終章
ナユタは一人、足早に道を行く。
頼んでもいないのに、止めどなく涙が流れ落ちる。
足を動かしていないと心がばらばらに砕けてしまいそうだった。
思えばアリスと旅に出る前もその後も、一人になる事などほとんどなかった。
不安と寂しさが胸を締め付ける。
自分がどこに向かうべきなのか、自分が向かっている方向が正しいのかさえ解らない。
自分が何の力も持たないただの村娘に過ぎない事は、嫌という程に痛感している。
それでも……。
ナユタは足を止め、振り返る。
ついさっきまで側にいたアリスとルイスが、振り返る事なく歩くその背中が、今はものすごく遠い。
ああ、きっと長い間、ナユタには及びも付かない程の長い時間をそうしてきたのだろう。
人類の滅亡を避けるため、目の前で苦しむ人間を振り切って、後ろを振り返る事なく、ただ一心に歩み続けてきたのだろう。
そしてこれからもそうしていくのだろう。
自分にとってアリスと過ごした時間はすごく長く感じられるけど、アリスにとっては瞬きほどの一瞬なのだろう。
ほんの一時、一緒に過ごしただけの相手など顧みる価値もなければ、足を止めて振り返る時間さえ惜しいに違いない。
今はアリスの背中を、ただ遠くに感じる。
強くなりたい。
ナユタは思う。
強くなりたい。
自分の足で、アリスと同じ場所に立てるくらいに強くなりたい。
今はまだ、アリスの隣に並びたいのか、その前に立ちはだかりたいのか、それさえ解らない自分だけど。
強くなりたい。
ナユタはそれだけを強く願う。
そのためにどうすればいいのかさえ解らない。
それでもこの広い世界でただ一人、アリスと向き合うと決めたのだから。
どうしてもアリスに釘付けになってしまう視線を引きはがして、ナユタは歩き出す。




