第三章その8
庭園を仲良く歩くマティアスとナユタを、ルイーザは見ていた。
監視していた訳ではない。
庭園を臨む廊下を歩いていて、たまたま二人の姿を見付けて足を止めたのだ。
声までは届かない。
しかしマティアスの笑顔が弾ける度に、嬉しそうな声までもがありありと想像できてしまい、ルイーザの胸を締め付ける。
「まあ、ルイーザ様。本日も麗しく」
そう声をかけてきたのは、普段からルイーザが親しくしている、ある貴族の娘だった。
「窓の外をご覧になっていたようですが……まあ、陛下とナユタ様ではございませんか」
そう言って娘は笑顔を綻ばせる。
「旅から戻って以来、陛下は明るく元気になられたと皆も噂しております。本当にお似合いの二人ですものね」
「………」
「それでは失礼します」
娘は可憐に会釈して去って行く。
ルイーザは深く溜息をつく。
苦々しく認めざるを得ない。
二人がお似合いだという事実を。
いや、最初から解っていた。
昔は自分の後を、姉上、姉上と付いて回っていたマティアスが、今はナユタの後ろを付いて回っているという事を。
先日はお茶を濁したが、いずれナユタも自分の立場に気付くだろう。
「やはり……放置しておく訳にはいきませんか」
ルイーザはその胸に、皇帝の権威を傷付けようとする者への怒りと、弟を奪おうとする女への嫉妬が入り混じった感情を燃やした。




