第三章その8
「……さん! アルバートさん! アルバートさん!」
激しく肩を揺さぶられて、アルバートは我に返った。
息が届く程の距離に、心配げに覗き込んでくる居候の少女の顔があった。
「アルバートさん、どうしたの? さっきから何回も呼んでるのに、気付かないみたいに上の空で……」
「ナユタさん……」
「大丈夫? どこか具合でも……きゃっ」
いきなりアルバートに手を握られて、ナユタは短く悲鳴を上げる。
「す、すみません、ナユタさん。しばらくこうしていてもらっても構いませんか?」
「え……? う、うん、構わないけど……」
ナユタの手を包み込むアルバートの両手があまりにも心細く縋り付くようだったから、断わる事もできずに受け入れる。
「ナユタさん、ナユタさん……あなたは今、ここにいるんですよね?」
「本当にどうしちゃったの……? うん、私はここにいるよ。確かに今、アルバートさんと一緒にいるよ」
戸惑いながら、それでもアルバートに優しく笑いかけるナユタ。
「私バカだからアルバートさんの苦しみは解らないけど……きっと疲れているのよ。ぐっすり休んで、美味しい物をお腹いっぱい食べれば元気になるわ」
「ああ、きっとそうですね。ナユタさんがいてくれて本当に良かった……ナユタさんがいてくれなかったら、きっと私は帰って来れなかった……」
アルバートの手に一層、力が込められる。
「私はここにいる……ナユタさんの側にいて、その温もりを確かに感じている……」
自分に言い聞かせるように呟くアルバート。
しっかりと手を握り合い、二人はしばらく温もりを分け合っていた。




