第三章その13
「ナユタ……起きて……早く……」
「ううん……アリス……?」
ナユタが身体を揺すられて目を覚ますと、横からランプの薄暗い灯りに照らされるアリスの白い顔が目の前にあった。
「アリス……どうしたの? 何かあったの?」
「ルイーザが兵を連れてここに向かっている。早く逃げないと」
「え?」
アリスの緊迫した声に、ナユタの眠気はあっという間に吹き飛ぶ。
「荷物はもうまとめてある。急いで」
「う、うん……でも待って。本当なの? ルイーザ様が兵を連れてくるって……?」
最後に会った時の感触では、もう少し様子を見てくれる感じだった。
これでは騙し討ちのような物ではないか。
「ナユタには解らなくても、私にははっきりと解る」
アリスの能力の事を、ナユタは良く解っている。
デタラメという事はないだろう。
しかし……。
「私、ルイーザ様と話してみる。最後にマー君と会って別れを告げたら城を出るから、それまで待ってくれって……」
「ナユタ……!」
いつになく厳しいアリスの声が、ナユタの鼓膜に突き刺さる。
「よく考えて……! もしルイーザがナユタに手を出したら、一番傷付くのが誰なのか……!」
「………」
言われるまでもない。
マティアスだ。
姉と自分の間で板挟みになるマティアスが傷付くのは目に見えている。
「お願いだから聞き分けて……! もう一刻の猶予もないの……!」
「う、うん……解った……」
ナユタは荷物を背負うと、扉の方に足を進める。
「さあ急ぎましょう。僕の後に付いてきて下さい」
扉の側に立つルイスが言う。
その後に続いて、ナユタとアリスも部屋を出た。




