第二章その2
洞窟を出て、さらに半日ほど歩いた時だった。
「見えました」
先頭を行くルイスが声を上げた。
「あれが目的の街です」
「どれどれ……うわっ、大きな街!」
ナユタは思わず声を上げる。
小さな村に生まれ育ち、そこからほとんど出た事のない彼女の目に、遠くに見るその街の大きさは新鮮に映った。
「がんばって歩けば、陽が落ちる前に着くと思いますよ」
「うん、ちょっと楽しみになってきたな」
と口では言いつつ、にやにやを隠せないナユタ。
「……でもその前にお昼にしていいかな? もうお腹ぺこぺこ」
「ええ、構いませんよ」
「やった~♪」
ナユタは荷物を降ろし、手近にあった倒木に腰を下ろす。
アリスとルイスもそれぞれ場所を見付けて腰を下ろす。
「え? あれ?」
「どうしたんですか?」
「食料が……ない……朝に見た時には間違いなくあったはずなのに……」
空に近い荷物を覗き込んで、泣き出しそうな顔になるナユタ。
ルイスは首を傾げる。
「もしかして洞窟に忘れてきたんですか?」
「ううっ、余分もあったから、結構たくさん残ってたのに……」
「まあ一食くらい抜いても死にませんよ。ひと休みしたらがんばって歩きましょう」
「他人事だと思って!」
頬を膨らませて怒ったところで食料が湧いて出るわけはないし、ルイスとアリスから分けてもらおうにも、そもそもこの二人は何も食べていない。
「はあ……」
「………」
落ち込むナユタの顔を、アリスがぐっと顔を寄せてきて覗き込む。
「な、何?」
「耳飾り……」
「え?」
指摘されて手で探ると、耳飾りが片方なくなっている。
「え? どこで落としたの? 大切な母さんの形見なのに……」
慌てて辺りを探すが、見付からない。
「昨日の夜は間違いなくあったんだけどな……洞窟かな? それとも途中で……?」
「探しに戻る……?」
アリスが自分の責任でもないのに本当に申し訳なさそうな顔をするから、ナユタも我が儘は言えなくなる。
「うん……いいや、戻っても見付かるとか限らないし、諦めるしかないか……はあ……」
「………」
アリスが落ち込んだ様子を見せるので、ナユタまで申し訳ない気持ちになる。
「でもまあ、幸い、片方は残ってますし」
「そういう問題じゃない!」
ルイスのデリカシーに欠けた発言に、ナユタは思わず声を荒げるが、余計にお腹が減るだけなので、力なくうな垂れる。
「はあ……」
ため息は青空に吸い込まれて消えていった。




