第三章その2
「皇太子殿下、万歳!」
「ラルダーン帝国、万歳!」
一行を乗せた馬車が進む沿道は、帝都に帰還した皇太子殿下の姿を一目見ようと集まった人達が詰め掛け、熱い歓声を上げていた。
「はあ……凄い数の人……」
ナユタは馬車の窓から外を見て、ため息をついた。
田舎娘のナユタは、こんなにたくさんの人が一度に集まった所を見た事がなかった。
ダルトンが治める街でさえその賑わいに驚いて目を輝かせた物だが、帝都はその規模が違う。
「ナユタさん……田舎から出来たお上りさんみたいですよ。恥ずかしい」
「いいじゃない。田舎者なんだから」
ルイスの心ない苦言に、ナユタは口を尖らせて反論する。
饒舌で遠慮のないルイスは、やはり人間ではない作り物にはとても見えない。
物静かで浮世離れしたアリスの方が、よっぽど作り物に見える。
「……何?」
「いや、何でもないわ」
そんなつもりはなかったが、どうやらアリスの横顔をじっと見詰めていたらしい。
「それにしても……マー君が別の馬車っていうのは少し寂しいわね」
ナユタはしみじみと呟く。
マティアスは王族専用の馬車で先頭を行き、次の馬車にナユタ達が乗り込んでいる。
ここからではその姿は見えないが、きっと民衆の熱狂的な歓声に応えて、手を振ったりしているのだろう。
「なんかもう、違う世界の人になったみたいね」
身分や生まれた場所の違いを忘れ、一緒に旅をしていた。
それが別々の馬車に乗り込んだ途端に、遠い世界に引き離されたように思える。
「皇太子殿下ですからね。仕方ありませんよ」
「うん……それは解っているんだけどね」
「城に着けばまた会う機会がありますよ」
「そうね。それまでは我慢しないと」
ナユタは苦笑する。。
「ルイスもたまには優しい事を言うのね」
「いけませんか?」
「悪くはないけど。珍しいからびっくりしただけ」
「ひどいなあ」
ルイスが苦笑する。
一方、アリスは頬杖をついて窓の外を見ていた。
やっぱり人間らしく見えるのはルイスの方だった。




