第三章その3
一行を乗せた馬車は、そのまま帝都中心部にある王城に入っていく。
馬車が脇に立つ女性の側で止まると、マティアスが飛び降り、抱き付いていく。
「姉上!」
「マティアス。無事でしたか」
笑顔を弾かせるマティアスを、女性は柔らかく受け止める。
マティアスが「姉上」と呼んだ事から、その姉のルイーザである事が、遅れて馬車から降りたナユタにもすぐに解った。
姉弟だけあって、ルイーザはマティアスと良く似た金髪と青い瞳の、天からの使いのように美しい女性だった。
違う所と言えば、マティアスよりずっと背が高いすらりとした立ち姿と、腰まで伸びた髪の長さくらいだろうか。
「マー君、本当に嬉しそう……良かった……」
姉弟の感動の再会に、ナユタは思わず涙ぐむ。
これまでの苦労が報われたのだから、感動もひとしおだ。
二人の再会を邪魔しないように、少し離れて見守っていると。
「あなたがナユタさんですか?」
「え? ……は、はい」
鈴を鳴らすような軽やかな声で名前を呼ばれて、ナユタは我に返る。
「あなたの事はマティアスから聞いています。この度は弟を助けていただき、本当にありがとうございます」
柔らかい微笑みを浮かべて、ルイーザは両手でナユタの手を取ってそっと包み込む。
ここまでの帰路、マティアスがロザラムの部下に手紙を持たせていた事を思い出す。
「い、いえ! 私なんて大した事は……!」
手紙にどんな事を書かれたのやら、少し恐い気持ちになる。
今になって思い返すと、ワガママで甘えん坊な弟みたいな男の子と遊んでいたような覚えしかない。
「あなた方は弟とこの国の恩人です。旅の疲れを癒やすためにも、ここでゆっくりしていって下さい」
「は、はい。それではお言葉に甘えて……」
ナユタは緊張しながらも何とか受け答えする。
厳しい人だと聞いていたから不安はあったが、どうやら厳しいだけではなさそうだ。
マティアスのお姉さんだから仲良くしたいし、していけるとナユタは思った。
ルイーザは宰相ミュランに向き直る。
「ミュラン。マティアスは大過なく儀式を終えました。戴冠式の準備を」
「はっ。仰せのままに」
「一刻も早く、ですよ?」
「はい。直ちに手配します」
ミュランは小さくなって頭を下げる。
戴冠式!
それが無事に行なわれれば、マティアスは皇帝になる!
ちらりとマティアスの方を見ると、改めて重責を思い出したのか、表情を硬くしていた。




