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陰キャな私のヒロインみたいな逆ハー生活  作者: 完菜


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025 美容院

「紬、久しぶり」


 成瀬さんは、奏さんのお姉さんを見ると親しげに話しかける。清香は、二人は知り合いなのだろうか? と首を傾げる。


「ああ、やっぱり清香ちゃんだった。可愛いじゃん」


 成瀬さんは、清香を見ると嬉しそうに笑顔を零し褒めてくれた。直球の「可愛い」という言葉に、清香は恥ずかしくて頬を染める。


「……ありがとうございます。成瀬さんは、どうしてここに?」


 清香は、突然の成瀬さんの出現に疑問をぶつける。


「紬がさ、初めて奏くんが、女の子連れてくるって舞い上がったメッセージ送ってくるからさ。もしかしたら、清香ちゃんかなと思って」


 成瀬さんは、にこにこ顔だ。


「だって、誰かに言いたかったんだもの。成瀬は、安定のスルーなのかと思ったのに。まさか、来ちゃうなんてねー」


 成瀬さんのお姉さんは、意味深な言葉を投げる。さっきから、成瀬さんが奏さんのお姉さんを「紬」と呼んでいるから、お二人は親しい間柄なのだろうと察する。


「お二人は、お知り合いなんですか?」


 清香は、気になってしまい我慢できずに聞いてしまう。


「そっか、清香ちゃんは知らないか。私と成瀬といちって、大学の時の同級生で友人なのよ」


 お姉さんに言われて、二人の意外な関係性に驚く。この二人といちさんが、友人だと聞いてなんだか不思議な気分だ。でも、だから奏さんと成瀬さんがアレースに住んでいるのかと納得する。以前、いちさんが電話で、知らない人が隣なのが嫌だと言っていたからだ。


「そうなんですか。びっくりです」


 清香は、ただただ驚くばかり。


「で、成瀬は何しに来たのよ?」

「ん? 今日は、家に帰れそうだったから寄って見た。でも、清香ちゃん見ちゃったら、ちょっと行きたいところできた。このまま清香ちゃん借りてもいい?」


 成瀬さんが、突然爆弾発言をする。清香は、え? っと成瀬さんの顔を見てしまう。


「いいよ。じゃあ、先に帰る。姉ちゃん、一番最初の服も包んで」


 奏さんは、何事もなかったかのように帰ろうとしている。


「ふーん。まっ、いいわ。そうね、ワンピースも可愛かったものね」


 お姉さんも、特に何かを訊ねることもなく平然としている。しかも、さっき清香が着たワンピースを紙袋に入れてくれている。意味がわからなくて、動揺しているのは清香だけだ。


「えっ、あの……」


 清香は、どこから突っ込むべきか分からずあたふたしている。


「じゃー、行こう。清香ちゃん」

「え?」


 成瀬さんは、清香の手を取っておもむろにお姉さんのお店を出て行こうとする。清香は、びっくりするもとにかくお礼をと後ろを振り返る。


「あっ、あの。奏さん、お姉さん、ありがとうございました」


 清香は、そう言うのがやっとで、そのまま成瀬さんに連行された。


「はーい。また、いつでも来てねー」


 お姉さんは、面白そうに笑いながら手を振って清香を見送ってくれた。


「成瀬さん、どこに行くんですか?」


 清香は、どんどん歩いて行く成瀬さんに向かって訊ねる。


「んー。いいところ」


 成瀬さんは、にこっと笑って教えてくれない。こんなに強引なところがあるだなんて、ちょっと意外だ。

 でもよく考えると、奏さんのお姉さんやいちさんと友達なのだと思えば、類は友を呼ぶということわざが頭に浮かぶ。清香は、諦めて大人しく成瀬さんの後を付いていく。


 ふと、繋がれている手に意識が向き何とも言えない感情をなだれ込む。つい最近、涼太と手を繋いだばかりだけれど……。繋ぎ慣れていた幼馴染とは違う、大人の男性の手に照れくささを感じる。

 成瀬さんは、いちさんの関係者の中では、一番落ち着いていて穏やかで優しいから気を付けないといけない。憧れていた、優しいお兄ちゃん像そのもので気を抜いたら甘えてしまいそう。

 奏さんのお姉さんのお店から、5分くらい歩いただろうか? 成瀬さんが足を止めた場所は、お洒落な佇まいの美容院だった。躊躇することなく、成瀬さんはお店の中に入る。


「いらっしゃいませー。っと、成瀬さん」


 お店の店員さんが、嬉しそうに成瀬さんの名を呼ぶ。


「予約してなくて悪いんだけど、今から二人いい?」

「ちょっと、お待たせしちゃいますけど、大丈夫ですよ」

「良かった」


 成瀬さんが、胸を撫でおろしたようでホッとした表情だ。店員さんは、待合室に案内すると「しばらくお待ちください」と言って戻って行った。

 成瀬さんは、部屋にあった白い大きなソファーに座って、自分の横をトントンと叩く。清香に、座ってと促している。


「成瀬さん、どうして美容室なんですか?」


 清香は、ちょっと成瀬さんとの間を開けてソファーに座る。


「だって、顔も服も可愛くなっているのに、髪が残念だったから。俺も、そろそろ切りたいって思っていたから丁度いいと思ってさ」


 成瀬さんは、隣に座る清香を見ながらいつものように笑顔だ。成瀬さんに言われて、自分の長い髪を触りながら確かにそうだなと思う。

 困っていた、お化粧と服装の問題が解決して、残るは髪型だけになっている。成瀬さんの手がスッと清香の頬に伸びてきて、そのままじっと顔を見られる。


「メイク、頑張ったんだ。可愛くできてるよ」


 成瀬さんに至近距離で見つめられて、また可愛いと言われてしまい、清香の顔は真っ赤に染まる。


「もう、成瀬さん、恥ずかしいです」

「えー。なんでよ? 本当のことじゃん」


 清香は、熱くなった顔の熱を逃がしたくて自分の手で仰ぐ。


「お化粧は、星志君がやってくれたんです。星志君って、すごくないですか? お化粧でこんなに変わるって思いませんでした」

「ふーん。星志がねー。そんな特技があったんだ」

「そうなんです。すごく丁寧に教えてくれて。私も上手にできるように頑張りたいです」


 清香は、嬉しそうに成瀬さんに星志君のことを話す。でも、考えてみたら今日は一日ずっと、アレースのみんなのお世話になっている。


「成瀬さん、美容室連れて来てくれてありがとうございました。私、髪は切りに行きたいって思っていたけど、どこに行けばいいかわからなかったし……。どんな髪型にすればいいか、悩んでいたので助かりました」

「なるほど。それはグットタイミングだった。じゃあ、髪型は俺の好みにしちゃおー」

「へっ?」


 成瀬さんは、清香の髪を一房とって楽しそうにもてあそんでいる。清香は、今の成瀬さんの刺激的な言葉に驚きフリーズする。そんな清香を見ながら、成瀬さんは楽しそうにしていた。


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