14.発明者に抗ってみた。
―――少年は再び奈落の底へと落ちていく。
「ここか……ッ!」
俺はそこに辿り着いた。
メリドさんに教えられた、街の外れの廃工場へと。
その廃工場は、家やあの古びた遺跡とは真反対……城の向こう側にあって、かなりの距離を走る事になってしまったが桜花の為ならばこんなの苦でも何でもない。
「結構……雰囲気あるな」
カーカーと鳴くカラスのような生き物が辺りには飛んでいて、日も少しずつ沈んできているこの夕暮れ時。
周りには何も無く、ただカラスが鳴いているだけというこの状況が余計に俺の恐怖心を煽る。
(でも、桜花を取り返す為なら……!)
「いざ……っ!」
意を決し、俺はその廃工場の中へと進んでいく。
ガララッ!と勢いよく扉を開き、暗い工場内をなんとなく手探りで探してみる。
が、当然暗すぎて何も見えない。やはり、何か明かりのような物を準備してからくるべきだったのだろうか。……いや、そうでなくても昼間なら自然の光で中まで照らされていたのだろうが。
(この時間帯じゃな……)
「はぁ……」
俺はつい溜め息をついてしまう。いや、そんな事をしている場合では無いのはもちろん分かってはいるのだが。
(くそ……ホントにどこに居るんだよ……。ここじゃないのかよ……っ!)
内心感じている焦りや苛立ちを行動で表すかのように、俺は近くにあった“何か”に拳を打ち付けた。
―――コツン、と響くそれは、何か鉄のようなモノだ。
(ん……? 何だよ、これ)
俺は別に壁沿いに歩いてきた訳じゃない。手探り状態で、一歩ずつ中央に向かって歩いてきたのだ。
しかもここは廃工場。となるとこんな中央に鉄の塊があるはず無い。……いや、絶対に無いとは言い切れないが、鉄はかなり重宝する素材のはずだから、こんなところに放置しておくとは考えにくい。
となるとこれは―――
(柱とか、か……?)
「それならいっか……」
そう思った俺は、もう一度コツンと叩いてみる。
―――コツン、コツンと。何度も何度も。
そのせいだろう。俺は、背後から近づいてくるもう一人の男―――じゃなくて、男に気が付かなかったのだ。
「―――キミは、何をしているのかな」
「だ、誰だっ!!」
俺は背後からかけられたその声に即座に振り返って対応する。
すると、そこにいたのは白衣のやせ細ったおじさん……いや、お兄さんだった。
ひげとか伸びた髪の毛とかで老けたおじさんに見えるが、まだ若そうな見た目をしている。
「僕はねぇ、『発明者』だよ」
「発明者……?」
「そう。君は、緋神紅蓮くん、だね?」
「な、何で俺の名前を……ッ!?」
「―――僕は何でも知ってるんだよ。君がここに、何をしに来たのかもね」
(……ッ!?)
何だ。何なんだよコイツは。
その言葉で、俺の体には一気にプレッシャーがかかる。
何かに取り憑かれたかのように、足が動かない。体も、重く感じる。
「僕はねぇ、こういう兵器を作るのが趣味なんだよ」
「へ、兵器……だって?」
「そうそう。―――今回のは超大作だからさぁ。なんと言っても動力に使った伝説の剣が肝だよねぇ!」
「……伝説の、つる……ぎ?」
(待て……待てよ。それって、まさか―――)
その痩せた男の言葉に、俺は一つだけ……嫌なことを思いついてしまう。有り得ない。いや、あってほしくない。
そう願うばかりだが、そんな願いを打ち砕くかのように男は言葉を紡いだ。
「そう! 君が大事に背負っていたあの剣さ! んーっと、たしか“オウカ”ちゃんだったけぇ。ま、もう彼女は居ないんだけどね」
「……は? 何を、言ってるんだ……お前は」
「いやだからさ。そこの魔術兵器の核となってもらったから、もう精神なんて消え去って、ただの魔術を流す装置と成り果ててるって言ってるんだよっ! アハハハハハハハッ!!!」
(え……? 嘘、だよな)
信じられない。
俺は頭を抱えて、その場にしゃがみ込んでしまう。
抑えきれない怒りと、信じきれない言葉。
ぐるぐると螺旋状に渦巻く脳内の思考回路と、吐き気。
その全てが、一瞬にして俺の体中を駆け巡った。
「良かったら君には特等席で見ててほしいんだ! 君の相棒だった“モノ”が、この町を―――この国を破壊し尽くしていく様をねぇっ!!」
その言葉を聞いた時だ。
俺の心にある“理性”と言う名の“鎖”は、音を立てて崩れ去った。
「―――ざ……るな」
「イヒヒヒッ! なぁにかなぁ……!? 何て言ってるのか、聞こえないなぁ!!」
「ふざけるなって言ってるんだよッ!!!」
「ふざけるな、か。……ふざけてるのはどっちか、思い知らせてあげるよ。―――ほら、試作機1号ちゃん……いや、“サイケリナンバー1・オウカ”ちゃん。そこのガキを凪ぎ払え」
男はそう俺の方に向かって言うと、ピッという無機質な音とゴゴゴゴ……という地鳴りのような音が順番に響いた。
音は近い。そう、それはまるですぐ後ろから―――
『……ダ』
「え……?」
『イヤダッッ!!!』
「ぐぁぁぁっ!!!」
直後。俺は“何か”に殴りつけられ、勢いよく工場の壁へと打ち付けられた。
痛みと衝撃で、その時にはもう俺の意識は薄れかかっていたが―――
(こんな所で……倒れてたまるかよっ!)
怒りと、桜花を助けたいというその気持ち一心に俺は無理矢理立ち上がった。
「へぇ。僕なら気絶してただろうけどねぇ」
「……るせぇ。桜花を、返しやがれ……クソ発明者ッ!!」
俺にもっと力があれば良かった。
だけど、今の俺には桜花を―――桜花を使ったあの兵器を倒すことは不可能だ。
だけど、それなら別の方法を探すしかない。
人間は醜くてずる賢い生き物だけど。それが、人間の強さだから。
「桜花を操ってる装置を寄越しやがれクソ発明者がッ!!」
俺は、今出せる全力を振り絞って扉の方にいる発明者の男に向かって駆け出した。
そしてそのまま距離を詰めて、拳を当てる態勢に入る俺。
だけど。
事はそう上手く運ぶはずが無かった。
「ヒ……ヒヒッ。馬鹿な少年だ。僕なら倒せると思っちゃったのか」
「―――は……?」
次の瞬間、俺の視界は上下が逆さまになっていたのだ。
(今……俺は、何をされて―――)
「“オウカ”。やれ!」
『アアァァァァァァァァァァァァッ!!!』
そして直後。
俺の体には、強い衝撃が襲ってきていた。
兵器の、腕だ。
兵器の腕に、殴りつけられて。それで―――
(あれ……俺、死ぬのか……?)
今度こそ、無理だろう。
視界がもう、歪んできている。倒れたまま、起き上がる事が出来ない。……力が、入らない。
「それじゃあ、町を破壊してくるとするかなぁ?」
「―――…………て……よ」
震える声で何とか声を出す俺だが……。
もう、本当に限界だった。
「煩いガキが。命令に背くことにはなるが、お前は雑魚すぎて簡単に死んでしまったと報告しておくとするからさぁ。……早く死んでくれないかなぁ?」
「……あ……ぐっ」
「いいから、はやく、死ねよ!!」
ダン、ダン、ダンと何度も何度も俺は体を踏まれ続けた。
それでも、意識だけは保ち続けていた。
痛い、苦しい、吐きそう。
そんな苦しみに耐えながら、何度も、何度も堪えた。
だって俺がここで足止めをしておかないと、コイツの作った兵器が―――“桜花”が町を壊すことになってしまうのだから。
それだけは、何としても止めなければならない。
「しぶといガキだなぁ……。もう、これを使うかぁ……」
そんな言葉と共に聞こえてきたのは、シャキン……という刃物の音だった。
「じゃあね少年。僕が死んだら、その時はあの世で会おうねぇ……ッ!!!」
◆
―――少女は走っていた。
それは、どこに向かってか。それは、新しく与えられた自宅に?
いいや、違った。
仲間たちから離れ、少女は単身でとある場所へと向かっていた。
「私の魔力の先に、紅蓮くんはいるはずだから……っ!」
彼女は、密かに使っていた闇の魔法……いや、魔法と呼べる程のモノでは無いが、自分で“マーキング”と名付けた魔力を対象に少しだけ与える事でその対象が現在何処に居るのかを分かるようにする力を紅蓮に使っていたのだ。
「皆さん……ごめんなさいっ!」
少女は闇の魔力の跡を辿っていく。
仲間たちには黙って、一人離れた事を内心誤りながら。必死に、息が切れる事も忘れて走り続けた。
■
「―――影咲ちゃんが居ないっ!?」
「そ、そんな! さっきまで私の後ろに居たんだよ?!」
影咲が紅蓮に忍ばせた闇の魔力を辿って行っていた頃、いつの間にか彼女が居なくなっている事に気がついた蒼華たち一行。
突然姿を消した影咲に対して焦りと不安がそれぞれの胸を埋め尽くす中、そこにとある人物が通りかかった。
「―――おーい。どうかしたんか〜?」
「め、メリドさんっ!? どうしてここに!」
それは、何やらカーテンのような大きな無地の布地を全身に纏っていたメリドだった。
蒼華たち4人は、偶然通りかかったメリドへと今起きている事情を説明した。するとメリドは親指を立てると、こう笑って言ったのだ。
「なるほどね。それじゃあ、みんなは作戦通りあの家を守っておいてね」
「で、ですがそれでは……っ!」
メリドの言葉に反論をしようと噛み付く麗。
だが、メリドは今度は人差し指を立てて言ったのだ。
「2人は私に任せておいて。これでも王の側近を務めてたんだから腕には自信があるんですのよ?」
「でも……」
「でもも何もないんだよ? だって、私が2人を連れて帰って来た時に家が無くなってたり、あったとしても食事とか入浴とかの諸々の準備が整ってなかったら嫌われちゃうよ? 特に少年にはね……」
「「「え……」」」
「まあ、恩返しのつもりだと思ってさ。頼まれてくれよ〜?」
「わ、分かりました。自分が皆を先導しますから、メリドさんは影咲さんと紅蓮の2人をどうかお願いします」
両手を合わせてお願いしてくるメリドさんに、ついに悠が折れて了承の返事を出した。
「ちょ、ちょっと何を勝手に……!」
「―――ありがと! それじゃあ私は行ってくるぞ!」
「あ、ちょ……待って―――って、もう無理か……」
話が纏まるとまるでチーターのように駆けて消えていったメリド。それを見送った蒼華たちは、悠によってしぶしぶながらと家へと帰宅する事になったのだ。
麗だけはまだ納得してないようだったが、蒼華と冥は「嫌われちゃうよ」という言葉だけで納得せざるを得なくなっていたようだ。
「無事で、いてくれよ……?」
帰路についた悠は、空を見上げながら一人呟いた。
家族同然の、親友の……いや、“弟”の心配をしながら。
◆
「―――ガ……ハッ」
眼下には、吐き出された血溜まりが映った。
続けてそれを吐き出したと思われる少年の姿が映った。
その少年には、腹に一本のナイフが刺さっているのが見えた。
ピチャリ、と何か冷たい物が体に触れる。
瞬間、香る鉄の香り。
―――これは、血の香り。
『イヤ……ダ』
“消えかけた意識”は、その時に戻ってきた。
でも、意識が戻ってきただけで“コレ”の制御をする事は出来ないようだ。
いや。そんな事は彼女にはどうでもよかった。
『ナ……ンデ?』
死んだ声で、繰り返し心の中で呟く。
だって、分からないから。
目が覚めたと思ったら、目の前には自分の主が―――
『イヤ……ダァァァァァッ!!』
……死んでいたのだから。
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次回更新は多分明日!




