19.平和と不穏がやってきた。
―――少年は二人の少女との修羅場を経験す。
「―――ぷはぁっ……! お、お前いきなり何をして……っ!」
「そうだよっ!! 何してるの!?」
俺は、突然起きたその出来事にただ困惑する事しか出来なかった。
目が覚めて、影咲が起きてて。ホッと一安心したところで、自分の事を俺の大切な相棒と同じ名前の“桜花”と呼ぶゴスロリの少女に初めてだった唇を奪われて―――
(ほんとに……なんこれ……)
「わ、私には夢があるのだ。だから……だからここまでしてやったのだぞ!」
「そ、そんないきなり偉そうに言われても……っ!」
(っていうか、まともに顔も見れない! 何なんだよこれぇ!)
さっきキスしてしまったせいだろう。
少女の顔は、影咲以上に見るのが苦しくなっていた。すぐに目をそらしてしまう。顔もサウナにいる時みたいに熱い。
「というか、君は本当に“桜花”ちゃんなの?! 話はまずそこからだよ!」
影咲は興奮しながらゴスロリ少女にそう問いかける。
こんなにも騒がしい影咲は初めて見たかもしれない。レアだ。
「……そうなのだ? 私は、桜花なのだ」
「……ふぅん? でも、何か自分が“桜花”ちゃんだって証明出来る物が無いと信じられないよ?」
「確かに。それはそうだな……もし仮にお前が本当に俺とずっと一緒に居た桜花なのだとしたら、証明してくれないとな」
「―――分かったのだ。やった事は無いけど、多分証明出来るのだ」
俺たちが責めるようにそう少女に言うと、少女は少し考える素振りを見せたあと、剣の方の“桜花”を構えた。
「これが、私が桜花である事の、証明なのだ!」
少女が叫んだ、次の瞬間だ。
「……嘘。ほんとに……ほんとなの?」
「まじか……」
俺と影咲はあ然としていた。
だって、ゴスロリ少女は―――光となって剣の中へと消えていったのだから。
『ぐれん? 聞こえるかー、ぐれん! ワタシだ、ワタシ! 桜花なのだー!』
「あ、ああ……聞こえてるよ」
少女が消えた剣―――桜花からはさっきの少女と同じ声が聞こえてくる。
そうだ。そうじゃないか。よくよく思い返してみれば、なんで気づかなかったんだろうか。
(あの少女の声は、桜花と同じだったじゃないか……!)
『これで、証明できたか? ワタシは、桜花なのだ!』
「……うん。信じるしかないよ。さっきのは、本当にお前だったんだな……!」
「だね……これは、信じざるを得ないよ」
俺たちがそう言うと桜花は再び光り輝いて、先程と同じ人の姿をしたゴスロリの桜花が飛び出て来た。
「うむ! やっぱり思い通りにいけるようになったのだ!」
「で、でも一体どういう原理なんだろう……? なんで急に人の姿になれるようになったんだ?」
前は確か、「人になりたい」なんて言っていたような気がするが。
「う……む。それは私にも詳しく分からないのだがな? 一つ心当たりがあるとすれば、さっきの……その……あの……」
「さっきの……? 何だよ、ハッキリ言ってくれよ!」
「いや、だからその……あ、あれだ! き、き、キス……なのだ」
「……へ?」
「だから! キス……が私とお前を完全に繋げたのだ! だから、きっとそういう事なのだ!」
何を言っているのかが分からない。
顔を真っ赤にして、すごく恥ずかしそうに、そしてすごくうつむきながら(?)叫ぶ桜花だが、全く何を言っているのかが分からない。
「け、契約……なのかは分からないが、多分そういう感じの物が成立したのだ。さっきの、き、キスでな。だから、衰えていた……というか封印されていた私の力がある程度解放されて、それでこうやって人の姿になれたのだろう。多分、そういうことなのだ!」
「封印されていた力が……か。まあでも。何はともあれ―――夢が、叶ったじゃないか」
「うん……うん! そうだな! 原理は分からないけど、人になれたんだもんな! 私!」
「っ……うっ、ぐすっ……いい、話だね……!」
なんか後ろで影咲が泣いているが。
まあ、確かに傍から見れば感動できる話なのかも……?
「っ……う……ふぅ。さて、と。話はここまでかな?」
「おっ、おう。どうしたんだ急に?」
目元をわざとらしくゴシゴシ擦った影咲は、突然変異したかのように態度を変えて真面目な雰囲気になった。
そんな彼女に俺は困惑するが……
「―――桜花ちゃん? ちゃんと、訳を説明してもらうよ?」
「え。な、何の話なのだ……?」
「何って。それはもちろん……」
目の前に俺が居るのにもお構いなしに、ジリジリと桜花のもとへ詰め寄っていく影咲。
ちょっといい匂いがする。―――じゃなくて、なんか目が怖いが!?
「―――貴女が、緋神君の唇を奪った件について、だよ?」
(ん?)
「だ、だからそれは契約がっ―――」
「だーめ。別に契約ならキスじゃなくてもいいはずでしょう?」
「い、いやそんな事はないのだ……」
「ふぅん? 本当かなぁ」
「な、何なのだ! それよりもお前! お前だって私が目覚める直前に、紅蓮とキスしようとしていただろうが! 私は見逃さなかったのだ!!」
(え?)
「ぎくっ……! い、いやだからそれは……そのぉ……」
「あれは一体何なのだ〜?? 別に好きでもない男にあそこまでするはずがないだろう〜??? ま、私は紅蓮の事がだーいすきだけどな!」
「う……それは、そのぉ……えっと……」
(な、なんか話が変な方向に行ってないか……!? ってかこのままただ話を聞いていたら、俺までおかしくなりそうなんだけど!)
気づけば俺の顔は蒸気が出るくらい沸騰していた。
あり得ない、とは思いながらもブンブンと頭を横に振って話を切り替えるべく、二人の間に割って入った。
「そ、それでさー? 無事に二人も目覚めて、事件も無事に解決―――はしてないけど、収束したしさ。これからどうする? 俺たち。それに他の皆が今何をしているのか知りたいかな」
「そ、そうだね! 今は確かにそっちの方が大事かもだね! うん!」
「ふぅーん。紅蓮はそっちの味方をするんだ。へー」
「う、うるさいな!」
桜花の奴、人になってからとてもキャラが変わった気がするが……気のせいと言うことにしておこう。うん。
ともかく。咄嗟に口から出た言葉だったが、実際今俺たち以外のクラスメイトたちは何をしているんだろうか。特に、姉ちゃんたちは。
桜花が人になった詳しい理由も、俺たちを襲ってどこかに雲隠れしたあのサイケリとかいう男も、何もかもがまだ謎に包まれたままだけど……でも。
こんな穏やかな日常が戻ってきたのは、随分と久しぶりな気がするな。
「ぐーれーん! なんでその女の味方をするのだー!?」
「ちょっと緋神くん! これから先の話をするんだったらまずはその女の子を黙らせてよ!」
んー。前言撤回。
何だか前にも増して、修羅場みたいになってるなぁ。
なんでだろうか。
その理由は全く分からないけど。
でも。
「んー、とりあえず二人とも一旦静かに……ね?」
“平和”は、確実に俺たちの所に戻ってきていた。
◆
「今度は……今度こそは……っ!」
そんな、召喚者たちのもとに平和が戻りつつある中。
一人の男は目の前の装置とにらめっこをしていた。
「ヒカミグレン……ヒカミグレンッ! あいつは……アイツだけは許さないッ!!!」
手には無数の切り傷があった。
そこから、ポタポタと血が零れ落ちていく。
「次は……上手くやれるはずだッ! あの男を潰すにはぁ……そうだなぁ―――」
男は、記憶を掘り返す。
するとそこには、一人の少女の顔が思い浮かんでいた。
「ヒヒヒッ……そうだぁ、確か奴らは近々昇格試験を受けるんだったなぁ。となれば……そうだ、あの時居たあの女を使えばきっとヒカミグレンは……」
男は、真っ赤に染まった鋼鉄の鎧を撫でながら不敵に笑う。
それはそれは、不気味なくらいに恐ろしく。
「次は仕留めてみせるからなぁ……ッ!」
◆
「―――以上が、今回の件の全貌だ。奴の暴走は想定内だったが、まさかここまでするとは思わなかった。それに関しては、申し訳無いと思っている」
『ううん? 別にいいんだよ? だって私が見たいのは、もっと面白い展開なんだもん』
「……ふん。変わらないな」
『だしょ。でも、今回のは特に面白い子たちだからねぇ。遊ばざるを得ないって訳よ』
「好きにしろ。我らも、なるべく協力はしてやるつもりだからな」
『うんうん。それでいいよ。私は適当だからねぇ〜』
「もうこれ以上用がないなら、通信を切るぞ」
『何だよそっちから掛けてきておいて! ―――ま、いいんだけど』
「それでは―――」
『ああ、待って!』
「……うぅむ。何だ」
『奏ちゃんは―――影咲奏ちゃんだけは絶対に守ってね? 彼女、例の力を持ってるみたいだからさ』
「例の―――と言う事はまさか闇の……っ!」
『うん。そういう事。だから何としても守り抜くんだよ?』
「分かった……それだけは何としても守ってみせよう」
『うんうん。それじゃああとは特に用事もないから! じゃね〜』
ブツっ。と通信はその場で途切れてしまう。
黒服フードの男―――クロカゲは溜め息をついてしまう。
「騒がしい女だ。……面倒くさい」
フードの下に隠れた顔は、とても歪んでいた。
歪んだ顔の男は、先程の通信の内容を思い出しながらその場を後にする。
「サイケリ……奴がまた暴走しなければいいんだが」
あの、イカれた発明者の心配をしながら。
◆
クロカゲがとある人物と通信をしてから、少し経った頃―――それは影咲たちが目覚める2日前の話だ。
その報せは、突然やってきた。
『ハンター昇格試験―日程詳細―』
そんなタイトルが書かれた一枚の紙が、ハンター協会を始めとし町中国中にばら撒かれていた。
その報せは、当然彼女らのもとにも届く。
「へぇ、開催日早まったんだ」
「みたいですね」
「まだ影咲さんとか、お兄ちゃんとかが帰ってきてないのに……」
「ですが、そうと決まった以上は……出るしかないのでは?」
蒼華たちは頭を抱えた。
別に自分たちだけで受けてもいいのだが、今はここに居ないメンツが心配だったのだ。
特に、紅蓮が……だが。
でも、そんな心配は一瞬にして消え去った。何故ならば……
「ってか、そっか。紅蓮は別に試験を受ける訳じゃないんだっけ」
「ああ、そう言えば。紅蓮は能力適正数値が低いからまだハンターにもなれてないんでしたね」
「なんか二人とも微妙に酷くない? お兄ちゃんが聞いたら泣いちゃうよ、きっと」
「ふふ、確かに」
紅蓮はそもそも、ハンターにすらなれていなかったからだ。
……まあ、それはそれで冥の言う通り悲しい話ではあるのだが。
「でも、何でこんな急に決まったのかね」
「ですね。メリドさんはまだ未定だから、って言っていたのに」
「そうだね……何か怪しい気はするけど」
「多分、戦争が近いのかもしれませんね」
麗はそう言った。
戦争にはハンターが主となって戦う為、もしかするとランクの高いハンターを王国が求めているのかもしれないと、そう思ったからだ。
「でも……何はともあれ行かないとね」
「開催日は―――明日、ですか」
「ほんとに、急だね……」
「影咲さん抜きでもやるしかないみたいね。じゃないと、次の昇格試験……いつか分からない訳だし」
「そうだねぇ……」
4人は、窓の外の青空を眺めながら考えた。
何故か明日に差し迫った昇格試験の話と、未だ目覚めない影咲たちの事を交互に。
いつもありがとうございます!
ブックマークや高評価を、ぜひしていただければなって思ってます!!
そしてご報告です。
今日まで大賞応募のために平日毎日投稿を続けてきましたが、流石に無理をし過ぎてストックがもう無いので、これから少しの期間投稿をお休みさせてください。
よりよいストーリー、より刺さる展開を考えてまいりますので、何卒ご理解いただけると助かります。
本格再開は7/13辺りを想定してますが、早まる可能性が大いにありますのでそちらの方は、よければツイッター等でご確認くださいませ!
それでは。
長くなりましたが、今後とも応援のほどよろしくお願い致します!
しばしのお待ちを!!あでゅー!




