第三章その3
ナユタは朝食の席に招かれた。
やたらと広い部屋に、やたらと長いテーブルが置かれ、その両端にダルトンとナユタが座って朝食を摂っている。
しかし、ナユタの故郷の家の何倍もある部屋で、食事をしているのが二人しかいないのにこんなに距離が離れているのは正直、意味が解らないし、それぞれにメイドが澄まし顔で控えているのも一挙手一投足を見張られているようで落ち着かない。
ずっと離れた正面のダルトンが当たり前のような顔で食事をしているのを見ると、自分が田舎者である事を思い知らされる。
「どうだ? 美味いか?」
「え? は、はい! とても美味しいです!」
「そうか。それは良かった。うちの料理長の力作だからな」
このふかふかのパンは、ナユタが普段食べてる物とは使っている小麦の種類から違うに違いない。
「でも……なんか落ち着かないです……」
「そ、そうか……それはすまなかったな」
あ、しょんぼりしてる。
だけど毎日こんな風に食事をしているとしたら、寂しくないのだろうか?
そう言えばまだご家族の人には会ってない……。
「で? これからどうする?」
「え?」
「帰る家はないそうだが、しばらくならここにいてもいいし、昨日の酒場に戻りたいならそれもいいし、何だったら他の仕事を探させてもいいぞ?」
「………」
散々アリスとルイスに振り回されて、故郷の村で暮らす以外の選択肢をいきなり与えられても、正直、戸惑うばかりだ。
アリスとルイスがわざわざこうなるように仕組んだのがただの親切だとは思わないが、何を企んでいるのか解るはずもない。
ダルトンがくれる親切もありがたくはあるが、そうまでしてもらう価値が自分にあるとも思わないから、ただそれに甘えるのも違うと思う。
かといって、ただ村に帰ってこの状況を無駄にするのもやっぱりない話だ。
じゃあどうしよう? 自分らしい選択肢は……と考えると、それはひとつしかない。
「ダルトンさん、お願いしてもいいですか?」
「なんだ? 言ってみろ」
「ここで働かせて下さい」
え? と驚いたダルトンとその側に控えるドロシーの顔は見物だった。




