薄暗い洞窟の中。
黒き羽根と黒き尻尾を生やした謎の三人組によって、その四人は―――連れ去られてしまった。
お久しぶりです。てとらです。
生存報告も兼ねて更新しました!少しメンタルが回復してきて、これから徐々に更新ペースを上げたいところですが……
最初に言った通り転生魔王の完結まではまったりやるつもりなので、先月までのハイペース更新は期待しないでくださいませ……!
次回更新予定は金曜日です。
のんびりとお待ちくださいませ〜!




