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18.これは夢っ!?夢なのっ!?……なのだ?

―――少女たちの想いは、重なる。




 蒼華たちのもとに、ハンター協会から昇格試験のお知らせが来てから早3日。影咲と桜花は未だ目覚めず、ただただこんこんと眠り続けていた。

 その間紅蓮だけは普通に生活を続け、先の戦闘で負ってしまった怪我や、それとは別に今までに負ってきた傷の完璧な治療を図り、診療所生活を続けていた。



「早く二人とも起きないかな……」



 紅蓮は近頃、ずっとこればっかり言っていた。いわゆる口癖になっていたのだ。

 まあ、無理もないだろう。すぐ隣に二人は居るのに……触れられる距離に居るというのに、二人ともずっと目覚めないのだから。



「もう、寝るか……」



 今日ももう一日が終わる。

 太陽が沈み、月が顔を見せ。辺りにコウモリのような野鳥が姿を現し始める頃。―――紅蓮は今日も目覚めない影咲と桜花の事を想いながら、布団に潜るのであった。





「―――おや。これはこれは……」



 それは、深夜の出来事であった。

 皆が寝静まり、夜も更け更けの頃。


 その部屋には、とある人物が訪れていた。

 ―――診療所の医者で、紅蓮たちの担当医でもあるハーブだ。



「間もなく、と言ったところか。なら……」



 年老いてもなお、衰えることのないその眼は影咲の身体を舐めるように見、そしてその身体に訪れていたとある変化に気づいていた。

 それに気がついたハーブは、影咲の身体を抱きかかえるとそのまま隣のベットに眠る紅蓮と密着させるようにおろした。



「若かりし頃の私にそっくりだ。カゲサキさん、たーんと楽しむんだよ?」



 そう、全てを分かっているかのような物言いでその場を後にするハーブ。

 彼の目には、影咲の身体に闇の魔力マナが少し……少しだけだが見えていた。今までは見えていなかった、尽きかけていた魔力が、だ。



「愛は人を救う……か。ほほ……若い者は羨ましいなぁ」



 魔力が戻れば、きっと影咲も起きるだろう。

 だってこの世界の人は、そういう風に作られているのだから。





「(ふええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!)」



 その少女は、目が覚めるやいなや心の中で大絶叫していた。

 まるでジェットコースターに乗ったかのように、それはそれは大きな声で。……心の中でだが。



「(え……なになに、何が起きてるのぉっ!?)」



 少女は―――影咲奏は、状況が理解出来ずにいた。



「(……待って、待ってね私。一旦情報を整理するのよ? えっとまず―――)」



 影咲は、寝起きなのにも関わらず脳内を全力で働かせ、オーバーヒートしてしまうのではないかというくらい本気で記憶を掘り返していた。そして、今のこの状況をどうにか理解しようとしていた。



「(うう……落ち着けるわけないよ! なんで……なんで紅蓮くんが隣で寝てるのぉぉ?!)」



 だけど、無理だった。

 こんなの、影咲にとって理解できるはずがない。


 いや、記憶を掘り返してもこんなの影咲の記憶の中には無い。

 覚えてる最後の記憶は、謎の白衣の男が、最愛の人を殺そうとしたあの瞬間だ。だが、そこまでしか覚えていなかった。

 だから、こうして隣に彼が眠っている事実が、どうしようもなく嬉しかった。―――いや、不思議だった、か?



「(……でも、生きててくれんだ……。ほんとに、よかった……)」



 気づけば、涙が零れていた。

 頬を、ツーっと伝う涙が影咲の心を落ち着かせてくれる。



「(……顔、綺麗だなぁ)」



 驚くくらい、普通な顔つきなのに。それなのに、どうしてこんなにも綺麗に見えるのかが不思議でならなかった。

 影咲は、彼の顔をむにぃっと揉んでみる。



「(えへへ……変な顔。私だけに、見せてくれてるんだ)」



 初めて見る、彼の無防備な姿。

 今、二人は超至近距離で、お互いの吐息も顔に当たるくらい近くにいた。


 彼の吐息。甘い、吐息。

 脳がとろけてしまいそうな、匂い。



「(……今なら、いいよね……はぁ……はぁ……っ)」



 冷静になった彼女の心には、青い炎が灯っていた。

 周囲を見ても、誰もいない。完全に、二人だけの空間。


 今なら、何をしてもバレない。

 背徳感と、独占欲と、そして己の欲望が彼女を突き動かしていた。心の火に、油を注いでいた。



「(……柔らかそうな、唇。目を瞑ってるって事は……そういう事なんだよね? いいんだよね……? 私だけの、私だけのモノになってくれるんだよね……?)」



 明らかに異常な独占欲。

 一瞬にして影咲の心は、まるで獲物を捕らえる蛇のような姿に形を変えていた。



「(えへ、えへへへ。何だか分からないけど……この状況を作ってくれた人―――ううん、神様に感謝しないとね。ああ、これでようやく私だけのモノになってくれるんだね、紅蓮くん!)」



 その両手は、紅蓮の頬を掴んでいた。

 自分も目を閉じ、完全に喰らう準備は整った。



「(こんな事、君だけなんだからね? 私を助けてくれた、君だからこそなんだよ……? だから、お願いだからこのまま目覚めないで―――)」



 今。静かなベットの中で。

 少年と少女の、穢れを知らない唇が重なり―――




「何を、しているのだ」




 ―――合う瞬間。何者かの手が、それを邪魔していた。



「だ……れ、なの?」


「ワタシか? ワタシは―――」







 ―――なんなのだ。ここは……。



 とても。とっても悪い夢を見ていた気がする。

 自分が、誰かを殺す夢。


 透明な自分の身体が、紅く染まっていくような夢。



 ……いや、夢なんかじゃない。

 あれは、遠い昔に実際にあった出来事だ。それを、自分の都合のいいように解釈していただけ。そう、納得しようとしただけだ。



「(ワタシも醜い存在だな……)」



 そう、自虐するように彼女は心の中で呟いた。



「(それにしても、ここは一体……)」



 そこはとても暗く、寒い場所だった。



「(ワタシは、どうなってしまうのだ……?)」



 不安なで押し潰されそうになる。

 こんな場所に、孤独で。誰も、居ないのがこんなにも辛いだなんて。



「(誰か……誰か居ないのかっ……)」



―――大丈夫だ。俺が居るからな。



「(この声は……ぐれん?)」



―――俺にはお前が必要なんだ。



「(……これは、あの時の―――)」



 時は少し遡る。

 それは、紅蓮が桜花と二人で朝まで特訓をしていた時のことだ。


 桜花は、紅蓮と色々な話をしていた。

 それぞれの、過去の話。夢の話。これから先の話。

 互いに言える部分だけだったが、沢山の話をした。



「(あの時は……全部話せなかったな)」



―――いつか、お前の過去の事もちゃんと聞かせてくれよ?



「(いつか……ワタシの過去の事を―――)」



 嫌だった。

 過去の話をして、気持ち悪がられるのが。怖がられるのが。


 ワタシが、無意識で・・・・やった事が、そういう風に思われるのがとにかく嫌だった。



―――桜花。お前の夢は何なんだ?



「(ワタシの、夢……?)」



 考えた事も無かった。―――少し前までは。

 でも、今は違う。一つだけ。たった一つだけ叶えたい夢がある。できたんだ。



「(ワタシの夢は―――紅蓮と、肩を並べて話す事。二人で、美味しいご飯を腹いっぱい食べる事。そして、二人で一緒に……ずっとずっと一緒に居られる事……)」



―――え? あ、俺も好きだぞ?



「(これは―――そうか。あの時の言葉は、きっと意味が伝わってなかったのだな。だから、今度こそは……)」



 ―――人の姿を得て、そして最愛のマスターと共に過ごせること。それが、今の彼女の夢なのだ。



「(ぐれんが、ワタシと契約を結んでくれれば……きっと……)」



 前に紅蓮と結んだのは仮の契約だった。

 何故ならば、桜花の力は強大な物だったからだ。桜花自身も、それを理解していた。だからこそ、本契約を結んでしまえば紅蓮の身に何が起きるか分からない。


 思え返せば、桜花は今までにどの所有者マスターとも本契約を結んだ事がなかった。

 初めて恋をした、彼でさえ。―――いや、あの時は“出来なかった”という表現が正しいのか。

 ともかく、桜花は本契約をした時に人の姿を得られると思っていたのだ。本契約をすれば―――自分の願いは叶うと。そう信じていたのだ。



「(ぐれんとなら……ワタシは―――)」



 出来るかどうか―――叶うかどうかは分からない。

 でも、彼なら。……あの人なら、全てを託してもいい。そう思えた。



「(なんで、好きになったんだろうな……)」



 恋心という物は複雑だ。

 自分自身でさえ、理解できないのだから。



―――俺はもう、必要ないから……



「(こ……れは。……ああ、そっか―――そういう事なのか)」



 だけど今この瞬間。

 やっと……ようやく分かった。



「(ワタシには……“私”には、あいつが必要なのだ。あいつが、私を必要とするように……)」


 

―――じゃあ、またな。



「……待つのだ」



 その時。私の『手』は、彼の腕を掴んでいた。



「もう、もう……離れてやるもんか、なのだ。絶対に、離さないのだ」





「ワタシは―――“私”は、桜花。そこにある、剣なのだ」


「……桜花、って。え……? 嘘、え……?」



 影咲は、目を丸くして驚いていた。

 それも無理は無い。だって、さっきまで誰も居なかったのに。そこには確かに、ゴスロリの服をその身に纏った少女が居たのだから。



「それよりも。何をしようとしていたのだ?」


「え? ―――あっ……と、う、うぅ……それは……」



 影咲はたじろぐ。

 何故ならば、たった今自分がしようとしていたことがなやましい事だったからだ。



「わ、わたしは……え、ええっと〜??」



 脳が、焼けていく。

 影咲の脳内は、思考はぐるぐると大回転を始めてしまう。



「? な、なにを、しようとしていたのわたしは……!」


「……はぁ、もういいのだ」



「ん、んぅ……何だよ。騒がしいなぁ―――」



 その時。奇跡は重なって。

 二人に腕を掴まれていた紅蓮が、目を覚ましたのだ。



「え」

「あ」



 刹那、影咲だけでなく桜花までもが頭がぐるぐると大回転してしまう。今の自分のこの姿を、見られるのが恥ずかしかったからだ。



「一体、何の騒ぎ……で―――って、影咲っ! 起きたのか!」


「う、うん……おはよう」


「良かった……3日間も眠り続けてたから、心配したよ」


「み、3日も!?」


「ああ。お前と、桜花も3日間ずっと起きなくて―――って、お前は……誰だ?」



 そこまで言った時、紅蓮は影咲の反対側にいる少女の存在に気がついた。見たことのないゴスロリの少女。

 少女の手には、“桜花”が握られていた。



「あっ……う、うう……わ、わ、わ、わたし……は……えっと、その……」


「……大丈夫……?」


「あっ、あばばば……ばば」



 目をぐるぐるさせて、言葉が続かない様子の少女を見て紅蓮は心配そうにその顔を覗き込んだ。



「あっ、緋神君……その子は―――」


「わっ、私は……!」



 かなり至近距離に顔がある。

 その事実が、少女の頭をさらに加熱させる。


 だけど。

 このままじゃ話が進まない。だから、少女は―――桜花は意を決して動き出した。



「―――私は……私だっ! 桜花、なのだ!!」


「……え? 何を……言って―――え? お前が、桜……花?」


「ああ、私だ。ぐれ……ん―――んっ」



 チュッ……。



「ッ……!?!!?!」


「えっ」



 少女の唇が、少年の唇を奪い去った。

 それは、一瞬の出来事だった。


 刹那。

 小さな診療所には、もう一人の少女の大きな叫び声が響く。



「うええええええええっ?!」

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