第三章その12
ナユタがダルトンの所に世話になるようになって、一週間が過ぎた。
城のみんなとも仲良くなり、すっかりメイドとしての暮らしが板に付いてきた。
その頃にはアリスとルイスという謎めいた二人の事も、二人に連れられてダルトンと出会った事も、忘れたわけではないが、記憶に上る事はすっかりなくなっていた。
そんなある日、ナユタはふと、城内が騒がしい事に気付いた。
鎧を身に付けた人がいつもより多いし、張り詰めた表情で何やら情報を伝達し合い、指示を飛ばし、時には叱責の言葉も交えながら足早に歩いて行く。
物々しい雰囲気と擦れ違いながら厨房に辿り着くと、ドロシーが迎えてくれた。
「ああ、ナユタさん」
「あの、ドロシーさん、何かあったんですか? 何だか物々しい雰囲気なんですけど……」
「戦争です」
ドロシーは短く答える。
「隣の街の領主グロモフが攻め込んできました。戦争が始まります」
「え……?」
ナユタの脳裏に浮かんだのは、あの夜、ルイスが去り際に言った言葉だった。
グロモフという男が治める隣の町に滞在すると、確かにそう言ったはずだった。
「この街はダルトン様が必ず守って下さいます。私達は何も動揺する必要はありません。
いつも通りに仕事をしましょう」
冷静なドロシーの言葉を、ナユタは上の空で聞いていた。




