第三章その7
ある日、ナユタはマティアスに誘われ、庭園を歩いていた。
「ナユタ、我が帝国が誇る庭園は凄いだろ!」
「うん……本当に凄い……」
幾何学模様に整備された庭園は、色とりどりの花で満たされていた。
庭木は一分の隙もなく丁寧に刈り込まれ、庭師の仕事への情熱を感じさせる。
マティアスに手を引かれ、ナユタは天国を訪れたような夢心地で歩いていた。
「ナユタ、これをやろう」
マティアスは白い可憐な花を一輪、手折ると、手を伸ばしてナユタの髪に挿す。
「うむ、ナユタによく似合ってる! 余の見立てに間違いはないな!」
「ダメよ、マー君。こんな事しちゃ」
「え? どうしてだ? この庭園は余の物だ。余が何をしようと誰も咎めたりしないのだぞ?」
「そうだとしても、この花は庭師の人が丹精込めて育てた物でしょう? 一カ所だけ花が欠けていたら悲しむし、他の人がこの庭園を歩いて花を楽しむ事だってあるでしょう?」
「そうか……? そういう物か……? いや、ナユタが言う事はいつも正しいのだから、それが正しいのだろう」
天真爛漫にはしゃいでいたマティアスは、一転してしょんぼりとうな垂れる。
「すまぬ。余が浅慮であった。許してくれるか?」
「ううん、いいの。でも、ありがとう。マー君からの贈り物、本当に嬉しいわ」
「そうか! ナユタは優しいのだな! ナユタが嬉しいと、余も嬉しいぞ!」
再び明るい笑顔を取り戻すマティアス。
「本当に良かった。最近のナユタは何やら塞ぎ込んでいるようだったからな。少しでもナユタの力になれたら、これ以上の喜びはないぞ」
「………」
「これからもずっと、こうしてナユタと一緒にいられたらいいな」
「うん、本当に……私もそう思うわ」
「そうか! ナユタも同じ気持ちか!」
無邪気に喜ぶマティアスに、ナユタは曖昧に笑ってみせる事しか出来なかった。




