10.たくさんの感謝を。
優しい少年は、また一人の少女を―――
「何だよ、これ……」
目が覚めると、俺は何者かによって厳重に監禁されてしまっていた。
手足は拘束具によって嵌められており、胴体は鎖でぐるぐる巻きにされている。
完全に身動きが取れない状態になっていた。
言うなれば生きたミイラだ。
「―――だ、誰か助けてくれッ!!! 誰か……誰かっ!」
俺は必死に叫んだ。
幸い口は塞がれておらず、とにかく今は助けを呼ぶことが先決と判断し、叫びまくった。
何度も、何度も叫んだ。
すると。
―――バタン!!
「紅蓮!!」
直後、勢いよく開かれる部屋の扉。
そこから射し込む明るい光。
―――そして、よく聞き慣れた女性の声。
そう、この声は……
「姉……ちゃん?」
「うん……! 私だよ……っ!」
緋神蒼華。
たった一人の家族が、そこには立っていたのだ。
■
「はい、これでもう大丈夫だよ」
「うん、ありがとう。姉ちゃん」
それからすぐ、姉ちゃんは俺を縛り付けていた拘束具を全て外してくれた。
しかし、拘束から解き放たれたというのに、俺の体はどうにも重く、思ったように動かなかった。
「無理しなくても、いいんだよ……紅蓮?」
「―――わっ……わわ! な、何して……!」
「しばらく……こうさせて?」
無理矢理起き上がったせいか、足がおぼつかなく、そのまま俺は倒れこんでしまった。
が、それは姉ちゃんによって受け止められた。
―――瞬間。俺の体には溜まっていた感覚が流れ込んでくる。
姉ちゃんの……大切な家族の温もり。懐かしい匂い。震える体に、鼓動する心臓。……ふかふかのおっぱい―――
(って、俺は実の姉に何を考えているんだ!!!)
「ふふっ、紅蓮なら……いいんだよ……?」
「ちょ、な、何言って……!!」
「えいっ!」
「う、うわぁぁぁ!」
蕩けた顔で、俺の手を引っ張って自分の胸に押し当てる姉ちゃん。何か、様子がおかしい。
いつもなら、「バカ」とか言って厳しく俺怒るというのに、今日は一体どうしたのだろうか。
柔らか―――じゃなくて。
心臓が、すごい鼓動してる。
「すごい……心配したんだよ?」
「え……?」
服の上からでも分かる心臓の鼓動に、俺の手を掴む、姉ちゃんの震える手。
その全てが、今の一言で理解出来た。
(そうか。姉ちゃんは……俺のことを心配して―――)
「ごめんなさい。心配かけて、本当にごめんなさい……」
「謝らないで。こっちこそ……沢山ごめんなさいしないといけないんだから……」
「……そんな。俺のことなんか気にしなくても―――」
俺が、何の考えも無しにそう呟くと。
「―――そんな事、言わないでっ!」
「え……?」
姉ちゃんが、俺を怒鳴ったのだ。
だけど、いつもの厳しい声じゃない。それはまるで……そう、悔しさから出た言葉のような、そんな声。
見ると、姉ちゃんは泣いていた。
―――大粒の涙を、ポロポロと零していた。
「みんな……ほんとに、心配……したんだから……ね?」
「う、うん……ごめん」
「謝らないでっ! 紅蓮は……紅蓮が思ってるより、すごい子なんだから……。だから、自分を卑下しないで。もっと……自信を持ってよ」
「姉ちゃん……」
姉ちゃんの言葉で、俺はハッとする。
俺の悪い癖だ。自分を過小評価し過ぎて、周りに迷惑をかけてしまう。
―――分かってはいるんだ。それが自分自身の悪い癖だって。
でも、癖も、生き方だって、そう簡単に変えられる物じゃない。変えようと思っても、中々変えられない事なんだ。
それは、自分自身に誇れるべきモノが無いから。
(だから俺はいつも……っ!)
「そ、そう言えば他の皆は……? それに、これは一体どういう状況だったの……? 何にも、思い出せなくて……」
俺は、この話を切り替える為にそう姉ちゃんに聞いてみた。
実際、今聞いたように少し記憶が曖昧だったからだ。
影咲を庇って、傷を負って。
死にかけて、走馬灯が見えて―――と、ここまでしか覚えていない。
だから、どうして俺がこんな場所で監禁されてたのか……そして、どうして俺が生きているのか。
その真相が知りたかった。
「あ、ああ……そうだね。―――よし、それじゃあ色々と話すことがあるから。まずはこっちに来て!」
「う、うん」
姉ちゃんは袖で目元をサッと拭ってから、ニコッといつもの笑顔に戻って、そう言って俺の手を引っ張った。
良かった。これでこそ、いつもの元気な姉ちゃんだ。
そう、俺は安心しながら姉ちゃんに連れて行かれるがまま足を進めたのだった。
■
「ぜんぱぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
「ぐれぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!」
案内された先に着くなり、俺は式神兄妹に抱きつかれていた。
じゅるじゅると泣きじゃくる悠兄さんと冥の鼻水と涙は、俺の着ている服について―――
「って、汚いよ二人とも!!」
俺がそうツッコミをいれると、2人はする〜っと離れていった。
でも、そんなに泣きじゃくるなんて……それだけ心配掛けたんだな、と改めて思い知らされた。
(やっぱり、過小評価し過ぎなのかな……俺)
「ひ、緋神……くん」
「後輩。無事に目覚めてくれてよかった!」
すると、今度は影咲と会長さんが俺に手を振ってくれた。
俺はそんな2人の姿にも喜びながら、影咲が無事だった事に安堵していた。
「あっ、あの、その! ひ、緋神くん……さ」
「ど、どうかしたのか? 影咲」
「あ、あのね……後で、私の―――」
「私の」、とそこまで何かを言いかけた時だった。
「ういーす! おー少年! ちゃんと目覚めてくれてお姉さん安心したよー!」
ダァン!と勢いよく開かれた扉から、メイド服の豪快そうなお姉さんが現れたのだ。
「ま、混乱してるだろうから、とりあえずは座って話をしようか。全部話してあげるから、さ」
そう言うなり、俺たちは案内された部屋―――と言ってもただのリビングのような部屋だったが、そこで軽く座って話を聞かされることになった。
■
「て訳よ。理解したかい? 少年」
「は、はい……。なんとか」
メイド服を着たお姉さん―――名前をメリドさんというらしい。
が、あれから何があったのかを話してくれた。
メリドさんは会長さんや、ハンター協会の職員さんから聞いた情報を元に俺に話をしてくれたため、かなり分かりやすく話を聞くことができた。
それで、肝心の何が起きたか……だが。
まあなんやかんやあって俺が死にかけて、それをこのメリドさんが治療してくれたと言う話らしい。
そして、秘密裏に作られて、そして秘密裏に使われているこのタワー型の建物の最上階の所有権を俺たちに与えてくれると言うのだ。
メリドさん本人曰く、“私は結構すごい女なのよ”とのことらしい。
確かに、こんなすごい場所を好きに使えてしまうんだから、相当すごい人なのだろう。それは、信用できた。
「でも、どうしてこの場所を俺たちにくれるんですか?」
俺はそう聞いた。
そう、そうなのだ。別に部屋を与えるならまだしも、それは別にこんな豪華な場所じゃなくていいだろう。
でもわざわざこの場所を俺たちに与えた。
となれば、何か目的があるのだろうと考えるのが自然だ。
「どうして、か。んー、まあ、そうだねぇ……。君たちになら、ちゃんと話してもいいかもね」
「ぜひ、お願いします」
「分かったよ。じゃあ、心して聞いてね」
そう言って、再びメリドさんは語り始めた。
今回は、俺以外の5人も初耳の話らしく、俺同様にちゃんと耳を傾けて聞いていた。
―――話自体はとても簡単な話だった。
理由としては大きく分けて2つ。
1つは、俺―――緋神紅蓮を匿うため。
忌み子扱いされ、ペイン国王に死んだと思われている俺を隠しておくのに、この秘匿性の高いこの部屋――――というかむしろ家が丁度よかったのだとか。
そして2つ目。
それは、国王に対して反感を持った者たちで構成された組織―――“レジスタンス”に勧誘や誘拐されないため。
とにかく、俺たちを守るために最適な場所だったから譲った。
ただ、それだけの話なのだ。
と、そうメリドは言った。
「まあ、もっと詳しく知りたければまだ後日、ね? 今は君たちも再会を喜び合いたいだろうし、ほら……もうこんな時間だし……ね?」
言われて俺たちは気づいた。
窓の外を見れば、辺りはすっかり日が沈み、暗くなっていたのだ。
「じゃあ私は一旦自分の部屋にもどるけど……あとはよろしくやっといてね〜? また明日くるから!」
「あ、はい! 色々とありがとうございました!」
「うんうんいいんだよ気にしないで〜! ―――っと、そうだそうだ。そこの剣の子もちゃんと忘れずに相手してあげるんだよ少年〜! じゃねー!」
そう言い残して、まるで嵐のように去っていたメリドさん。
彼女が家から出ていくと、辺りには一瞬だけ静寂が訪れた。
(剣の子―――って、そうだった!)
たった今メリドさんに言われた事に気がついて、俺は“アイツ”を探した。
すると、そんな俺の様子を見た他の皆は、
「今日は、あの子にずっと付き添ってあげて。緋神くん」
「うん、そうだね。センパイとのお話は、また明日にしてあげますから!」
そう言って、全員とも蜘蛛の子を散らすように部屋へと入っていってしまった。
……最後まで残っていた姉ちゃんは、去り際に俺にこう囁いた。
「……一人で、ずっと治癒魔法をかけてくれてたんだよ、あの子。ずっと、ずっと……ずぅっとね」
その言葉を聞いて、俺は拳を握り締めた。
そして、壁に立て掛けてあった“彼女”を俺は手に取る。
『ぐ、ぐれ―――』
俺はそのまま、家の外へと出た。
何も言わずに、庭へと出た。
冷たい夜風に当たりながら、俺は語りかける。
「ごめんな、桜花」
『―――ぐ……れんっ……!』
「勝手に、お前のこと無視して飛びだして、ホントにごめんな」
『いい……いいのだぐれん……! もう、気にしてないから……っ!』
「でも、俺はお前にも心配掛けてしまったんだ。だから……謝らせてくれ」
『……もう、分かったから……もういいのだ』
「っ……ありが、とう。俺は、お前と出会えて……本当に幸せ者だよ……」
『ああ、ワタシもだ……! ぐれん!』
桜花が俺を必要としてくれている限り、俺は死ねない。
そしてそんな俺には桜花が力をくれる。
これからは、桜花の事を信じて生きていこう。
もう二度と、誰にも心配をかけないように。
そして、自分自身に誇れるモノを作れるように。
『そ、そうだぐれん』
「ん、どうした……?」
『久々に、お前の話を聞かせてくれないか?』
「ああ、いいぞ!」
『と、当然……ワタシを磨きながら、なのだぞ?』
「おう、任せておけ! 久々にぴっかぴかに磨いてやるぞ!」
『おお! 期待してるのだ!』
そうして、俺は家に備えてあるかもしれない布や研磨剤を探すべく、一度家の中へと戻るのだった。
◆
―――紅蓮が桜花を一度置いていった後。
桜花は、今までとは違う色に輝いていた。
それは淡く、儚い桃色の輝き。
―――桜花の、親愛なるマスターへの、僅かに芽生えた恋心の現れ。
『ぐれん……ワタシは……お前の事が―――』
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