表現を喰ったAIに、敗北感を味わった日
先日カクヨムで、AIが書いた小説がランキング一位になったという話をXで聞いた。
私は、AIは結構好きで、じつは小説を書くのにもかなり使っている。
一番助かっているのは、固有名詞。出てくるキャラクターの半分以上がAIで案を出してもらって決めた。『ヴ』を使うなと言ってるのに絶対入れてくるのが困る。
それから壁打ちと、書きあがったのを読ませて、矛盾がないか誤字脱字がないかのチェック。それから褒めてもらってポイントが入らない自分を慰める。
表現を修正してくるのは、あまり採用しない。
AIは分かりやすく読みやすく、統一感を優先している気がする。なので、あえて引っかかるような表現を使うと、直せ直せと言ってくるのがちょっと嫌。
そのカクヨムの方は、話を考えるのもプロットも、文章を書き上げるのも、全部AIだというから、私もちょっとやってみようと思った。
……そんな気持ちで始めたが、結局楽しくなって、AIを使いながら、結構ちゃんと書いた。
なので、このエッセイは、大量生産のプロンプトにチャレンジする話ではない。
『これって、どこからがAI小説なんだろう』と思った、と言う話である。
さて、下準備やプロンプトに凝るのも面倒なので、『なろうでランキングで一位を取れる題名をいくつか出して』みたいな雑なプロンプトで開始した。
出してくれたのがこちら。
=(AIコピペ)=
### 1. 「図書館に眠る異世界迷宮」
### 2. 「君のエコーが、僕の世界を壊した」
### 3. 「転生したら冷凍食品工場のライン長でした」
### 4. 「友達はみんな、幽霊配信者」
### 5. 「魔王を倒して農業始めました」
==
うーん、どうでしょう。これは一位は無理じゃない??
しかし個人的に、めちゃめちゃ気になるのが一つ。
この、『3. 「転生したら冷凍食品工場のライン長でした」』が、私は物凄く気になったのである。
転生してなくね!? この題名、転生してなくないか!? むしろ異世界から転生してくるのか!?
これのあらすじはこんならしい。
=(AIコピペ)=
## ■ あらすじ
ブラック企業で過労死した高橋元は、目を覚ますと異世界の「大精霊冷凍工場」で働いていた。
肩書は“ライン長”。
作るのは、魔王軍向けの「冷凍魔物餃子」だ。
「え、これ……戦争兵器じゃん!?」
異世界の食文化を支える重要部署と聞いていたが、実態は魔王の兵糧基地。
しかも現場は、人間・ゴブリン・スライム・妖精など種族混合のカオス職場。
「品質管理と改善会議? ないよそんなの! 壊れたら魔法で直せ!」
「冷凍ライン止まったら? 怒鳴ってでも回せ!」
ブラック企業よりひどい。
しかし元は、前世で培った「改善スキル」を駆使し始める。
Excelも会議もない異世界で、“魔法式工程表”を導入し、ラインを自動化。
やがて冷凍食品が軍需から離れ、“民間向けの冷凍ピザ”として流行し始める。
だが魔王は激怒する。
「なぜ貴様の餃子を食べると、兵士が戦う気を失うのだ!」
――原因は、「うま過ぎて平和になった」せいだった。
元は、戦争を止めたライン長として“世界一の冷凍食品ブランド”を築き上げる。
最後に彼は笑う。「うちの製品、心まで温めます。」
==
可愛そうに。ブラック企業からブラック企業に転生。。。
そのまま、ちょっと最初のほうを書いてみて、と出してもらったらこうなった。
=(AIコピペ)=
俺の名前は高橋元。
三十八歳、独身、冷凍食品メーカー勤務。
誇れるものは、残業時間と冷凍庫の耐寒スキルくらいだ。
で――気づいたら死んでた。
会社の床に星が飛んで、次に目を開けたら石造りの天井。鼻の奥に、氷と油の匂い。起き上がると、角の生えた背広姿が両手を広げた。
「おめでとう! 本日より貴殿は《大精霊冷凍工場》第七ラインの長に任命された!」
角ビジネスマンは満面の笑みだ。名刺を差し出してくる。
――魔王軍供給管理局・局長代理バロック。肩書きが筋肉でパンパンだ。
「ライン長……って、え、ここどこですか」
「魔界の誇る兵站拠点だ。作るは冷凍魔獣ギョウザ。納期は夜明け。以上!」
以上、じゃない。だが俺の抗議は、轟音にかき消された。
==
え、結構面白いんだけど。と言うのが、率直な感想。
私には絶対思いつかない。異世界に転移して、日本の知識でチートして、スローライフするやつは憧れるのだけど、ぜんっぜん思いつかないので書けないジャンルである。
こういうのもいいのかもしれない、と、これをもとに私なりにリライトしたのがこちら。
==
俺の職場は冷凍庫だ。
今年の夏は暑かった。普段は「大変そうだね」と言われることが多い仕事だが、今年ばかりは羨ましいと言われる。
「うわ、ひどいな」
扉を開けると、冷凍庫の床がいつもより白かった。結露だ。
外が蒸し暑いので気をつけなきゃいけないのに、今日は新人が入っていて、出たり入ったりが多かったらしい。
気をつけつつ、そっと倉庫内に足を入れる。
床が凍っていて、まるでスケートリンクのようだ。と思ったとき──奥の方でビービーと警告音が響いた。
何かあったのかと気を取られた瞬間、足元がツルっと鳴った。
「うわっ──!」
視界がぐるりと回転し、世界が逆さになった。
ごちん、と、頭蓋骨に激しい衝撃を受けた。頭の奥で、何かが弾ける音がした。
霜が舞い上がり、冷気が俺の頬を撫でていく。
……なんだ、きれいだな、なんて考えたのを覚えている。
「……高橋さん? 高橋さーん!」
「救急車! 頭打ってる!」
遠くで誰かの声。それから警告音。ビー、ビー、ビー……。
そのうちそれが、耳鳴りに変わる。
「の、納期……」
それが俺の、最後のつぶやきだったと思う。
……そして、次の瞬間。
「おめでとう! 本日より貴殿は《大精霊冷凍工場》第七ラインの長に任命されました!」
そんなおっさんのだみ声で、俺は目を覚ました。
「はっ」
バッと起き上がると、そこは──
「え、事務所?」
倉庫の事務所の机とソファーをちょっと端に寄せて、無理やり場所を作ったようなスペース。
そのど真ん中に、俺は寝かされていた。
いやいや、こういう時は休憩所に連れていって、簡易ベッドに寝かせろって安全マニュアルに……。
いや、そこまで気が回らなくても、せめてソファーに寝かしてくれないかな!?
コンクリ打ちっぱなしの冷たい床から身を起こすと、なんか周りに変な絵が描いてある。
床に落書きしたらダメだろ……最近の新人はそこから教えなきゃいけないのか?
「おお、起きた!! 救世主よ!!」
「……え」
起き上がると、角の生えた厳つい中年が満面の笑みを浮かべていた。こちらに一枚の紙を差し出している。
アイボリーの厚紙、何やら仰々しい縁取り。そこには毛筆でこう書いてあった。
「じ、辞令……?」
「人手不足でな……“履歴書不要! 経験者求む!!”とやったら、ついに成功した!!」
「は?」
「ライン長が昨日逃げてしまってな……求人も全く応募がないし……そこで召喚の儀を試してみたのだ。やけくそで」
「召喚?」
「君はこの工場の、救世主だ!!!」
おっさんの頭には、立派な角。
よく見れば、周りの落書きは魔法陣のようだ。
ドアの隙間から、羽の生えた小さい妖精(?)がこちらをのぞいている。
なんだこれ、もしかして今はやりの……
「いっ、異世界転生……?」
「ここは世界最大規模の冷凍倉庫である、《大精霊冷凍工場》だ!!」
「……ええええ」
俺はこうして、冷凍庫から冷凍庫へ、転生したのだった。
==
ここまで書けば、『AI小説”ではない”』と、私は思った。……え、これでもだめですかね?
一応、冷凍倉庫での死亡事故原因とか調べたし、突然任命されるくらいだから、工場は経験者採用したいんだろうとか考えて設定作ったんだけど……
じつは結構気に入って、このまま投稿したくなったくらいだ。
しかし、ここからなんですよ。
私は、自分の文章が、web向きではないんだろうなー、と、薄々思っていまして。
これでもかなり、作法にのっとって書いたつもりですけど、「web小説っぽい文章だったら、どうなるんだろ」と、思ったのです。
そして。……なろうと言えばあの、有名なスライム風な文章でリライトしてみてって。
出来心で。やってみたんです。それがこちら……
=(AIコピペ)※改行だけ、自分で編集した=
俺の職場は冷凍庫だ。
……うん、文字通りの意味で。
世間では「冷凍倉庫業」とか言うらしい。
まあ、食品工場の下請けみたいなもんだ。
普段は「大変そうだね」と言われる仕事なんだが、今年の夏ばかりはちょっと違った。
「いいなぁ、涼しくて」
そんな声を聞くたびに、俺は笑ってごまかした。
中に入れば確かに涼しい。……というか寒い。
でも、汗が凍るほど寒い場所で働くのを羨ましがる人間は、だいたい中を見たことがない。
そんな日常の、ほんのワンシーン。
――あの日も、いつも通りだったんだ。
---
「うわ、ひどいな」
扉を開けると、冷凍庫の床がいつもより白かった。
結露だ。嫌なパターンである。
外が蒸し暑いと、出入りのたびに空気が入れ替わる。
そして湿気が冷気に触れて、霜となり、氷膜を作る。
つまり、よく滑る。……非常によく滑る。
「気をつけないとな」と思いつつ、倉庫に足を踏み入れた。
ああ、これは完全にスケートリンクだな、とか考えてたその時だ。
奥の方で、ビービーと警告音が鳴った。
何かトラブルか? と思って気を取られた瞬間――
ツルッ。
「うわっ──!」
体が軽くなった。
いや、違う。足が浮いたんだ。
視界がぐるりと回って、世界が逆さまになる。
背中にドンと衝撃。頭の奥で、何かが弾けたような音がした。
目の端に、青い冷気がゆらめく。
霜が舞い上がり、俺の頬を撫でていく。
……きれいだな、なんて場違いな感想が浮かんだ。
---
「……高橋さん? 高橋さーん!」
「救急車! 頭打ってる!」
遠くで誰かが叫んでいる。
ああ、やばいな。これは、完全にやらかしたやつだ。
でも、体はもう動かない。
警告音が耳鳴りに変わり、頭の奥が遠のいていく。
「の、納期……」
それが、俺の最後の言葉だったと思う。
---
……そして、次の瞬間。
「おめでとうございます! 本日より貴殿は《大精霊冷凍工場》第七ラインの長に任命されました!」
……ん?
今、なんて言った?
なんか、やけにテンション高いおっさんの声が聞こえた気がする。
「はっ」
反射的に起き上がった。
周囲を見渡す。そこは、どう見ても見慣れた“事務所”だった。
机、ソファー、資料の山。
ただ――妙に狭い。無理やりスペースを作った感じだ。
その真ん中に俺は寝かされていた。
あれ、これって……事故った後の応急処置?
普通こういう時は休憩室に連れていくんじゃ……いや、それよりも床、冷たっ。
身を起こすと、床に変な模様が描いてあるのに気づいた。
いや、落書きか? それとも清掃中?
最近の新人、ルール知らないのか……?
「おお、起きた!! 救世主よ!!」
「……は?」
顔を上げると、角の生えた厳つい中年男が満面の笑みを浮かべていた。
あ、これ夢だな。夢か幻覚。たぶん。
「人手不足でな……“経験者求む!!”と求人を出したら、ついに成功した!!」
「え?」
「ライン長が昨日逃げてしまってな……求人も全く来ないし……やけくそで召喚の儀を試してみたのだ!」
「召喚の……儀?」
「そう! 君はこの工場の、救世主だ!!」
おっさんの頭には、立派な角。
よく見れば、床の模様は魔法陣。
ドアの隙間から、羽の生えた小さな妖精がこちらをのぞいている。
なんだこれ、テンプレにもほどがあるだろ。
「いっ、異世界転生……?」
「ここは世界最大規模の冷凍倉庫、《大精霊冷凍工場》である!!」
「……ええええ」
ああ、やっぱり夢だ。
だって、俺は――冷凍庫で死んだんだから。
つまり、こういうことだ。
> 俺は、冷凍庫から冷凍庫へ転生した。
>
……笑えねぇ。
==
これが出てきたとき、私、負けたわ、と思いました。
しかしまず主張したいのは、この文章、『スライムの足元にも及ばない』。
本家は全く超えられない。でも、確実に、『喰ってる』よな、とは思った。
そして……この話は、残念ながら。……私が書いたものより、この文章のほうが良いのではないだろうか。と、思ったのだ。
ちなみにこの後、「剣聖のおっさん風」も出力してみたが、この話については、スライム風が一番良かった。。。
私の文章をもとに既存の作品風にリライトしたこのバージョンは、私の作品ではない気がする。しかしこれは、『AI小説』だろうか。内容はほぼ変わっていないのに。
そうは思っても、もし投稿するとしたら、やっぱり自分で書いた方を投稿する。
しかし、ポイントやアクセス数が欲しいなら、この劣化スライム風のほうが、良い気がするのだ。
こっちの方がするする読めるもん。
両方投稿して確かめてみたいけど、まったく同じ話を同時に投稿するのも変だし、場所が違えば反応も違うし、話が違えば反応も違うと思うから、ここに思いのたけをつづってみた。
AIは便利だ。小説を大量生産できるほどは私はAIに詳しくないが、AIがなければ、私は小説を書けないと思うほどは使っている。
どこからがAI小説なんだろう。最初のアイディア出しの時点で、AIだからAI小説?
ポン出ししたのを第一稿として、それに設定を足して書き上げているので、どう書き直してもAI小説だろうか。少しでも書き直したら、修正したら、それはAIにアシストしてもらったでいいのだろうか。
時間としては、文章を書いている時間は同じだから、いつも書くのと変わらなかった。
まあ、高橋の話は私には絶対思いつかないから、考える時間の削減と言う意味では驚異的だったけど。
……ちなみに『コレ』は、パクりになるんだろうか。パクリと言うにもおこがましいほどの劣化だが。そのまま出力したよりはるかにAIくささは薄まっていると思う。
それは、仕上げに、『人間の表現を喰った』AIを使っただけだ。
私自身は、それでも自分で書いた方を投稿する。
評価は欲しい。リワードだって欲しいけど、数字を上げるために何かをつくるのは、私にとってそれは仕事で、趣味ではない。
でも、イラスト界隈を見れば、人気絵師の劣化コピーは山ほどあるわけで……リワードも始まったし……
こういうの、増えるだろうなーと、思ったのでした。
……そして、高橋の冷凍庫転生の話はちょっと気に入ったので、ネタ帳にそっと入れたのだった。
読んでいただいてありがとうございました!
初のエッセイ投稿でした。




