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15/61

15.絶望は連鎖する。

―――少年は、死と引き換えに力を得る。




 ―――寒いなぁ。


 俺は、とある場所で目覚めた。

 そこは、多分死後の世界。暗くて、寒くて、冷たい場所。

 何にもない空間が、ただただ無限に続く世界。


 声も出ないし、寝たまま体も動かせない。

 俺はきっと、このまま天国か地獄へ行くのだろう。

 でも、不思議と嫌な気はしなかった。


(何でだろう……)



 俺は考える。

 ……多分。俺はずっと追い詰められていたんだと思う。

 何故かって、だって……今はこんなにも清々しい気持ちなんだから。

 俺にかかる圧や期待は、いつの間にか俺の中でストレスとなって蓄積されて、それでも俺はそれを顔に出さずに生きてきた。


 姉ちゃんを心配させない為に。

 死んだ父さん達の為に。

 学校での居場所を失わない為に。


 好きな人に、振り向いてもらう為に。


(ああ、そっか―――やっと、解放されたのか……)



 でも、それももうお終いだ。

 俺はこれから、解き放たれるんだ。そんなストレスを感じなくてもいい世界へと。

 それなら例え地獄に堕とされてもいい。この、圧から解放されると言うのならば。


(はは……)



 心の中で、乾いた笑いをする。

 何でだろう。脳では理解しているんだ。解放されるって。


 でも、考えれば考えるほど死にたくない。

 まだ、生きていたいという気持ちが沸々と湧き上がってくる。


(何で……だよっ!)



 死にたいはずなのに。このストレスから解放されたいはずなのに。でも、何処か心の内で、まだ炎が灯っているんだ。

 「死にたくない」って、言ってるんだよ。



―――ならば死ななければいい。


(誰……だよ)



 何処からか、俺の心に直接語りかけて来る奴がいた。

 でも、当然だがソイツの姿は見えない。


 心に語りかけて来るなら、こちらも心の中で答えよう。



―――我は“死神”。いや……貴様に取り憑く“貧乏神”とでも言うべきか。


(貧乏神、だって……?)


―――ああ。いや、今はそんな事を気にしている場合では無いのだ。貴様は、死にたいのか? それとも、死にたくないのか?



 そんな問いかけをされて、俺は再び考えてしまう。

 実際のところ、どっちなんだろうか。


 俺は、死にたい。


(いいや、死にたくない)



 やっぱり心の灯火はまだ消えてないのか。

 どれだけ脳で思っていても、何処で俺自身がその考えを否定しようとしている。まるで天使と悪魔が争っているかのように。


(俺は……まだ……)



―――それならば。貴様に一つ力を貸してやろう。


(力……?)


―――ああそうだ。貴様には、その身が“死”に近づいた時だけ発動する呪いのような力を与えてやろう。使えば寿命が縮む代わりに、一瞬だけ神をも超える力だ。


(……寿命が、縮む代わりに……?)


―――些細な話だろう? 10年以上は縮むだろうが、そのお陰で死ぬ事なく窮地を脱することが出来るのだから。


(10年以上……も、かよ……。でも、それでもその力があれば……)


―――ああ。少なくとも今死ぬ事は無い。事実、今の貴様の体は死んでいないのだからな。瀕死状態ではあるが。


(……そうか。まだ、死んでないのか……。でも、どうしてお前は俺にチャンスをくれるんだ……? こんな肉体、滅んだところでお前みたいな神様には損なんて無いだろうに)


―――フン。貴様は何にも分かっていないな。我は、貴様のその“不幸体質”が気に入ったのだよ。


(不幸……体質?)


―――ああ。何をしようにもトラブルに巻き込まれる、その不幸体質がな。その不幸のエネルギーが我の力となって、いづれは我の完全復活が……っと。関係の無い話だったな。で、どうする? 力は、いるか?


(……お前が何を企んでいるのかはさておき、俺が生き返られる力が手に入るのなら……その力、喜んで受け入れようじゃないか)



―――契約成立、だな。さあ、目を覚ませ……その力が使えるのは、ほんの一瞬だからな。



 次の瞬間。俺の視界は、光に包まれた―――







 ―――闇の魔力の痕跡は、やがてとある場所で途切れた。

 いや、途切れたというよりかはその場所で終わっていたのだ。


 となるとここに紅蓮が居る。そう確信した影咲は、意を決してその場所へと踏み込んで行った。

 そこは、寂れた廃工場だった。



「緋神……君? 居るの?」



 そう、消え入りそうな声で暗い工場の中で呼びかける影咲。

 だが、彼女が感じたのは紅蓮の気配では無かった。


 ―――いや、気配はしていた。闇の魔力だけは影咲の目にはっきりと映っているのだ。だからそこには紅蓮が確かにいるのだと分かっていた。

 だが、それだけじゃなかった。



「誰……?」


「ああ、君は……。報告にあった“奇跡の子”の一人だね?」


「……貴方は、誰なんですか」



 影咲は、そこに居るもう一つの気配・・・・・・・に問いかけた。



「……ここは暗くてよく見えないだろうからさ。ちゃんと見せてあげるよ」


「……? 一体、何を―――」



「―――これをだよッ!! オウカ、ライトアップだ!」



 瞬間、影咲の感覚器はほんの一瞬だけ麻痺してしまった。視界は光に包まれ、鼻には何かの強烈な匂いが飛び込んでくる。

 それに今の言葉だ。今、そこにいる男はなんて言った? “オウカ”と言ったのか? それは、紅蓮の―――そう思うと、視界は段々と光に慣れていき、やがて完全に回復を果たした。


 視界が回復した影咲の目に真っ先に飛び込んできたのは―――謎の白衣の男と巨大なロボット。そして……強烈な香りの正体だった。



「ヒヒヒッ……コイツ、憐れだよなぁ……。雑魚のくせに、最後まで僕に反抗してきたんだからさぁ! ぎゃははははっ! こうなるのも無理ないよ!」



 そう言って男が踏み付けたのは、まさに“緋神紅蓮”その人だったのだ。

 ただ唯一、おかしかったのは……



「紅蓮……く、ん?」



 彼が、倒れて動かなかった事だ。


 その時影咲の脳内に浮かんだのは、2つの感情。

 一つは怒り。もう一つは、悲しみ。



「大切な仲間を奪われて、自分まで殺されてんだよ!? クソ面白い話じゃないか! ぎゃはははは!」


「―――マ、レ」



 その2つの感情が、彼女を動かすには十分なエネルギーだった。



「ヒッ、ヒヒヒッ! 君はラッキーだ! この男、実はまだ死んでなくてさ! 瀕死状態の所に、僕が今からトドメを刺すところなんだよっ!」


「―――ダ、マ……ッテ」



 気づいた時には、影咲の手は魔法を放っていた。



「―――黙ってよ! 紅蓮君から離れてッ!!」


「おおっと危ない。オウカ!」



 影咲は闇魔法を謎の白衣男サイケリの頭目がけて放つが、それは巨大なロボットによって防がれてしまう。



『……ゲテ』


「え……?」



 “オウカ”と呼ばれた巨大なロボットは、とても小さな音声で何かを呟いた。だが、それは影咲には届かない。

 何故ならば、彼女の意思は……サイケリによって全てが強制決定させられてしまうのだから。



「―――よそ見は禁物だよお嬢さんっ!」


「きゃぁぁっ!!」



 次の瞬間、影咲は“オウカ”の殴りで吹き飛ばされてしまう。

 不意を突かれてしまい、防ぐ間も無く影咲は倒れてしまった。



「ほうら、そこでしっかりと見ててねぇ……? ヒヒヒッ、それじゃあお別れの時間だぁ……!」



 薄れる意識の中、影咲は手を伸ばす。

 震える手で、届きもしない紅蓮の方へと。



「……ぐれ……ん、く……んっ……!」



 それは、儚い願い。

 叶うはずの無い希望。



「じゃあね、緋神紅蓮クン……!」



 白衣の男の、その言葉と共に。

 全てが、途切れた。




◆ 




 ―――その瞬間。全てが終わった気がした。

 意識はもう戻ってきているのに、何も出来なかった。


 涙を流す事すら、叶わなかった。



「ヒヒヒッ……ヒヒヒヒッ……! アハハハハーッ!!」



 男は目の前で高笑いをする。

 それもそのはずだ。


 目の前で紅蓮にトドメを刺し、助けに来た少女は気絶してしまった。そう、全てが完璧だった。

 現状考えられる、彼にとっての最高の結末。だからこその高笑いなのだ。


(もう、おしまいなのだ……)



 全部、全部終わってしまった。


 彼女はそう絶望すると、やがてその身を錆びさせていった。

 もう、生きる価値を失った生き物のように。





「―――ぁ」



 声が、出た。喉が動いた。

 手も動くし、目も見える。


 本当に、生き返ったのか?



「……ヒヒヒヒッ! アハハハッ!」



 目覚めると、すぐ側からあの発明者の男の物と思われる笑い声が聞こえてきた。



「あーあ、皆倒れちゃった」


(皆……だと? 俺の他にも、誰か……居るのか?)



 俺は、震える顔を動かして視線を巡らせる。

 すると俺の視界に飛び込んできたのは、とある一人の少女だった。


(あ……れ、は)



 好きだった少女。

 守りたかった、女の子がそこには倒れていた。


 それが分かった瞬間。


 俺は―――立ち上がっていた。



「あぁん? ―――は……? 何で、お前が……」



 ドクン、ドクンと心臓が鳴る。

 それはもう、煩いくらいに。



「ゆる、さない」


「―――は」



 それは、一瞬の出来事だった。

 気づけば、俺は男を吹き飛ばしていたのだ。たった、一撃で。



「アガァァッ!! ―――何……をした……ッ!」


「お前こそ、彼女に何をした……。いや、彼女“たちに”何をしたんだッ!!!」



 俺は言いながら、飛び上がった。

 狙いは、巨大ロボット―――その心臓部だ。“桜花”を、救い出してみせる。


(確か“アイツ”は、この力が使えるのは少しの間だけと言っていたはずだから……チャンスは今しかない!)



「待ってろ……今、助けてやるからなッ!」



 ガァン!と勢いよく壊れるロボットの正面部。そこから俺は、一本の剣を引き抜いて、ロボットから離れる。



「は……はは……嘘、だろ。もう、全部終わっちゃった……あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは―――」



 バタリ。と、壊れた人形のような声を発した男は、そのまま気絶して倒れてしまった。

 しかし、俺にとってそんなコトはどうでもいいのだ。今何よりも大事なのは。



「―――おい、桜花……? 何で、そんな姿をしているんだよ……?」



 ―――桜花が、錆びていたのだ。

 魔力も感じられず、話しかけても反応が無い。



「なぁ……桜花ぁ……! また、いつもみたいに俺の愚痴を聞いてくれよ……! なんで、そんなに黙りこくってるんだよ……っ!」



 何度呼びかけても、何度叩いても……何にも反応がない。

 俺の視界は、涙で次第に曇っていくのが分かった。


 せっかく、生き返って……それで桜花を救い出せたのに。

 肝心の桜花が無事じゃないんじゃ……意味が無いじゃないか。



「目を……覚ましてくれよ……っ! ―――“桜花”っ!!!」



 俺の悲痛の叫び声は、静かになった廃工場に響き渡る。

 ―――俺が、孤独になった事を現すかのように。ただただ、静かに。


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