第三章その6
ナユタは首を傾げながら、自分に与えられた部屋に戻ってきた。
部屋ではアリスとルイスが待っていた。
「ナユタさん、首を捻ってどうしたんですか? 昼寝して寝違えたんですか?」
「寝てないわよ!」
ナユタは全力で否定した後、アリスに向き直る。
「ああ、そうだ。ねえアリス。さっきルイーザ様と話をしていたんだけど……」
説明しようとするナユタを、アリスは手を上げて制する。
「どんな会話を交わしたかは把握している。要件だけを話してくれればいい」
「あわ? そう……? じゃあ私がやたらと養女にならないかと誘われたのはどうして?」
「それは、ナユタが将来のお妃候補だと目されているからだと推測される」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はい?」
アリスの簡潔な答えに、ナユタはたっぷり間を取ってから尋ね返す。
「ええと、何? 私が? お妃候補? どういう事?」
「つまり、皇帝陛下になったマティアスが、ナユタをお妃様に迎えるのではないか、そう思われている、という事」
「え? 私がお妃様? 冗談でしょ? 私なんてただの田舎娘じゃない」
「だから養女に、という話になる。お妃様になるには良家の娘である事が求められるが、そうした家に養女として迎えられれば形としては整う事になるし、迎えた方も皇帝の姻戚として結びつきを得られるというメリットがある」
「あ、そうか……でも私はマー君より四歳も年上で……」
「四歳なんて大した差ではない。年頃の娘を連れてきて、足繁く通っているとあっては、関係を疑わない方がどうかしてる」
「あう……」
指摘されるまで思いもしなかったが、言われてみると確かにその通りだ。
「お妃様なんて柄じゃないし、絶対に無理だし! マー君だって嫌いじゃないけど、恋愛とか結婚の相手じゃなくて、手のかかる弟だし……!」
「それは誰よりも私がよく知っている」
アリスが答える。
「しかし他の人の目にどう映るかは全く別の話」
「う、うん。それは解る。解るけど……でもルイーザ様はどうしてそう教えてくれなかったのかしら? はっきり言ってくれればいいのに!」
「そんな事は解りきっている。ナユタに気付いて欲しくなかったから」
アリスは答える。
「ナユタが望むなら、皇帝マティアスと結婚して皇后になる事も夢ではない、そういう立場にいる事に」
「………」
知らぬ間に大きくなっていた話に、ナユタはただ呆然と聞き入るしかなかった。




