第四章その4
「はあ……疲れた……」
役所からの帰り道、重い疲労を感じてナユタは呟きを漏らす。
結局、あれから遅くまで役所に留め置かれて、解放される頃にはすっかり日が暮れていた。
買い物の荷物もほとんど失い、その辺の屋台で軽く食事を済ませてアルバートと二人、並んで歩く帰り道だった。
「ナユタさん、もしよろしければ、これまで何があったか、話してもらえませんか?」
「う、うん……」
もうアルバートは巻き込んでしまった。
説明しない訳にはいかないだろう。
「最初は私の生まれ故郷の村が焼き出されていたのを、ナユタが助けてくれた事だったわ……」
ナユタはひとつひとつ説明していく。
アリスとルイスに導かれ、大きな街に来た事、酒場で働き、出会った領主のダルトンにメイドのドロシーや、様々な人達。
街が攻め込まれて滅び、また三人で旅に出た事。
そして辿り着いたのがラルダーン帝国。
まだ皇太子だったマティアスを助け、皇帝の地位に就く手助けをした事。
マティアスの姉ルイーザとの確執と、逃げるように帝都を後にして、辿り着いたのがこの魔法立国ルナルディンだった事……。
「まあ後はアルバートさんも知っての通り、かな?」
ナユタはそう締めくくる。
その思い出のひとつひとつ、思い出すと懐かしさに頬が緩んだり、あるいは胸を締め付けられて涙を零しそうになる事ばかりだ。
どれもが皆、昨日の事のように思い出せる、大切な思い出だ。
「……なるほど……つまり……ふむふむ……」
「あの……アルバートさん?」
「ああ、すみません。つい考え事をしてしまいました」
「いや、いいけど……」
「大変、興味深い話を聞かせていただきました。ありがとうございます」
「はあ……」
お礼を言われる程の事だろうか? とナユタは首を傾げる。
「色々と腑に落ちないところがあったのですが……ナユタさんが話してくれたおかげで疑問が解消されました」
「疑問……?」
「ええ、ラルダーン帝国の現状について」
「ラルダーン帝国の……現状?」
「新しい皇帝が即位した時には良くある事ですが、現在、ラルダーン帝国は国が乱れています」
「………」
「宰相を始め多くの役人や貴族が処刑され、姉のルイーザも姿を見せず、民衆は恐怖に戦いている、と聞きます」
「……え?」
ナユタは耳を疑った。
あの優しいマー君が?
そんな恐ろしい事を?
「まあそんな状況ですから、ナユタさんはラルダーン帝国には行かない方が良いでしょう。どんな目に遭わされるか解った物ではありませんから」
「………」
「大丈夫ですよ。明日からは兵士が家を警護してくれる事になりましたから。安心して私の家にいて下さい」
「で、でも……」
「ナユタさんの事は、私が守ります」
「う、うん……」
力強く言われると、何も言えなくなるナユタだった。
だけど……。




