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妄執世界のアリス  作者: 千里万里
第三部 産業革命の予兆
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第四章その4

「はあ……疲れた……」

 役所からの帰り道、重い疲労を感じてナユタは呟きを漏らす。

 結局、あれから遅くまで役所に留め置かれて、解放される頃にはすっかり日が暮れていた。

 買い物の荷物もほとんど失い、その辺の屋台で軽く食事を済ませてアルバートと二人、並んで歩く帰り道だった。

「ナユタさん、もしよろしければ、これまで何があったか、話してもらえませんか?」

「う、うん……」

 もうアルバートは巻き込んでしまった。

 説明しない訳にはいかないだろう。

「最初は私の生まれ故郷の村が焼き出されていたのを、ナユタが助けてくれた事だったわ……」

 ナユタはひとつひとつ説明していく。

 アリスとルイスに導かれ、大きな街に来た事、酒場で働き、出会った領主のダルトンにメイドのドロシーや、様々な人達。

 街が攻め込まれて滅び、また三人で旅に出た事。

 そして辿り着いたのがラルダーン帝国。

 まだ皇太子だったマティアスを助け、皇帝の地位に就く手助けをした事。

 マティアスの姉ルイーザとの確執と、逃げるように帝都を後にして、辿り着いたのがこの魔法立国ルナルディンだった事……。

「まあ後はアルバートさんも知っての通り、かな?」

 ナユタはそう締めくくる。

 その思い出のひとつひとつ、思い出すと懐かしさに頬が緩んだり、あるいは胸を締め付けられて涙を零しそうになる事ばかりだ。

 どれもが皆、昨日の事のように思い出せる、大切な思い出だ。

「……なるほど……つまり……ふむふむ……」

「あの……アルバートさん?」

「ああ、すみません。つい考え事をしてしまいました」

「いや、いいけど……」

「大変、興味深い話を聞かせていただきました。ありがとうございます」

「はあ……」

 お礼を言われる程の事だろうか? とナユタは首を傾げる。

「色々と腑に落ちないところがあったのですが……ナユタさんが話してくれたおかげで疑問が解消されました」

「疑問……?」

「ええ、ラルダーン帝国の現状について」

「ラルダーン帝国の……現状?」

「新しい皇帝が即位した時には良くある事ですが、現在、ラルダーン帝国は国が乱れています」

「………」

「宰相を始め多くの役人や貴族が処刑され、姉のルイーザも姿を見せず、民衆は恐怖に戦いている、と聞きます」

「……え?」

 ナユタは耳を疑った。

 あの優しいマー君が?

 そんな恐ろしい事を?

「まあそんな状況ですから、ナユタさんはラルダーン帝国には行かない方が良いでしょう。どんな目に遭わされるか解った物ではありませんから」

「………」

「大丈夫ですよ。明日からは兵士が家を警護してくれる事になりましたから。安心して私の家にいて下さい」

「で、でも……」

「ナユタさんの事は、私が守ります」

「う、うん……」

 力強く言われると、何も言えなくなるナユタだった。

 だけど……。

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