第四章その3
戦争が始まって数日後、お使いを頼まれて市場を歩いていたナユタは、ある一団を目撃した。
人数は百人程度だろうか。
甲冑に身を包み、剣や槍で武装した、騎士や兵士の集団。
しかしかつては勇壮で頼もしい軍団であったはずの彼らは、今や血と泥に汚れ、身体のどこかに包帯を巻いていない者は誰一人としていない。
一人では歩けないのか、仲間の肩を借りてやっと歩いている者もいるし、荷車に乗せられている者もいる。
自力で歩いている者も馬上にある者も、一様に暗い表情を地面に向けている。
自分達の街を守るために戦った英雄達の勝利凱旋、という雰囲気はとてもない。
はっきり言ってしまえば、一目でそれと解る敗残者の一団だった。
惨めな行軍を遠目に見遣る人達がざわざわと噂話をしている。
グロモフの軍を迎え撃った、ダルトンの軍が敗北したらしい……。
それもこれ以上にない程の惨敗だったとか……。
今まで何度も敵軍を撃退してきたのに……。
もうすぐここまで攻めてくるかも知れない……。
この街はどうなるのだろう……。
思わず耳を塞ぎたくなる悲観的な言葉に乗って、絶望的な空気が伝播していく。
「アリスとルイスがいる……きっと……」
ナユタは確信する。
その事実を自分だけが知っている。
ダルトンに伝えないと……! 伝えないと、この街は大変な事になる……!




