第一章その2
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど」
「何ですか?」
「いつになったら……えっと何だっけ? ラルダーン帝国? だっけ? そこに着くの」
ナユタが尋ねると、ルイスは不思議そうに目を丸くする。
「何を言っているんですか。国境ならずっと前に越えましたよ?」
「え?」
ナユタは首を傾げて、ここ最近の道程を思い返す。
「それっぽいのあったっけ?」
「ありませんよ」
即答された。
「国境だからってどこもかしこも絶対に関所があるわけではありませんから」
「ふ~ん、そういう物なんだ……ラルダーン帝国って大きい国なんだよね?」
「ええ、ダルトン氏の治めていた街とは比べ物にならないくらいに」
「じゃあ、あそこに見えるのは?」
ナユタが指差す先に、家が何軒か集まって建っているのが見える。
「いや、結構遠いのによく見えましたねえ」
「えへん、私、目はいいのよ……じゃなくて、あれは何? どう見てもダルトンさんの街どころか私の故郷の村くらいの大きさなんだけど? 道でも間違えた?」
「あれはラルダーン帝国の端くらいにある小さな村ですよ。大きな帝都はもっと遠くです」
「へー」
「まさかあれが帝都だと思った訳じゃないですよね?」
「お、思うわけないでしょ!」
ナユタは力強く否定する。
「………」
「なんで黙ってるのよ! そんな事思ってないわよ! ちょっとしか!」
「ちょっとは思っていたんですね……ああ、あの村に寄って行きますから」
「だから思っていないんだから!」
ナユタの抗議の声は虚しく青空の下に響いた。




