第二章その11
それからさらに一週間ばかり旅を続けた一行は、ついに霊峰ヴィートコフ山の麓にある神殿に辿り着いた。
一般の参拝客も訪れるそこは、皇帝への即位を控えた者が山頂を目指す前に立ち寄り、一夜を明かして早朝に出発するのがいつものパターンである。
「これはこれは皇太子殿下。長い旅路を乗り越えてよくぞここまで辿り着かれましたな」
神殿を司る神官長、相好を崩してマティアスを迎え入れた。
「私の代で皇帝へ即位される殿下をお迎えする事になるとは、身に余る光栄にございます」
「う、うむ。よろしく頼むぞ。神官長」
若干の緊張を滲ませながら、マティアスが応じる。
「殿下が幼少のみぎり、一度だけ御尊顔を拝謁する栄誉を賜ったのですよ」
「ははは。そうであったか……すまぬ。覚えておらぬ」
「いえいえ。幼少であらせられましたから、無理もありません。御立派に成長されたお姿に感激の思いでいっぱいです」
「ははは……」
神官長のやたら暑苦しい歓待に、マティアスは苦笑いを浮かべる。
と、神官長がふいに声を潜める。
「ところでお供はこちらの女性お二人だけですか? 私はてっきり、数十人規模の騎士隊と共にいらっしゃる物と思っていたのですが……いえ、疑っているわけではありませんよ?」
などと非難の色合いが強くならないように言われる。
十四歳の皇太子殿下が連れてきたのが、十八歳と十七歳(見た目)の少女であれば、疑うのも無理はない。
幼い頃のマティアスの顔を見た事がある、というのが唯一の救いだ。
「道中でトラブルがあってな。はぐれてしまったのだ」
「おお、そうでしたか」
「この二人は古くから余に仕えてくれている、信頼の置ける者達だ。手厚く遇してやってくれ」
「それはもちろんですとも!」
神官長が勢い込んで言ってくれたので、ナユタはそっと胸を撫で下ろした。




