閑話その7
旧約聖書に曰く。
アダムとイブは蛇に唆されて禁断の果実である知恵の樹の実を食べ、地上の楽園であるエデンの園を追放されたという。
どうしてだろう? どうしてだろう?
楽園を追放されたアダムとイブの子孫であるはずの人類は、自らの手で文明という地上の楽園を築き上げた後、またしても禁断の果実に手を伸ばし、楽園を失うのだろう?
何度やり直しても、何度やり直しても、それが決して避けられない運命だというように、辿り着く帰結はいつも同じ人類滅亡だった。
救われないのか? 人類は救われないのか?
それこそが原罪だというのか?
どれだけ不幸をなくし、幸福を追求しても、決して満たされる事はない、その欲望こそが原罪だとでもいうのか?
しかし諦めない。
決して諦めるわけにはいかない。
人類の滅亡を回避し、人類を永続させる事ができるのだとしたら、それを実現できるのは彼女以外にあり得ない。
それこそがかつて高性能AI、TYPEーALICEを開発し、人類を滅亡に追いやった彼女にできる、唯一の贖罪だった。
「また失敗ですか」
赤い髪と瞳の若い男が酷薄な笑みを浮かべて言う。
「やれやれ。今回は今までで一番長く保ちましたが、やはり自ら生み出した文明に滅ぼされる愚かしさはいつも同じ……」
「黙って」
「………」
少女の命令に、若い男は愚直に従う。
「それより次の時間遡行の準備を」
「それでいいのです。諦めない。それだけがあなたに許された唯一の道です」
「………」
私は失敗した事がない。ただ一万通りのうまく行かない方法を見付つけただけだ。
かつて発明王と呼ばれた、トーマス・エジソンという男の残した言葉だ。
ならば自分はあと何万回のうまく行かない方法を試せば、あと何万回、人類の滅亡を目の当たりにすれば、人類が滅亡しない道を見出す事ができるのだろう?
自分が背負う原罪その物といっても過言ではない、命なき道連れと共に。
アリスはまた次の時間遡行に挑む。
本編では「アリスが元いた世界」での人類滅亡についてきちんと触れていなかったので、閑話という形でフォローしてみました。
っていうか本編では「AIに仕事を奪われて人類滅亡」だったけど、書き始めてから「国民全員に無条件でお金を支給するベーシックインカム」なる物がある事を知って、ベーシックインカム導入すれば人類滅亡しないんじゃね!? とか思ったので、ベーシックインカム導入しても人類滅亡するお話を書いてみました(何
ベーシックインカムも日本を始めとする最近の先進国の窮状を救い、税の再分配を適正化するにはいい政策だとは思うんだけど、財源をどうするとか抜け道はないかと考えるとなかなかに難しそうです。
どうでもいいお話をすると、最初のタイトルは「妄執世界の楽園〈ティル・ナ・ノーグ〉」でした。




